留守番電話の履歴が「桂由美」でびっしり
── 最後に会話を交わしたのは、いつだったのでしょうか?
山本さん:亡くなる前日ですね。先生は出張中だったのですが、電話がかかってきて、「『徹子の部屋』のオンエア日って、いつだっけ?」と聞かれたんです。でも、私は言わなかったんですよね。
── なぜですか?
山本さん:メディアのお仕事は情報解禁日があるので、マネージャーとしては、その取り扱いには注意しないといけないのですが、先生の場合、サービス精神が旺盛で、なおかつ素直で無邪気な性格なので、人から聞かれると、つい嬉しくなって、どんどんしゃべっちゃうんです(笑)。しかも、いつも通話をスピーカーにするので、周りに人がいるかを確認してから話さないといけないんです。だから、「先生に話すと全部しゃべっちゃうので教えません!」と言い合いをしたことも(笑)。
何か思いついたり、聞きたいことがあると、すぐに私に朝、夜、またお正月も関係なく電話をかけてくる“電話魔”でもありましたね。留守番電話の履歴が「桂由美」でびっしり埋め尽くされることも(笑)。
── 聞けば聞くほど、“お茶目な方”という印象です。
山本さん:少女のようなところがあって、憎めないんですよね。人を喜ばせるのが大好きな人なんです。あれほど有名な方ですから、外出する時は、誰かが同行すると思うじゃないですか。ところが、どこに行くのもひとりでタクシーに乗って出かけちゃうんです。メディアの仕事だと、私が同行するのですが、そのほかは、基本的に単独移動でした。
── てっきりおつきの方が、何人も同行されているのかと思ってました。でも、なにかあるといけないと、心配しますよね。
山本さん: そうなんですよ。高齢ですから転んだりするのも心配ですし、先方にも気をつかわせてしまうので、「誰かつけた方がいいですよ」と伝えるのですが、「人が一緒だと待たせてしまって悪いから」と。社用車を使えばいいのに、「運転手さんに待っていてもらうのが嫌なの。気をつかっちゃうから」って言うんですよね。大御所だから、どうしてもみんな構えちゃいますけれど、本人はいたってフラットで人との垣根がないんです。
ひとりで自由に過ごすのが気楽だったようで、最後までひとり暮らしでした。もちろんお手伝いをする方はいましたが、基本的に自分のことは自分でやっていましたね。朝起きると、自分の御飯よりも先に、飼っていた犬の御飯の準備。そのあとで、自分の食事の支度。凝ったものを作るというわけではなく、その日、“冷蔵庫にあるものでパパっと作って食べるのよ”と、言っていましたね。
楽しい思い出だけを残して、あまりにも“パッ”といなくなってしまったので、正直まだ、亡くなった実感が湧かないんです。ただ、私にできるのは、桂由美という素敵な女性のパーソナルな魅力を伝えていくことじゃないかなと。それが自分にできる恩返しだと思っています。
PROFILE 山本由美子さん
やまもと・ゆみこ。東京都出身。山本文郎さんと結婚後、テレビ業界にて旅番組やバラエティなど各方面で活躍。ブライダルデザイナー桂由美さんのサポートや飲食業と幅広く活動中。
取材・文/西尾英子 写真提供/山本文郎事務所