兄弟のなかで父と一番距離があったと語る、ぼる塾のあんりさん。しかし、ある時、父が語った言葉で親子関係が変化していきます。(全5回中の2回)
家族で大きな公園に行くはずが
── お父さんは元暴走族、お母さんは元レディースだったそうですね。あんりさんから見て、お父さんはどんな方でしたか?
あんりさん:曲がったことが嫌いで、誰に対しても礼儀や義理人情をすごく重んじる人ですね。子どもの頃、(ぼる塾の)はるちゃんが家に遊びにきた時は「挨拶は?」と言って「お邪魔します」ときちんと言わせていたし、もちろん自分にもそう。「おはよう」「おやすみ」を言わないで自分の部屋に戻ろうとすると「おい、挨拶しろ」って挨拶だけはめっちゃ言われました。
── 元暴走族だったと聞くと、迫力もおありなのかな…と思ってしまうのですが、いかがですか?
あんりさん:父は身長182センチで当時は体重も100キロあったから、めちゃくちゃデカかったんですよね。それに、何かあったら注意してくるので、注意してくる人っていうイメージもあって少しビビってました。
あと、こだわりが強いんです。私は5人兄弟の3番目で上に兄が2人、下に弟と妹がいます。まだ弟と妹が生まれる前ですが、当時、父が「ピコ」というブランドの白いニット帽が好きだったんです。それで、なぜかわからないけど、子どもたちの誰かがピコのニット帽を被ってないとダメでして。
ある日曜日、父と兄弟3人で公園に行くことになっていて、いざ出掛けようとしたらピコの帽子がないんです。いつも誰かが被っていたはずなのに、誰が最後に被っていたのかわからない。子どもたちも「ヤバい!」と察して探しますが見つからなくて、父もイライラし始めているし、「ないないないない…!」って血眼になってさらに探しても、やっぱり見つからないんです。父もしびれをきらして「もう行かねえぞ!」って言いましたが、子どもたちは楽しみにしていたんですよ。車で大きい公園に連れて行ってもらって、そこで一輪車なりキックボードに乗ろうって前の日から楽しみにしていたんです。「なんで一個のものも大事にできないんだよ!」と結構怒られて、3人とも泣きべそかきながら結局、車に乗りました。
「よかった、公園に連れて行ってもらえるんだ」と思っていたら、なぜかショッピングモールの前で車が停まって。なんだろうと思ってついて行ったら、父がピコの売り場に行って白いニット帽を買ってるんです。それをすぐに兄に被せて(笑)。なんで新しく同じようなものを買うんだろうって思うくらい、父はこだわりが強いというか、曲げない人ですね。
── (笑)。お父さまとは普段からよくお話しされていましたか?
あんりさん:兄弟5人の中で、私が一番父と距離があったかもしれないです。上の兄2人は喧嘩してもちゃんと怒られるんですよ。何やってんだって。でも私は兄たちのように殴り合いの喧嘩にはならないし、喧嘩しても怒られるのは兄。ただ、私が怒られなくても父が怒ってる姿は見ているからビビっていたし、思春期もあったのかな。なんとなく父とふたりだけになると何をしゃべっていいかわからない。リビングに父がひとりでいたら、別の部屋に行こうみたいな感覚はありましたね。
── 少しぎこちないような。
あんりさん:あと、母と買い物に行ったら「このお菓子が欲しい」って言えても、父には言えませんでした。でも、父と買い物に行ったとき、「このお菓子、欲しいんだろ?」って察してくれるとか。中学のときは風邪をひいて自分の部屋にいたら、大量のお菓子や飲み物を持ってきてくれたこともあって、大人になって思い返すと、優しかったしコミュニケーションも取ろうとしてくれていたんだと思います。