「自分も履きたい」リンパ浮腫に悩む人のストッキングを開発

審査途中から、この新規事業に関して社内で心強いパートナーを得ました。パートナーは、水田さんが新卒入社したときの採用担当者であり、社内でがんなどの重病を患った人の治療と就労の両立支援制度を立ち上げたことのある齋藤明子さん。経営承認後は週1〜2日を新規事業に充てる必要がありましたが、水田さんたちの取り組みの重要性を理解し、元の部署の仲間たちも応援してくれました。

 

「2人で議論を重ね、がん患者・サバイバー対象のなかでも、リンパ浮腫の方向け商品をメインで提供することにしました。しかし、社内に医療用弾性ストッキングの開発経験はなく、医療機器ゆえの厳しい基準もクリアしなければなりません。症状も各自で異なるため、多くの当事者から話を聞きました」

 

そして生まれたのが、デザイン性を兼ね備えた医療用弾性ストッキング『MAEE(マエエ)コンプレッションストッキング』(※)です。

 

MAEEの着圧ソックス(コットンリブタイプ)

「『MAEE』のストッキングは、リンパ浮腫の方を対象にECサイトや病院などで販売。当事者や医療従事者からも高い評価を受けています。

 

2023年からは、日常のむくみ対策に誰もが使える着圧ソックスを発売。一般医療機器を取得した本格派ながら、ファッション性が高く、大手セレクトショップでも扱われています。産前産後、下肢静脈瘤、立ち仕事や長時間の移動など、様々なシーンでのむくみケアに愛用者が広がっているそうです。

 

「もともとは病を持つ方に向けてスタートしましたが、そこから広く老若男女に愛用されるブランドを目指しています。 医療用ストッキング開発で得た『身に着けるもので、からだの状態を良くする』というアプローチで、ファッションを楽しみながらヘルシーに過ごす提案を届けていきたいです」

 

「病気を糧に起業」ときくと、パワフルで意志の強い女性を想像しがちですが、水田さんの場合は、「気づいたら、こんなことになっていました(笑)。思いがけない展開です」と、良い意味で肩の力が抜けています。

 

ブランド名の『MAEE』は「使う方の気持ちや行動を前へ進めるきっかけになれば」という想いがこめられています。水田さんたちは世界への発信も視野に入れています。

 

PROFILE 水田悠子さん

みずた・ゆうこ。東京生まれ。2005年(株)ポーラに入社し、販売現場や、新商品の企画開発を経験。2012年29歳のときに、子宮頸がんを罹患。1年あまり休職して治療に専念した後、同職場に復帰。2018年よりグループ内のオルビス(株)に異動後も商品開発に携わる。2020年5月、ポーラ・オルビスグループより(株)encycloを創業。

 

取材・文/岡本聡子 写真提供/水田悠子、(株)encyclo

※「MAEE」の正式表記は、2番目のEの上にアクセント記号がつきます。