当時の子どもはネガティブな私の写し鏡のようだった
── ご自身の経験を活かしてブランドを立ち上げられて、やりがいを持ちながらお仕事をされているのが伝わります。
山崎さん:いっくんの支援に関わってくださっている人たちや会社の人たち、cocoeを通じて出会った親御さんたちのおかげで、一つひとつの仕事を大切にし、人の役に立ちたいとより強く思えるようになりました。いっくんのお母さんになってなければ、仕事に対してここまでの気持ちは持てなかったかもしれません。
── お仕事について語る山崎さんは生き生きとされています。でも、障害児の育児とお仕事の両立は大変ではないでしょうか。
山崎さん:出産後は、預けられる時間の短さや度重なる入院など、働き続けることが難しいかもしれないと悩んでいました。でも、時短制度や当時は珍しかったテレワークなど、私も働き続けられるよう職場環境を整えて迎えてくださったんです。ここでも「私はひとりじゃない」と感じました。
ブランドを立ち上げるにあたって、私と同じように悩み苦しんでいる、障害者のお子さんや健常者を育てる親御さん100人以上に会い、インタビューを重ねた経験も、くじけそうなときの大きな支えになりました。
仕事は、私の生きがいのひとつです。周囲への感謝の気持ちが強いからこそ、自分の仕事も頑張りたい。いっくんが産まれた当初は、母親や妻という役割や、将来の不安と孤独感に押しつぶされそうでした。そんな親の気持ちは、やっぱり子どもに伝わるんですよね。具合が悪くなったり、すぐにぐずったり。当時のいっくんは、ネガティブな私の写し鏡みたいでした。
私がもし笑顔で過ごせていたら、赤ちゃんのころのいっくんの笑顔をもっと見られただろうなと今でも考えることがあります。だからこそ私は、障害児の親の笑顔を増やせるような、「ひとりじゃないよ」と寄り添える商品をこれからも作っていきたいです。
PROFILE 山崎絵美さん
やまさき・えみ。地元企業のポスターやチラシの印刷やデザインを手掛ける株式会社トレンド(島根県松江市)の社員。3人きょうだいの母親で、2015年に産まれた末っ子の生翔くんには重度の知的・身体障害がある。2021年に障害児の親に寄り添うためのブランド「cocoe」を社内で立ち上げ、育児ノートやベビーカー・バギー用の車いすマークホルダーなどを開発。障害児の親に寄り添う商品開発を続けている。
取材・文/桐田さえ 写真提供/山崎絵美