実家の母親と毎日電話で話しているという島谷ひとみさん。母親の大病を機に、人生の価値観が大きく変わることになったそうです(全4回中の3回目)。

母のがん、ステージ4宣告

島谷ひとみ

── 2019年、お母様がガンを患われたそうですね。

 

島谷さん:母はずっと肩や腰が痛いと言っていて、整体に通っていました。でもまったくよくなる気配がなくて、喉が詰まるような感覚があると話してたんです。これはおかしいよねという話になり、母のかかりつけの病院の先生に頼んで別の病院に紹介状を書いてもらったんです。

 

紹介先はがんセンターでした。そこで母が悪性のリンパ腫だということが判明。しかも、悪いことにステージ4まで進んでいたんです。今になって思えば、リンパが腫れたことで、喉が圧迫されて水が飲みにくかったり、食べ物が喉を通らなかったのだと思います。

 

── お母様は何歳だったのでしょうか?

 

島谷さん:64歳です。母は「え? 私、これで人生終わるの?」みたいな感じで膝から崩れ落ちていました。主な治療法として抗がん剤を用いましたが、薬と母の体の相性が合わないこともあり、厳しい状況が続きました。母の闘病生活は壮絶で、治療には約半年の時間がかかりました。ただ、幸いなことに治療がうまくいき、母は半年後には回復することができて、心からホッとしました。現在は治療から約6年が経過し、元気に日々を過ごしています。

 

── お母様の闘病生活を支えて、島谷さん自身にも何か変化はありましたか?

 

島谷さん:母の闘病を見て、自分の健康に対する意識がいっそう高まりました。とくに私と母は体質が似ているから、私自身も同じ病気になる可能性があるなと感じたんです。具体的には、ストレスを減らし、寝不足を避ける。食事をしっかり摂ることを、改めて気をつけるようになりました。お母さんの経験が私にとっても大きな教訓となって、健康管理に対する自覚が強まりました。

 

── 精神的な面での変化もあったのでしょうか?

 

島谷さん:母が病気になり、これまで当たり前に頼っていた存在が不安定になる可能性に直面しました。その状況で、私の優先順位ってなんだっけ?と、自分の中で優先すべきものは何かを考えるようになりました。

 

私は東京に住み、家族は実家の広島に住んでいます。離れて生活しているため、これまでも頻繁に広島に帰り、家族との時間を大切にしてきました。母の病気を機に、歌をやめて田舎に帰り、両親と一緒に過ごしたほうがいいのか、もし歌手を続けるとしたらいったいいつまで歌うんだろう。歌うといっても、喉や体調の変化もあっていつまでも歌えるものではない。歌えなくなった場合、どうするかなど、これからの未来、何パターンか心構えをして生きていかなきゃいけないなと思ったんです。

 

── お母様の病気を機に、ご自身のこれからについて考えたんですね。

 

島谷さん:はい。ちょうどその時期、新曲を作ったり歌のリリースがなかったこともあり、一回自分の人生を一度リセットしようと思ったんです。長らくお世話になってきた事務所を辞めて、今後の人生で何に挑戦し、どんな道を歩んでいきたいかを真剣に考える機会となりました。

 

同時に、物事の優先順位を考えるようになりました。これまでは自分がやりたいことよりも、まわりの人のために頑張らなければいけない、人に迷惑をかけてはいけないという気持ちが強かったんです。たとえば、これまでずっと歌を歌ってきてたくさんの人に応援してもらいました。その支えを受けて、「自分も頑張らなければ」という気持ちがあったんです。でも、歌ってきた曲は作品として残っているので、ここから新たなチャレンジに挑戦するのも、私の人生としては全然いいんじゃないかなと思って。母の病気を機に、自分の健康や生き方について真剣に考えるようになりました。

母との電話で月7万円かかったことも

島谷ひとみ

── ところで、島谷さんはご家族ととても仲がよく、お母様とは毎日、電話で話しているそうですね。

 

島谷さん:毎日30分から1時間は話していると思います。先日、母が父とケンカしたらしく話を聞いていたら、6時間以上話しました。「お父さんは、これはやめてねといっても何回も同じことをするよね」と、母と娘で盛り上がりました(笑)。ほかにも、身の回りの人の話や、最近見たテレビの話、おすすめグッズなどについても盛り上がってます。電話代が7万円になった月もあります(笑)。

 

── 島谷さんはツアーなどもあり、お忙しいかと思いますが、そんなときでもご実家に連絡されていますか?

 

島谷さん:連絡します。たとえば、今からみんなで食事に行ってくるねとか、夜に連絡できなかったら朝しようとか。朝から電話することはないんですけど、メールで今日はこの後、ここにいて、こんなことしているよって報告していて、お互いの状況を知っていると安心できるんです。母が病気をしてからは、時間が惜しくて。両親との時間がこれから先いつまであるかわかりません。後悔しないよう楽しい時間を少しでも一緒に過ごせたらと思います。

 

PROFILE 島谷ひとみさん

広島県出身。1999年7月のデビュー以来、『亜麻色の髪の乙女』『パピヨン-papillon-』などで大ヒット。音楽活動だけにとどまらず、多くのラジオ、バラエティー番組などに出演し、活躍中。

 

取材・文/間野由利子 写真提供/島谷ひとみ、株式会社Eye-Land