「バラエティ番組はスケートより難しい」と感じて

── 芸能界に入ってからのことも聞かせてください。

 

高橋さん:引退後も表現を続けたいと思っていたので、松竹エンタテインメントの芝居のワークショップを受けさせてもらったりして、表現者になりたい、俳優さんになりたいと思っていました。ただ、スケート仲間のみんなからは「バラエティ番組に出たら絶対いいと思うよ!変なキャラしてるから!」と言われていて(笑)。そのときは「ふーん」という感じで聞き流していたのですが、いざ機会をいただいてバラエティ番組に出てみたら、とても楽しかったんです。

 

引退後は何をしても悔しい思いをしたことがなくて、競技人生で精神が強くなったんだと感じていたのですが、収録の前日は不安になって胸がはち切れそうになるし、努力したらたまに評価してもらえるし、努力を怠るとすぐにバレてしまうし…。バラエティ番組ってスケートより難しくない!?という驚きと、生きている!という実感から、バラエティ番組への出演がすごく好きになりました。

 

── 出演番組はご覧になりますか?

 

高橋さん:自分へのご褒美と反省を兼ねて、1番組につき、計8回見ます(笑)。1回目は、家族全員で集まって見ます。あとは、自分だけに注目して見る、自分を他人だと捉えて見る、収録を思い出して見る、という感じで、いろいろな角度で確認しています。

 

自分中心で見ているときは私が活躍しているように感じても、別の人として私を見ていると「超うざい」とか「うるさい」と感じるときもあって。編集後のオンエアを見ると、私が別の出演者の話に被せたせいでそのお話がなくなって迷惑をかけていたこともあったので、すごく反省しました。私はまだまだタレントとしては新人で、視聴者の方々は私ではないタレントさんを見ていると思うので、気をつけようと心がけています。

 

── ご家族が意見をおっしゃることはありますか?

 

高橋さん:放送後は「衣装がかわいかったよ」、「笑顔がよかったよ」と言うぐらいで、基本的には全然ないです。でも、言葉使いが丁寧ではないときは、「その話し方だと、目上の人に対して尊敬していないように捉えられるかもしれないよ。本人に対しても見ている人にとっても失礼だよ」という指摘を父から受けることはしょっちゅうあります。

 

── 現役時代のご両親も、同じような眼差しだったのでしょうか?

 

高橋さん:母は、1回も「オリンピックに出なさい」とか「1位を取りなさい」と言ったことがなくて、ただ楽しくやっていればいいという感じでした。失敗すると私が悲しむから嫌だし、成功したら私が喜ぶから母も喜ぶというような感じで、毎日スケートを見ていたのに、いまだにジャンプの種類もあまり覚えていないくらいだと思います(笑)。

 

父はとてもポジティブな性格で、「成美はオリンピックに行けるに決まってるよ」とか「成美ができなかったら、世界中の誰もできるわけがないよ」というような声をかけてくれていましたね。

引退後はエゴサーチをするようになって

── SNS上のコメントを目にすることもありますか?

 

高橋さん:選手のころは、両親から「SNSを見ないほうがスケートのためになる」と言われていたので、何も見ていなかったんです。でも、引退後はめちゃくちゃエゴサーチをしています。

 

最初のころは何でも鵜呑みにしていて、ほめられると嬉しいけれど、「声が嫌だ」と書かれていると、声を直さなきゃと思ってボイストレーナーさんに「どうやったら声が低くなりますか?」と相談することもありました。「生理的に無理」と書かれていると、どうやって直すんだろうと思って「生理的 無理 解決法」とインターネットで検索したこともあります。

 

でも今は、何人もの人が言うことはだいたい自分でも課題だと感じていることが多いので、努力するべきものを見つけたなという形で捉えていますし、信頼しているマネージャーさんが優しくコメントをくれるので、あまり気にならなくなりました。

 

もちろんマイナスなコメントを見た瞬間は「うわー!最悪…」と落ち込むのですが、SNSの意見も全部を聞くわけではなくて、自分も変えるべきだと思うことをヒントとしてもらっているかなという感じです。

トレーニングに励む高橋さん

── インスタグラムでは、今夏出場予定の北海道マラソンに向けて、トレーニングをしている様子もアップされています。

 

高橋さん:最初は、マラソンなどの走る系の番組に出演したくて練習を始めました。でも、頑張っている人の周りに人って寄ってきてくれるじゃないですか?私もそのパターンで、どんどんランナーさんやランニングコーチが協力してくれるようになって、一緒に歩んでくれて。ランニングを始めたときはフルマラソンまでは目標にしていなかったのですが、皆さんのおかげで目指せる力がついてきたので、チャレンジしようと思いました。

 

── 今後の目標と、ほかにもチャレンジしてみたいお仕事があれば、教えてください。

 

高橋さん:今後は、選択する人生を歩みたいです。利害などで判断するのではなく、そのときにやりたいことを全力で取り組んでいきたいと思っています。将来はスポーツ庁の長官になって、体育の授業でもスポーツ自体の魅力を感じられるような形にしたいです。テレビで私を見たときに笑顔になれるような、勇気を与えられるような、何かのきっかけになるような存在にもなりたいです。

 

あとは、ニュース番組などで気象について伝えるお仕事もやってみたいので、つい最近、気象予報士アカデミーに入りました。これからもいろいろなことに挑戦し続けていきます。

 

PROFILE 高橋成美さん

1992年1月15日生まれ、千葉県出身。2012年世界選手権ペア銅メダリスト、2014年ソチオリンピック日本代表を経て、2018年3月に現役を引退した。以降は松竹芸能に所属し、コーチングや解説、バラエティ番組などで活躍する一方、2023年6月からはJOC評議員・JOCアスリート委員・日本オリンピアンズ協会の理事に就任。今年8月開催予定の「北海道マラソン2024」では、アンバサダーとしてフルマラソンにもチャレンジする。

 

取材・文/長田莉沙 写真提供/高橋成美