そんな自分が世の中を語るのは「ちょっと違う」と

── インプットを大事にされているのですね。

 

武田さん:フリーランスは、自分自身の全てが「資産」です。何を感じ、どんな言葉を発するのか。すべてが問われますから、常に自分自身を高めていかなくてはいけないなと。そのためには、いろんなものに触れ、刺激を受けることがとても大事だと思っています。

 

── フリーに転身後、夫婦で個人事務所を立ち上げられました。てっきりどこかの芸能事務所に所属されるものかと思っていたので、少し意外でした。

 

武田さん:たしかに、大きな事務所に所属してマネジメントをお願いしたほうが、仕事を受ける際もスムーズですし、余計なことに気をとらわれず、現場の仕事に没頭できると思います。ですが、あえてそれはしたくなかったんです。

 

ずっと会社員として働いてきて、自分の仕事を自分ですべて管理するという経験もしないまま一生を終えるのはどうなんだろうと常々疑問に思っていました。税金の計算や経理の処理にしても、世の中で商売をしている方は皆さん普通にやっているのに、自分はいっさいやったことがないし、やり方もわからない。そんな自分が世の中のことを語るのは「ちょっと違うな」と。それは、退職前に担当した大阪のニュース番組で、地域の町工場や商店の皆さんを取材するなかで抱いた思いでした。ですから、大変な道のりになるのはわかっていたけれど、それも含めて、すべて経験してみようと考えたんですね。

 

── 実際、経営をやってみていかがですか?

 

武田さん:おもしろいですよ。簿記も何もわからない状態でしたが、会計ソフトを使いながら、ネットで調べたり、知人に聞いたりしながら試行錯誤で取り組み、今ではバリバリこなせるようになりました(笑)。学校に行って教えてもらうのではなく、ああでもない、こうでもないと、壁にぶつかりながらやっていくことで、世の中の人が感じているものが「たしかな実感」として理解できるようになりました。

 

── すごいバイタリティです。言葉にもより説得力が生まれますね。

 

武田さん:定額減税の経理処理なんかも自分で計算しながら、「いちいちこれを打ち込まなきゃいけないのか。誰が考えたんだ!」と怒りがわいてきて。皆さんが怒っている理由が腑に落ちました。こうした一つひとつのことを身をもって経験していくことが、今の自分にとって、すごく大事なことだと思っているんです。

 

PROFILE 武田真一さん

たけた・しんいち。1967年、熊本県生まれ。筑波大学卒業後、1990年にNHK入局。『ニュース7』『クローズアップ現代+』や『紅白歌合戦』の総合司会などを担当し、2023年2月に退局。フリーに転身後は、情報番組『DayDay.』(日本テレビ)のMCとして出演中。

 

取材・文/西尾英子 写真提供/武田真一