外務省公認「カワイイ大使」として世界中にロリータファッションの魅力を伝える青木美沙子さん。40歳になる現在、正看護師&ロリータモデルとして活躍しています。ロリータファッションにハマった理由や、二刀流を続ける理由などを聞きました。(全2回中の1回)
「大人でも姫になれるファッション」に衝撃を覚えた
── 青木さんがロリータファッションにハマったきっかけを教えてください。
青木さん:高校生の頃に原宿で、ストリートスナップに声をかけられたのがきっかけです。『KERA』というロリータやゴシック系ファッションを取り扱う雑誌なのですが、その撮影現場で初めてロリータファッションに出会い衝撃を受けました。「大人になってもお姫様になれる服があるんだ!」と知り、一気にその世界にハマっていったんです。
それまでの私はカジュアルな原宿系ファッションで、ロリータとはほど遠いファッションでした。でも小さい頃からシルバニアファミリーやリカちゃんなどのドール遊びが好きだったので、そういうかわいらしい世界がもともと好きだったのかもしれません。
── そこからロリータモデルのお仕事を始めたのでしょうか?
青木さん:そうですね。とはいえ、高校卒業後、私は看護師になるために短期大学に進学したので、ロリータモデルの撮影は勉強の合間に参加するくらいでした。私の学生時代はいわゆる「読者モデルブーム」で、趣味や思い出づくりで読モをしている子も多かったんです。
読モ時代は、当然、普段着もロリータファッションだったのですが、学校ではいろいろと不自由なこともありました。看護師になるための学校だったので、服装や髪の色についてはかなり厳しく、「命に関わる現場に、そんなファッションで来るな」と怒られることもよくありました。おしゃれが大好きだったので諦めきれず、少し暗めの色を選んだり、ヘアアクセサリーはやめるなどして、いろいろと工夫しながら通っていましたね。
── 看護師として働き出してからもモデルのお仕事をされていたのですか?
青木さん:学校を卒業後、看護師として大学病院に5年勤務しました。看護師の仕事は夜勤もありますし、とても忙しく、割合にすると看護師が8でロリータモデル2くらいで、モデルの仕事はほとんどできなかったです。時間の合う休みの日にだけ撮影に参加していました。あと、ブログでロリータファッションについて発信するくらいでした。
看護師として働いてお給料をもらえるようになり、洋服はたくさん買えるようになったので、それは嬉しかったですね。ロリータファッションって値段が高い服が多くて、学生の私がどんどん買えるようなものではありませんから…。きちんと全身コーデをすると、一着10万円になることもあるんです。
常勤の看護師を辞めてロリータの普及に注力
── 今のようにロリータのお仕事がメインになっていったきっかけはなんですか?
青木さん:25歳のときに日本の外務省から「カワイイ大使」に任命されたことです。「カワイイ大使」とは、世界に日本のポップカルチャーであるロリータを発信する広報大使で、海外で開催されるイベントに参加する必要があります。1回の海外のイベントに参加すると、だいたい約1週間は拘束されます。病院で看護師として勤務しながら大使を務めることは無理でした。
いろいろと悩んだのですが、「カワイイ大使」に声を掛けていただいたのは、病院で看護師として働いてちょうど5年経った頃。そろそろ新しいこともしたいと思っていた頃でもあったので、常勤で働くのは辞めて「カワイイ大使」のお仕事を受けることにしました。
活動を続けていくことで仕事が徐々に広がってきて、最近はありがたいことにさまざまなファッションブランドのプロデュース業のお仕事も多くいただくようになりました。今はロリータのお仕事のほうがメインになりつつあります。
── プロデュース業とはどのようなことをしているのでしょうか?
青木さん:いくつかのブランドとコラボをしています。なかでも印象深いのはファッションブランド「しまむら」さんとの仕事。値段が高く、若い子がなかなか買いづらいロリータファッションを、プチプラで買えるように開発していきました。洋服はもちろん、バッグ、寝具、家具などさまざまなジャンルの商品を販売し、ロリータの認知度を世間に広めることができたのではと思っています。
しまむらさんの商品をきっかけに、若い人だけでなく私よりも年上の人たちから「かわいい洋服を着る機会が増えた」「親子でロリータファッションができた」という声をいただけて嬉しかったです。年齢を問わず好きな色やかわいい服を着てほしいという想いが届いた気がします。
看護師をしていたからこそ夢を追いかけられた
── カワイイ大使になってからは、看護師のお仕事はされていないのですか?
青木さん:病院に勤める形態ではなく、訪問看護の看護師として今も働いています。看護師は資格さえあればいろいろな働き方ができる仕事です。今の私の訪問看護の働き方は、夜勤がなくシフト制。そのためロリータの仕事をしながら、続けることができています。
── 看護師とロリータの二刀流、大変なことも多いのでは?
青木さん:ときどき「命を扱う仕事を片手間でやっているのか」など、心ない言葉を言われることがあります。私は看護師もロリータもどちらの道も諦めきれませんでした。もちろんどちらも真剣にやっていますし、まったく異なるふたつの仕事をすることで視野が広がりよかったと思うことも多いので、後悔はしていないです。
── 好きなことを諦めない人生、とても素敵だと思います。
青木さん:私はロリータファッションが好きで、ずっとそれに関わる仕事に挑戦してみたいと思っていました。でもモデルの仕事はどうしても不安定です。それだけで生活できるほど甘いものではありません。
ロリータの仕事を続けていられるのは、看護師という資格があったから。5年間しっかり大学病院で経験を積み、看護師が生活を支えられる柱になったからこそ、好きなことを追求できたし、もし将来ロリータの仕事がなくなっても看護師の資格があるから心配はしていません。
今はロリータの仕事が増え、看護の仕事の割合が少ないですが、自分の夢であるロリータと看護の仕事を両方とも一生続けられたら本望ですね。
PROFILE 青木美沙子さん
1983年千葉県生まれ。訪問看護とロリータモデルの仕事をしながら、「カワイイ大使」として海外にロリータ文化を普及。現在はメーカーとコラボして、プロデュース業なども行っている。
取材・文/酒井明子 写真提供/青木美沙子