障害をもつ3人の子を支える母の涙
── 精神疾患は、本人がつらいのはもちろん、支える側の負担も大きいです。共倒れにならないためには、支える側をサポートする仕組みも大事ですね。
中野さん:精神に障害を抱える方は、ご家族のフォローなしでは生活するのがなかなか難しいのですが、支える側が背負い込んでしまうと共倒れになってしまうことも。そうなると、本人も「家族を苦しめている」と罪悪感を抱えてしまいます。
ですから私たちは、支える側のサポートである「家族支援」をすごく大切に考えているんです。利用者さんのご自宅に伺うときには、ご家族の表情や家のなかの様子も意識して観察しています。いつもと様子が違うなと思えば、「お疲れの様子ですが、昨日は寝られましたか?よければ、お話聞きますよ」などと声をかけるようにしています。患者さんご本人の訪問時間の範囲内で、ご家族のケアをすることもありますし、医師からの指示書に「本人とご家族に支援が必要」と書かれていれば、訪問看護師が2人で伺い、それぞれのケアをします。
──「つらいけれどSOSを出せない」というケースも多そうです。
中野さん:そうなんですよね。障害のある3人のお子さんをワンオペで見ているお母さまがいたのですが、最初は気丈に振る舞っていたものの、何度かお話しするなかで、「もう、しんどい…。どうしたらいいかわからない」と号泣されて…。「自分が頑張って支えないと」と思い込んで救いの手を求めることができなかったり、「いったん気持ちを緩めてしまったら頑張れなくなる気がする」と歯を食いしばって耐えてしまう方も。ですが、支える側の心が健やかでないと、お互いにとって悲しい結果になってしまいます。頼れるところはどんどん頼って、自分の心も大切にしてほしいです。
── たとえば、「こころが不安定だから話を聞いてもらいたい」といった場合でも、相談にのってもらったりできるのですか?
中野さん:精神疾患の診断がでていない方には、オンラインや電話で無料相談も行っているので、お悩みやお困りごとを話していただければと思います。状況を伺いながら、その方の場合はどこに行ったらいいかといった提案もできますから、SOSを出すきっかけとして利用してほしいですね。
「しんどい」の基準は、人それぞれ違います。他人にとっては些細なことでも、自分にとっては大きな負担に感じる場合も。ですから「この程度でしんどいとか、SOSを求めるのはおかしいかな」などと思わないでほしいです。各自治体で、専門家の無料相談をやっているところはたくさんありますから、そうした場所を活用するのもひとつの手です。できれば、悩みのたねがある程度小さいうちに、相談できるところに頼ることをお勧めします。
PROFILE 中野誠子さん
なかの・せいこ。1980年、熊本県生まれ。高校卒業後、精神科の看護師として5年勤務。その後、重症心身障害児施設、看護学校の教員を経て、訪問看護ステーションで働く。2022年7月に仲間と共同で「Make Care」を創業し、代表取締役社長に就任。同年11月、大阪市内全域を対象に、精神科に特化した訪問看護ステーション「くるみ」を立ち上げ、運営。
取材・文/西尾英子 写真提供/中野誠子