「気持ち悪くて美味しい」秘けつは
── 怪奇菓子一本で生計をたて、女手ひとつで育ててくれているお母さんですから、娘さんもきっと自慢でしょう。ところで、娘さんのお弁当に入っていた目玉ゼリーですが、何でできているんですか?みずみずしくてリアルすぎて、気持ち悪いです(笑)。
ナカニシさん:原料は、おもに寒天と乳酸菌飲料です。いろんな人が目玉を作っており、それぞれ作り方が違うのですが、私と同じ作り方をしている人は見たことがありません。工程を変えると、リアルさが半減したり、1個1個違う大きさになってしまいます。本当に、めちゃくちゃ試行錯誤を繰り返しています。
── 乳酸菌飲料の味がする目玉とは、意外にさわやかです。見た目のリアルさや気持ち悪さと、おいしさを両立しているのがすごいですね。また、指クッキーは、爪際のドロっとした血が気持ち悪さを増幅しています。
ナカニシさん:爪はピーナッツですが、とれやすくて困ったなぁと、たまたま家にイチゴジャムがあったので塗ってみたら 「ホラーやん!」と気づきました。商品にはカシスジャムを使っています。
── 毒毒しく見えても、着色料は極力避けていますね。基本的な質問なのですが、ナカニシさんは怖いもの好きなんですよね?
ナカニシさん:いや、子どものころは夏の怪談っぽいアニメも見られないくらい怖がりでした。変わったのは、アメリカに語学留学したときかな。映画を見て会話を勉強しようとしたのですが、ふつうのドラマだと会話が多すぎて理解できませんでした。でも、B級ホラーだとあまり会話が多くないので私でもついていける。いや、英語の勉強になっているんだかって感じですけど(笑)。ホラー映画を見続けているうちに、好きになっていました。
── ナカニシさんは、ホラーが苦手な人の気持ちもきっとわかるんでしょうね。これだけ人気が出ると、もっと大量に作って販売、と考えたことはありませんか?
ナカニシさん:じつは、自販機1台目を稼働した際、本当に忙しくて、短期間だけ2人の方に手伝ってもらったんです。でも、どんなに伝えても、私が作ったお菓子とはどこか異なり、「これを売るのはちょっと違うな」と感じて。いろんな人に相談したら「社長として経営するなら、そこは我慢しないといけない」と言われたんですが、私にとってはちょっと違うから、やめようと思いました。やっぱり、自分で作るのが好きなんです。
── 本質的に職人なのかもしれませんね。怪奇菓子がもっと広がればという気持ちと、おひとりで作ることのできる量のバランスでしょうか。
ナカニシさん:話題になるのはうれしいのですが、あまり、バーっと流行らないでほしい気持ちもあります。盛り上がると、いずれ下がっていくものです。もともとアンダーグラウンドなものを地道にやっていこうと始めたので、職業としてやっていくには、コンスタントに続けるのが一番だと思っています。今後もこのペースで続けて、いつか新しい大阪土産の定番になればいいなぁと思います。
PROFILE ナカニシア由ミさん
なかにし・あゆみ。大阪府豊中市在住。「中西怪奇菓子工房。」工房長。短大卒業後ニューヨークへ渡米。趣味のホラー弁当作りを経て、2014年に怪奇菓子職人として独立。
取材・文/岡本聡子 写真提供/ナカニシア由ミ