24歳で失明後、47都道府県を民泊だけでひとり旅、訪れた海外は20か国を超える全盲の旅カメラマン・大平啓朗さん(通称:おーちゃん)。一昨年結婚した相手も全盲で、今度はふたりで世界100都市を巡る旅に出ています。(全2回中の2回) 

1年かけて達成した47都道府県ひとり旅

── 大平さんは大学院時代に失明されますが、そこから5年が経ったころに47都道府県を民泊して回るというひとり旅を実施されました。これはどういった経緯で思いついたのですか?

 

大平さん:もともと旅行好きで、目が見えなくなる前に沖縄県以外の46都道府県はすでに回ったことがあったんです。でも当時は車を運転していたので、列車も含め通り過ぎただけの町がけっこうあって。失明後に思い浮かんだ旅は、訪問する数というより、その街に住む人たち、出会いの多い旅。だから今度はとにかく人に出会って仲良くなりながら、47都道府県を制覇しようと考えました。目が見える、見えないに関係なく、日本中に友達がいる人生って絶対に楽しいと思ったんです。

 

大平啓朗さん
2009年7月、47都道府県ひとり旅へ。沖縄県慶良間諸島で人生初のスキューバダイビングに挑戦

それと僕、失明して、「はっ!?」と思ったことがあって。それは、「困っているのは障がい者じゃなくて、どう接していいかわからない周りの人」なんじゃないかということ。障がい者のことをより知ってもらうために「宿泊はホテルじゃなく、一般のお宅だけ!」というルールを勝手に決めて北海道から沖縄に飛んだんです。2009年当時、SNSがまだそんなに発達していなかったから、本当に偶然の人と人との出会いでつながっていく旅。絶対に会えないような人に出会い、結果的にすごくかけがえのない時間になりました。今だったら、旅の目的をある程度明確にすれば、SNSの発信で、もっと楽に宿泊先を探したりできちゃうんじゃないかな。

 

── 旅のスタートは目が見えていた頃に唯一訪れたことがない沖縄からだったそうですね。

 

大平さん:はい。47都道府県を回るなら最南端から最北端へ、という気持ちがあり、旅ドラマのスタートは日本の最南端、波照間島。島に着いてまずしたことは、海水をペットボトルに入れること。なぜかというと、最終目的地に決めた日本の最北端・北海道の宗谷岬に最南端の海水を「ドボドボドボー」と混ぜたかったんです。特に意味はないんですけど(笑)、僕なりのロマンをもって旅を続けたかったんです。

 

念願の沖縄は、北海道の海で感じるホタテやイカ、昆布といった磯の匂いとは違って、南の島のやさしい香りがして、温度で感じた色は気持ちのいいスカイブルー!目が見えなくなってから初めて行った沖縄が大好きになりました。

 

── 宿泊先が決まっていない状態で、最初は手探りで大変だったのではないですか?

 

大平さん:本当に無謀でした(笑)。宿泊先については、沖縄と鹿児島には見つけていたのですが、3県目の宮崎で早々に行き詰まり、この時点で所持金は8000円、貯金は数百円。野宿も覚悟しながらあてもなく「障害者自立応援センターYAH! DOみやざき」という宮崎市の団体を訪ねて旅の目的と状況を説明しました。するとそこで「よかったらうちに泊まりませんか?」と言ってくださる方が現れたんです。さらに同じ日、その団体が僕との交流会を開いてくださり、参加者の皆さんが知人や新聞記者などあちこちに電話して、僕の旅のことを伝えたり、今後の宿泊先を探したりしてくれました。そこで、知人から知人へ宿泊先をつないでいくスタイルができて、一気に流れが変わりました。