大平啓朗さんが撮影した写心
2010年6月、47都道府県ひとり旅を達成後、旅の間1年間持ち歩いてきた沖縄の海水を北海道の海に入れた瞬間

── すべての都道府県を回るのにどのくらいかかったのですか?

 

大平さん:まるまる1年間です。というのも、一軒に一泊ではなく、ときには一週間泊めていただいたこともありますし、進んで戻って、何度も泊めていただいた家もあるからです。茨城にいるときに島根の方から「息子の誕生会をやるから来ない?」と呼ばれて戻ったこともあります。日本中に友達ができました。各地域では、子どもたちと触れ合う機会も多かったです。佐賀では不登校の子どもたちのキャンプに合流させてもらいましたし、徳島では児童養護施設の子ども達と一緒にごはんを食べて宿題をして、ひと晩泊めてもらいました。それぞれの事情を抱えた子ども、さまざまな地域性…、障がい者のことを知ってほしいと始めた旅だけど、逆に自分も知らないことだらけだと気づかされました。

 

そして最南端の島を出て366日目、最北端の宗谷岬でゴール!波照間島でくんだ海水は、各地で出会った人たちに見てもらった思い入れのあるものだったけど、ペットボトルのふたをはずし、海に流す時間は3~4秒であっという間。あっけなさと、次の段階へ行くときなんだな、という気持ちが入り混じりました。

 

── 旅先では、カメラで「写心(しゃしん)」を撮り続けていたそうですね。

 

大平さん:カメラは子どものころから大好きでよく写真を撮っていました。目が見えなくなって少し経ったころ、まわりの人たちが写真を撮る僕を見て「心でシャッターを切っているんだね」と言ってくれたので、ちょっと恥ずかしいんですけどみずから「写心家」と名乗っています。

 

大平啓朗さんが撮影したノルウェーのオーレスンの写心
2022年11月に撮った写心。ノルウェーのオーレスンで夕焼け海と港町を見下ろし夕日のあたたかさに感謝し桃色を感じた

── どういうときにシャッターを切るのですか?

 

大平さん:音や香り、温度や空気の流れなど、視覚以外の4感覚を通じて、頭の中に目の前にどんな風景が広がっているかを想像してシャッターを切ります。たとえば車の音、噴水の音、犬の鳴き声、人の声…そういったものから頭の中にドラマが浮かぶんです。この風景を誰かに見せたい、と思ったときにシャッターを切ります。もちろん、海外の旅先でも新たな感覚に感激しながら撮影しています。