目指すは全盲夫婦ふたりで100都市ハネムーン

大平啓朗さんと妻
2024年5月、オーストラリアハネムーン旅。ブリスベン川沿いで

──「世界100都市ハネムーン」と銘打って、全盲の夫婦おふたりで各国をめぐっていらっしゃいますね。

 

大平さん:そうなんです。今のところ3回新婚旅行へ出かけて、5か国13都市を回りました。ずっとひとりで世界各地を旅してきたので、全盲がふたりになっても大丈夫だろうと思って始めました。でも、今までは守るものといえば荷物くらいでしたけど、今度は守るべきものが奥さんですからレベル違いの大変さでした。たとえば、街中や駅前など人が多い場所をふたりで歩いていたとして、10mも離れれば周囲のざわめきで相手を見つけ出せなくなってしまいます。楽しいだけじゃなく、楽しむためにどんな対策や気持ちが必要か。 「スマホ」「言葉」「盗難対策」「文化の違い」…このあたりのキーワードを大切にしています。旅は、どこへ行くか、何を食べるかも重要だけど、やっぱり「誰と行くか!」ですよね。「全盲だから、障がい者だから行かない、行けない、必ず健常者と一緒に」 という既成概念をぶち壊して、これからも自分のスタイルで大好きな旅を続けていきます。

 

ハネムーンのほかに「Happy wedding travel party」と題して、披露宴を日本各地10か所で開催しています。地元の北海道をはじめ、大阪、山形、東京、群馬、沖縄など、失明前も、失明後の友達もごちゃまぜで奥さんを紹介して回っているんです。パーティー会場も、友達がやっているカフェやレストラン、スナックなどさまざまで、余興の企画などは友達にもスタッフになってもらいながら、基本的には自分たちで企画しています。主役は僕らだけど、そこで過ごす時間を通して友達がつながってくれたらうれしくて。新郎新婦がケーキを食べさせ合う「ファーストバイト」は、大阪ではたこやきタワー、北海道ではポテトサラダの雪だるま、ほかにも味噌まんじゅう、サクランボ、コシヒカリのおにぎりなど、地域によって食べ物を変えて楽しんでいます。この1年、仕事や観光を含めると、夫婦で15都道府県は訪れているんじゃないかな。

 

大平啓朗さんと妻
2024年5月、オーストラリアハネムーン旅。ブリズベンでカンガルーと触れ合う二人

── 奥さんは今までと生活がガラリと変わったのではないですか?

 

大平さん:それはそうなんですけどね(笑)。でも好奇心旺盛なので、すごく楽しんでくれています。僕の奥さん・みっちゃんは、22歳の子どもがいて、今までは子育てや仕事であまり出かけられず、子どもが独立しつつあるタイミングで僕と出会ったんです。だから、旅や自分のやりたいことをする時間へとシフトしているところなんです。友達からは「そんなにいろんな場所へ奥さんを連れ回してかわいそうだよ」と言われることもあるのですが、実際は奥さんの方から勢いよく「次はどこへ行く?私はここへ行きたい!」と言われて僕がタジタジになっているくらいなんです(笑)。

 

── 常に精力的に活動し、新しい挑戦を続けていらっしゃいます。今後の夢は?

 

大平さん:今はまさに楽しい「100都市ハネムーン」の最中で、これからの拠点となる「住みたい街」も探しながら旅していきます。季節や活動内容、年齢に応じて住む場所を常に数か所持てるのが理想。そして健常や障がいに関係なく、「おいてけぼりゼロ」を目指したコミュニティの運営や、世界旅の曲をつくって音声ガイド、手話と字幕とダンスつきでパフォーマンスしながらの地球旅も目標。大好きなシンディ・ローパーに会いにニューヨークへ行きますし、全盲者だけの海外旅行は来年の秋に。こんなふうに「やること決定!」事項はいっぱいあります。夢を持つことも大事ですけど、「こうありたい」と思う自分でい続けることもマジで大切に。常に、似合うこと!好きなこと!わくわくアンテナをはりながら人生を楽しみます。

 

PROFILE 大平啓朗さん

おおひらひろあき。1979年北海道生まれ。24歳で失明後、約1年かけて47都道府県ひとり旅を制覇。全盲の旅カメラマンとして活躍し、訪れた海外は20か国を超える。2021年、自伝的フォトエッセイ『全盲ハッピーマン』を出版。2023年に全盲女性と結婚し、「世界100都市ハネムーン」を実践中。

取材・文/富田夏子 写真提供/大平啓朗