「自分は本当にダメな人間」という思いも

インティマシーコーディネーターの浅田千穂さん
プライベートでは小学校高学年の女の子のお母さんでもあります

── そういった浅田さんの人を思いやったり、人の立場に立ったりする目線が素敵だなと感じています。どうしたら養うことができるでしょう。

 

浅田さん:そんなふうに言っていただけるだけでありがたいです。私は失敗するし、こんなんじゃ全然ダメだと落ち込むこともあるので…。ただ、いろいろな人生経験はしてきたので、その影響はあるかもしれません。それこそ留学中も、どう周囲の人とうまくやっていくかとか、今思うと頑張っていたなと思うんですよね。あと、フリーランスで通訳の仕事をしてきて、妊娠・出産後に仕事が急に減ったり、いろんなしんどい経験もしてきたので、そのぶん人の痛みがわかるのかもしれないですね。

性に対する考え方は常にアップデート

── 最近は、LGBTQ+インクルーシブディレクターと一緒にお仕事をするケースも多いと思います。特に日々考え方のアップデートを迫られている分野かと思いますが、ご自身ではどのように意識されていますか。

 

浅田さん:勉強はしているつもりですが、それで十分とも思っていないです。自分では差別をしていないつもりでも、今まで自分に蓄積されてきた考え方が不本意な形で出てしまうことはゼロではないので。私自身も、日本での異性愛規範が染みついてしまっているな、と感じるところは多々あります。でもだからといってLGBTQの方と関わりを持たないとか、それに関して発言しないのではなく、常に自分も考えをアップデートしつつ、間違えたら謝る。その繰り返しなんだろうなと思います。

「お母さんは好きな仕事をしているんだよ」と伝える

── 現在、小学校高学年の女の子のお母さんでもありますが、育児と仕事との両立で工夫していることはありますか。

 

浅田さん:自分が仕事と育児を両立できていると思ったことは実は一度もなくて。子どもに負担をかけまくっていると思っています。夫婦ともに時間が不規則な仕事をしているので、遅い時間までどこかに預かってもらったり、友人の家にお泊まりに行かせてもらったりすることもあります。

 

彼女は3歳からそんな生活で、最初は普通に楽しみで友人の家にお泊まりに行っていたんです。でも、どこかのタイミングで「私は預けられてるんだ」とわかったようで。それで「行きたくない」と言われたわけではなく、両親のことを理解してくれて、今でも友人宅で楽しく過ごしています。どうして預かってもらっているのか、ということは理解してもらおうとは心がけているので、通じているのかもしれません。

 

「お父さんとお母さんは、大好きな仕事をしている。それを理解してほしいし、あなたが好きなことを頑張るんだったらいくらでも応援する」ということをいつも伝えています。

 

ストレッチの道具
クラシックバレエを習っている娘さんとの自宅でのストレッチタイムが大切なコミュニケーションの時間に

── 娘さんにご自身のお仕事についてはどうお話していますか?

 

浅田さん:どのタイミングできちんと話そうかと思っていたんですが、ネットで調べたりして、なんとなくは知っているみたいです。本当の意味はわかっていなくても「インティマシー・コーディネーターとは~」とか言い出したりするので(笑)。いちおう、私から彼女には「私は映画や舞台のお仕事をしていて、俳優さんたちが嫌なことをさせられないように、不安がなくお芝居ができるような仕事をしてるんだ」ぐらいの説明にとどめてあります。

 

とはいえ、高学年ですしそろそろ性教育も始まります。性教育のわかりやすい本は本棚に入っているので、よきタイミングで話そうかと。改まって伝えると、彼女も緊張してしまうかもしれませんね(笑)。

 

── 今年3月から後進の育成もスタートされたそうですね。国内で活動しているインティマシー・コーディネーターはわずか2名だそうですが、人材不足を感じていますか。

 

浅田さん:そこが難しいところで…私は基本的にスケジュールを理由に仕事を断ったことがないんです。すごく大変な仕事だけれど、なんだかんだで2人でこなせている状況があります。とはいえ、今後需要は確実に増えてくる仕事だとは思います。私は教えるという立場をとった以上、その人たちがトレーニングを受けて資格を取ったら、ある程度安定して働けるようにしないといけないという思いでいます。

 

PROFILE 浅田智穂さん

あさだ・ちほ。1998年ノースカロライナ州立芸術大学卒業。帰国後は通訳として従事。2020年、IPAにてインティマシー・コーディネーター養成プログラムを修了。Netflix映画『彼女』で日本初のインティマシー・コーディネーターとして作品に参加した。

 

取材・文・撮影/市岡ひかり