一橋大学卒のスナックママとしてメディアでも話題になった「スナック水中」の坂根千里さん(26)。現在は、スナックのある東京・国立ならではのクラフトビールの取り扱いやご近所の飲食店への協力依頼などを通じて、地域の活性化に取り組んでいるそう。でもスナックがどうやって?(全2回中の2回)

スナックが挑む地産地消の試みは遠方客にも人気

── 「スナック水中」は、地元の人だけでなく遠方から来られたお客様にも楽しんでもらえるようメニューを工夫されているそうですね。

 

坂根さん:オープン当初から「この土地ならではの特色ある飲食物」を提供したいと思っていました。そう考えるようになったのは、学生時代、東京都国立市で民泊を運営した経験からです。

 

当時は海外の方や国内の遠方からのお客様を国立市にお迎えしていました。そのとき気軽にお酒を飲めて、地元らしさも楽しめる飲食店があると喜ばれると知りました。

 

だから、スナック水中でも地域ならではの「ご当地メニュー」をお出ししています。具体的には、国立市初のクラフトビール醸造所・KUNITACHI BREWERYで作られたクラフトビール「くにぶる」や、国立市で生産されているミントを使ったモヒートです。

 

── お客様からはどんな反応がありますか?

 

坂根さん:遠方から来られた方には、「国立らしさ」を楽しんでいただけています。久しぶりに国立を訪れた方には「いまはこんなビールがあるんだね」などと驚かれています。

 

地元の方も「どこでミントを栽培しているの?」とか「クラフトビールがあるなんて知らなかった」と、言われることがあります。地元でも意外と知らないことがあり、新鮮なようです。

 

国立産のミントを使用したモヒート

── 地元ならではのメニューがあると楽しいですね。どのような縁でクラフトビールやミントを仕入れるようになったのでしょうか?

 

坂根さん:学生時代、民泊をしていたときのご縁で紹介をしてもらいました。 民泊に宿泊されるゲストに、まちの魅力を伝えられるように探索しているなかで、住宅街である国立もゲストに喜ばれる魅力がたくさんあるなと気づきました。

 

それを市外のお客様はもちろん、市内のお客様にも楽しんでいただきたい思いで取り扱っています。やはり、その土地のものは特別感がありますから。

近所の中華料理店とタッグを組んで出前をスタート

── スナックは「お酒を楽しむ場所」のイメージですが、「スナック水中」では食事もできるそうですね。

 

坂根さん:近所においしい中華料理屋さんがあるんです!だから、食事を希望されるお客様がいらっしゃったらそのお店と提携して、お食事を提供しています。早いときには注文して10分くらいで「できたよ」と連絡があるので、私たちスタッフが取りに行っています。

 

── 中華が食べられるスナックというのは珍しいですね。きっかけはなんだったのでしょうか?

 

坂根さん:最初は、店内で調理していたんです。ただ、そうすると、料理に人員がとられてしまい、接客に力を入れられなくなってしまいます。店の周囲には、おいしい飲食店がたくさんあるし、わざわざ自分たちで作らなくてもいいかなと思うようになりました。

 

ちょうどスナック水中がオープンしたのがコロナ禍だったので、飲食店もデリバリーを始めたところが多かったんです。だから、ふだんからよく行っていた中華料理屋さんに「出前お願いしていいですか?」と聞いたら「もちろんいいよ!」と、快く引き受けていただきました。

 

レトロな雰囲気が味わえる「スナック水中」。

私たちのお店は調理の手間なくお客様に食事を提供できて接客に集中できるし、中華料理屋さんは注文が増えるので、双方にメリットがある方法だと思っています。

丁寧でフランクに!目指すはホテルマンのVIP対応

──「スナック水中」をオープンしてから、経営実績はいかがですか?

 

坂根さん:ありがたいことにとても順調です。「スナック水中」の前身である「すなっくせつこ」時代の2021年に比べると、2023年時点で約1.6倍の売上となりました。

 

── 売上好調の秘けつはどんなことだと分析されていますか?

 

坂根さん:「すなっくせつこ」時代には獲得できなかった、新たなお客様に恵まれたことが大きいです。20代の若い方からミドル層、女性、遠方からのお客様がいらっしゃるようになりました。

 

また、これまではママだけが把握していたお客様の好みや情報について、スタッフ間で情報共有しています。たとえば、「このお客様はこのお酒が好み」とか「こちらのお客様はかならずレモンをつける」といったことです。

 

すると、久しぶりにいらっしゃったお客様にも「お酒はいつものお好みのものをご用意しますね。そういえばお子さんはお元気ですか?」などのお話をして、「あなたのことをしっかり覚えています」と伝えることができるんです。

 

── 自分のことをスタッフが覚えてくれていると嬉しいですね。

 

坂根さん:スナックの強みとは、 お客様への細やかな個別対応 だと思っています。逆に言うと、その細やかさでしか勝負ができません。

 

「スナック水中」ではスタッフ全員が、お客様に合ったサービスを提供するようにしています。他業種ですが、ホテルのVIP対応のようにお客様一人ひとりを特別におもてなしできるチームを目指しています。

 

私は「スナック水中」を街の社交場にしたいんです。ちょっと気が向いたときにふらっと立ち寄れて、その場にいる人と居心地よく楽しい時間を過ごしていただくのが理想です。そのために、どんなことが必要か、何をしたらいいか、日々模索しています。

 

取材・文/齋田多恵 写真提供/坂根千里