2022年11月、全国的にもめずらしい精神疾患を専門にした訪問看護ステーションが大阪に誕生しました。代表の中野誠子さんと共同経営者である2人には、意外すぎる共通点があるそうで ──。(全2回中の2回)

共同経営者の3人は「ミスチルの推し活仲間」

訪問看護ステーション「くるみ」の創業メンバー
起業した3人でミスチルのライブに参戦したときの一枚。右から石森さん、中野さん、濱脇さん

── 3人の仲間と共同経営で、精神疾患を専門とする訪問看護ステーションをスタートされました。3人は、Mr.Childrenの「推し活」仲間だそうですね。

 

中野さん:そうなんです。共同代表を務める濱脇とは、もともと20年来の看護師仲間で労働組合で知り合ったのですが、お互いミスチルの大ファンということで意気投合しました。もうひとりのメンバーである石森は、IT企業の経営者で10年前に参加したミスチルのオフ会が最初の出会い。以来すべてのツアーに3人で行くほど気の合う仲間です。1回のツアーで7回ライブに行ったり、全国遠征もする、かなり濃いめのファンですね(笑)。

 

10年間ミスチルの歌を通じていろんなことを語り合っていると、それぞれが何を大切にしているのか、価値観がわかってきます。コミュニケーションの量が多く、なんでも本音で言い合ってきたので、かなり深いところで互いを理解しあえていると思っています。
じつは、事業所名の由来もミスチルの名曲から来ているんですよ。

 

──「くるみ」でしたよね?

 

中野さん:起業を決めた後、3人で福岡のツアーに行ったのですが、ライブが終わった時、3人ほぼ同時に「社名、決まったね」と。まさに私たちの思いをあらわしたような楽曲が『くるみ』でした。今もミスチルの曲を職場でよく流していますし、会議室にはツアーグッズも並べてあります(笑)。

 

訪問看護ステーション「くるみ」の創業メンバー
事業所の前で

「しんどい思いをして頑張るくらいなら」と起業を勧められ

── 心をひとつにできる「何か」があるのは、チームとして強いですね。そんな3人が、どんなきっかけで一緒に起業することになったのでしょう?

 

中野さん:3人で飲んでいるとき、看護師仲間の濱脇とお互いの職場のグチを言い合っていたら、「そんなしんどい思いをして頑張るくらいなら、辞めて起業したらどう?」と石森に言われて。最初は「まさか自分が起業なんて」と思っていました。人の上に立つことが苦手で、管理職の打診をされるたびに逃げ回っていたくらいです。

 

── 管理職をかたくなに拒んでいた理由は…?

 

中野さん:管理職になるとマネジメントの仕事が増えて利用者さんと関わる機会が圧倒的に減ってしまいます。現場の仕事から離れるのが嫌だったんです。認定看護師の資格を取ったのも、もっといい看護を提供したいという思いからでした。

 

訪問看護の現場での中野誠子さん
訪問看護の現場での中野さん

── それほど人の上に立つことが嫌だった中野さんが、起業に踏み出せたのはなぜですか?

 

中野さん:IT経営者だった石森の存在が大きいです。もともと自己肯定感が高いわけではないので、「私なんかが社長で大丈夫かな」と、自分のなかのハードルを越えるのが少し大変でした。ですが、石森が看護や医療について、短期間でかなり勉強してくれて、「3人ならできると思う」と緻密な事業計画書を作ってうながしてくれたので、踏み出すことができました。看護師って「自分が頑張ればいい」という奉仕精神で仕事をしがちですし、ビジネスやお金にも疎い。でも、石森が経営や経理などのバックオフィスをすべて担ってくれるので助かっていますね。彼がいなかったら、「こんな医療サービスを実現したい」という夢物語で終わっていたでしょうから。

 

── 仲間と起業するとぶつかることもあると思います。そんなときはどうされていますか?

 

中野さん:毎晩ミーティングをしているのですが、意見がぶつかってケンカになることもありますし、耳の痛いことを言われることも。でも、相手に対する信頼と尊敬があるので、「この2人が言うことなら、素直に聞いてみよう」と思えるんです。たとえ意見がぶつかったときでも、ある程度、納得できるまで話し合いをして、モヤモヤを持ち越さないようにしています。3人の役割が明確に異なるのも、うまくいっている理由のひとつでしょうね。私は現場の看護師兼スタッフの教育係、共同代表の浜脇は、看護師兼スタッフの管理やマネジメント、石森は経営や経理と、それぞれの専門スキルを活かして働いています。

 

訪問看護ステーション「くるみ」の創業メンバー

── 利用者の方と向き合うときに、心がけていることはなんでしょう?

 

中野さん:看護師が患者さんを見ているのは、せいぜい30分くらいです。なので、私たちが知っているのは、その方のごく一部だということを認識し、わかった気にならないということを常に頭に置いています。一番近くで見ているご家族やヘルパーさん、ドクターとの連携を取りながら、本人の意向を聞いて、何をすべきかを常に考えるようにしていますね。