体重30kg増で「視線恐怖症」に

看護師としてテレビ出演も経験した
桃果さんは看護師時代にテレビ出演も

── 当時はうつ病の薬の副作用もあって、体重が急増したそうですね。

 

桃果さん:もともとぽっちゃり体型ではあったのですが、1年後に体重を計ったら30kgも増えていました。自分でも見た目がすごくまるいと感じましたね。薬の副作用で食欲が増していたのでけっこう食べていましたし、何より動かなかったので仕方ないと思いますが、30kgとは驚きました。

 

── 服装はそのころどうされていたのですか?

 

桃果さん:看護学生時代も子どものころと変わらずカラフルな服を着ていましたし、メイクも派手でした。でもうつ病になって休学し、復帰したころから人の視線がすごく気になるようになり、カラフルな服が着られなくなったんです。学校へ行くと周囲でひそひそと「あの人めっちゃ太ってるね」「すごくデブじゃない?」と言っているのが聞こえてきて…。知らない学生でしたし、若いころのノリで言っていたんだと思うのですが、そういう声がたびたび聞こえるとだんだん気になってきて、ひそひそ話をしている人や、自分の方を見ている人がいるとすべてが悪意あるものに感じるようになりました。

 

実際は全部がそうではなかったと思うんですけど、当時は「誰もが私の悪口を言っている!」と思ってしまって、人前に出るときはなるべく目立たないように黒ばかり着るようになりました。ある日気づいたらクローゼットが真っ黒になっていて、あんなにカラフルな服が好きだったのに、と思ってショックを受けました。

 

いま思えば、社交不安障害の一種と呼ばれる対人恐怖症のなかでも、視線に恐怖を感じる「視線恐怖症」だったのではないかと思います。

 

── 視線恐怖症についても心療内科の先生に相談していたのですか?

 

桃果さん:していませんでした。視線恐怖症という言葉自体も当時は知らなかったですし、うつ病とは切り離して考えていました。当時の状態が視線恐怖症だったかもと思うようになったのは、ここ数年なんです。そうした言葉をよく聞くようになったのが最近のことなので。

 

桃果愛さん
パリで街歩きを楽しむ桃果さん

── 真っ黒なクローゼットから、再び自分の好きなファッションができるようになるまでは、どんな気持ちの変化があったのですか?

 

桃果さん:クローゼットが真っ黒だと気づいてからこれではダメだと思い、以前のように自分の好きな色、デザインの服を買って着るようになりました。最初は、またなにか体型のこと言われないかと怖い気持ちがあって勇気がいりましたし、実際に外で体型のことを言われて嫌な思いもしました。

 

でもその人たちは自分に関係ない人たちだし、自分のことを大切にしてくれる人とだけつき合えばいいと自分で言い聞かせていくうちに、なにか言われたとしてもあまり気にならなくなりました。そもそも人にどう見られるかではなく、自分がどうしたいかを優先して考える思考に徐々にシフトしていったので、周りの目もだんだんと気にならなくなったんだと思います。

 

今では外で視線を集めたとしてもまったく気になりませんし、むしろ注目されるほどの魅力的な個性があるのかなとポジティブに考えられるようになりました。

 

── 考え方が変わっていったのですね。大学は無事に卒業できたのですか?

 

桃果さん:はい。大学を卒業するころには人の視線はあまり気にならなくなっていたと思います。卒業式も目立つ袴を着ましたし、そのときに人の目線が怖いとも思いませんでした。卒業するころにはうつ病の症状もほとんどなく、病院に看護師として就職しました。その後、看護師とモデルの両立生活が始まったんです。

 

PROFILE 桃果 愛さん

ももか・あい。1986年大阪府生まれ、熊本県育ち。看護師をしながら日本初の「プラスサイズモデル」活動を開始。2017年にプラスサイズ専門のモデル・タレント事務所「GLAPOCHA」を設立し、モデル・タレントの派遣事業に加えて企業とのコラボ商品開発にも取り組む。現在はジェンダーレスや外国人など多彩な個性のモデルを含め約80名が所属するグローバルモデル・タレントエージェンシー『株式会社W IMPACT』の代表取締役社長。2023年パリ・ファッションウィークへの参加を皮切りに、ミラノ、ロンドン、ニューヨークのショーに参加。国内、海外問わずに活躍の場を広げている。

 

取材・文/富田夏子 写真提供/桃果愛