夢だったメダルを手にして、次の目標へ

世界ダウン症水泳選手権トルコ大会で銅メダルを獲得!(Instagramより)
世界ダウン症水泳選手権トルコ大会で銅メダルを獲得!(本人のInstagramより)

── 2024年の世界大会で、50メートル背泳ぎで銅メダルに輝きました。

 

金子さん:ほんとうに嬉しかったですね。涙が出ました。子どものことで泣いたのは、次男が国立の小学校に合格したときと、今回カイトがメダルをとったときですね。

 

13歳のときから「いつかは世界大会でメダルをとりたい」という目標に向かって、カイトは毎日3500〜7000メートルを泳いできました。私も、都内の自宅からプールのある上尾や習志野まで送迎を続けてきましたし、練習量に合わせて食事を調整したり、ときには一緒にプールに入って泳ぎを指導したりしてきました。

 

先日、車が故障して買い替えることにしたんですけど、6年間で14万キロの距離を走ったんです。それだけの距離を送迎したんだな、この車がメダルをとらせてくれたんだな、と思うと寂しくなりましたね。

 

6年間で14万キロの距離を走行した相棒!
6年間で14万キロの距離を走行した相棒!

── 次の目標はありますか。

 

金子さん:2026年にアジア大会が名古屋で開催されると伝えたら、カイトは「最高~!」と言っていました。名古屋に住んでいる父親や祖父母の前で泳げたら、と思っているのかもしれません。私としては今回の大会を最後に引退すると思っていましたし、カイトにも「これが最後だね」と伝えていました。でも、最後のレースの前に「これが最後だから、気持ちよく泳いでおいで」と送り出したら、本人は「やめるなんて言ってない」と言うんですよ。大会が終わって、今カイトはやる気まんまんで、ちょっと困っています(笑)。

 

背泳ぎ50m 記録40.80!「世界ダウン症の日」に世界大会で初のメダルを獲得(Instagramより)
背泳ぎ50メートル記録40.80!「世界ダウン症の日」に世界大会で初のメダルを獲得(本人のInstagramより)

これからは、私がつきっきりでなくても水泳ができる環境を整えようと思っているところです。今は、私は送迎だけに徹しているのですが、カイトは私がいなくても積極的に周りの人とコミュニケーションをとって、なんとかやっているみたいです。メダルをとれたことで、自信がついたのかもしれません。これも成長ですね。

 

いまは、アジア大会で優勝することを目指して、ダウン症のための水泳環境が整っているポルトガルへ留学する計画を立てているところです。

 

カイトが産まれたとき、「私の人生、終わった」と思ったんですけど、私の新しい人生はあのとき始まったと今は思っています。もちろん、アスリートとしてやっていくにはお金もかかりますし、たくさんのサポートも必要で、誰もができることではありません。それでも、カイトが頑張ってくれたおかげで、思ってもみなかった世界を見せてもらえました。

 

今年のお花見のお食事会で(Instagramより)
今年のお花見のお食事会で(Instagramより)

カイトは、2022年にある企業にアスリート採用されて、年収400万円ほどの収入もあります。ダウン症の人は「B型支援」といわれる就労支援事業所に通うケースが多いのですが、月に1万円の収入にもならないので、これでは自立することはできません。カイトがダウン症のアスリートとして選択肢を増やす道を切りひらくことで、誰かの励みになれたら、こんなに嬉しいことはありません。

 

公益財団法人日本パラスポーツ協会公認「パラスポーツ指導者資格初級」の認定証を取得(Instagramより)
公益財団法人日本パラスポーツ協会公認「パラスポーツ指導者資格初級」の認定証を取得(本人のInstagramより)

 

PROFILE 金子エミさん

パーツモデル、美容家、事業家。コマーシャル100本以上、雑誌出演数100本以上をこなす。パーツモデルに求められる肌感や表現力を熟知した唯一無二の存在として独自のケア方法をテレビをはじめ多方面で披露。プライベートでは2人の息子の母。ダウン症の長男 カイト君の世界水泳挑戦と、これまでの子育てを描いたコミックエッセイ『世界は君のもの~美容家ママとダウン症カイトの世界水泳奮闘記~』(オレンジページ)ほか著書は7冊。

取材・文/林優子 画像提供/金子エミ