Eテレの番組に「おねんどお姉さんひとみ」としてレギュラー出演する岡田ひとみさん。ねんドル(ねんど職人+アイドル)として20年以上、国内外でねんどを教える岡田さんにこれからの夢を聞きました。(全4回中の4回)
ネパールで教えて気づいたこと
── 日本各地のほか、世界各国でねんどレッスンを行っている岡田さんですが、国によって違いを感じたことはありますか?
岡田さん:去年最後に行った国がネパールだったんです。ネパールは日本語の授業を行う学校もあるほど日本に興味を持ってくれていたこともあり、すごく喜んでくれました。
最後に汚れた手を拭くためにウェットティッシュを配ったんですが、何も言ってないのに、私の持ってきた道具についてしまった絵の具をきれいに拭いてくれて。感動しましたね。使い捨てのパレットも綺麗にふいて「もらっていいですか」とうちに持って帰ってくれたんです。
その学校では一部のクラスだけでねんどレッスンをしたんですが、他のクラスの子どもたちもやりたがっていたみたいなんです。そこで、学校のスタッフの方がみずから材料を買ってきて、他の子どもたちにも同じように教えてくれたそうで。それを聞いたときは本当に嬉しかったですね。私ひとりではできることも限られているし、楽しむ文化が広げられたらいいなと思っています。
ちなみに、日本のねんどってすごく質が高いんですが、海外で売られていることはほとんどないんです。中国やアメリカのねんどはどの国でも見かけますね。
── 海外にはどんなねんどがあるのでしょうか?
岡田さん:小麦ねんどはほとんどの国にあります。もともと着色されているもので、型にはめて遊ぶ、というものです。ザンビアのスーパーにもありました。
私の教室では、白いねんどに絵の具を混ぜて色を変えるんですが、それは海外でも驚かれますね。混ぜるとどんどん色が変わっていく、魔法みたいな楽しさを味わってほしいんです。
絵の具の量によって色の濃さも変わります。私が作品を作るときは、樹脂ねんどを使うんですが、食べ物を作るので、色が本当に重要なんですね。にんじんのオレンジ色とみかんのオレンジ色は違うし、みかんの皮と内側のオレンジ色も違う。
でもそれが表現できるのは、絵の具を混ぜ合わせるからなんです。狙った色が出せたときは本当に嬉しいし、子どもたちには色を混ぜ合わせることも実験的に楽しんでほしいなと思っています。
ねんどは上手に作れなくてもいい
── 子どもを相手にねんどを教えるときに、心がけていることはありますか?
岡田さん:私は子どもたちに「上手にねんど作品を作ってほしい」とは思ってないんです。自分が納得するものを作ってほしいし、その日はうまくいかなくても、次はもっとうまく作れるようになる…そんな達成感を味わってほしいんです。
一度うまくいかなくて悲しくなると「もう一生やりたくない」と思ってしまう子もいるかもしれません。教室に来てくれた子どもたちには全員満足して帰ってほしいので、教室では失敗しにくいねんどを用意しています。
また、ねんどに絵の具を混ぜて色づけをする際は、手が絵の具だらけになってしまいがちです。そこで、教室では使い捨てのパレットにその日に使うぶんだけ絵の具を出して、爪楊枝で少しずつ絵の具を取ってもらいます。そうすると、絵の具をつけすぎることがないので手がほとんど汚れないんです。番組では直接ねんどに出しているんですが、子どもだと力加減が難しいから出しすぎちゃったりするんですよね。
── 親からすると、絵の具はハードルが高いんですよね…。
岡田さん:大惨事になっちゃいますよね(笑)。でも、教室でもうひとつ大事にしているのが、保護者の方にも楽しんでもらうことなんです。お子さんが絵の具だらけになったら「もうやらせたくない」と思ってしまうかもしれないけれど、そうなってほしくないんです。お父さんお母さんにも、ねんどで楽しんだり、感動したりしてもらいたい。
ねんどって、意外と年齢ででき上がりに差が出ないんですよ。「どっちがお父さんが作ったの?」というのがわからなかったりする。親子がまるで同世代かのように楽しめるのがねんどのよさかな、と思っています。
── お話を伺っていると、そのバイタリティに驚きます。その原動力はどこにあるんでしょうか。
岡田さん:本当にこの仕事が好きなのと、夢が叶っている最中なので嬉しくてしょうがないんですよね。あとは子どもたちが大好きなので、「子どもを楽しませたい」という思いがブレない大きな軸になっていて。その軸があれば、なんでもできる!って感じです。
── もともと積極的な性格だったのですか?
岡田さん:自分の意見も言うのが得意なタイプではなかったかも。好きなことだからっていうのはあるかもしれないですね。あとは、回を重ねるごとにだんだん自信がつきました。今でも自信のないことはたくさんあって、自分のふがいなさに落ち込むことはあるんです。でも、だからこそ「もっとやろう」というモチベーションになっています。
海外に行くのも、じっとしていられないから。「もっと自分の力をつけたい」と経験を重ねてきたことで、だんだん自信につながりました。英語がそれほど得意ではないので、初めての海外でのレッスンでは緊張で声が震えてしまったんですけど…。でも、海外で私のことを知らない人たちの前でレッスンしても、必ず子どもたちが楽しんでくれる、とわかったので、堂々とできるようになったのかもしれません。
── これからの夢や目標はありますか。
岡田さん:日本でも教室にまだ行けていない地域もあるので、たくさんの子どもに会って、直接ねんどを教えたいですね。世界の子どもたちにもたくさん会いたいし、日本の子どもと世界の子どもを繋ぐような企画もできたらいいなと思っています。
自分のねんど作品も、上手に作るというより、人の心に届く作品を作っていきたいです。「何かを作ろう」と意気込むだけでは、いい作品は生まれないんです。いろんなところに行ったり、人と出会ったりするなかで生まれるんですよね。
日々出会う素敵なことや、素敵じゃないこと。そのどちらもねんどでも表現できたらと思っています。例えば最近よく、カビたパンとか、溶けて落としちゃったアイスクリームとか、しなびた野菜とかを作ったりするんです。そういう誰もが経験しがちな失敗も、作品として残せたらいいな、と思っています。
── 岡田さんはいつまで「ねんドル」を続けたいですか?
岡田さん:「ねんドル」を始めた当初から「おばあちゃんになってもねんドルでいたいな」って思っていました。着る衣装は変わったとしても、人が見て楽しくなるような衣装を着たりしながら、エンターテイメントができるねんドルでいたいな、と。
その気持ちは今も変わっていなくて。おばあちゃんになっても、子どもたちにねんどを教えたいですね。今20年以上ねんドルをやっていますが、昔の教え子の中にはもう結婚している子もいるんです。そういう方々のお子さんにそろそろ教えられる時期かな?って。もしかしたら…お孫さんに教えられるほど続けちゃうかもしれない(笑)。長く続けることで、子どもたちがいつでも思い出して帰ってこられる場にしたいなと思います。
PROFILE 岡田ひとみさん
1980年生まれ。ねんど職人+アイドル=ねんドルとして、日本や海外で子供向けのねんど教室を開催。Eテレで放送中の『ニャンちゅう!宇宙!放送チュー!』で「おねんどお姉さんひとみ」「コネル」としてレギュラー出演し、今年で12年目。
取材・文/市岡ひかり 写真提供/株式会社チーズ