10代の頃からさまざまなファッション誌やCM、広告、ファッションショーなどで活躍するモデルの佐藤弥生さん。2021年にステージ0の非浸潤性乳がんが発覚し、左胸を全摘出する手術を受けたことで、自分のことを見つめる時間を持てたと言います。(全2回中の2回)

「遺書を書いたほうがいいの?」という思いもよぎった

大好きなドーナツ屋さんの前で(Instagramより)
大好きなドーナツ屋さんの前で(Instagramより)

── 佐藤さんは長年モデルとして活躍されています。お仕事を始めたきっかけを教えてください。

 

佐藤さん:幼少期にいじめを経験したり、友人関係であまりうまくいかなくて悩んだこともあったなかで、中学生のときに原宿や渋谷でスカウトされることが何度かあって「モデルになれば自分に自信が持てるかな」という思いで始めました。当時はファッションが好きというわけではなく、身長が高いことが目立ってコンプレックスに感じていたくらい。

 

事務所に入ってからはオーディションで広告などのモデルをこなして雑誌デビューできました。自分が読んでいた雑誌に載ったときは本当に嬉しかったですね。

 

モデル仲間との集まりで(Instagramより)
モデル仲間との集まりで(Instagramより)

── ママ向けのファッション誌では、サングラス姿でエレガントにベビーカーを押す奥様姿が話題となった「エレカ様」としても注目を集めましたね。モデルのキャリアを着々と積んでいた矢先に乳がんが発覚したときは、ショックも大きかったのではと想像します。

 

佐藤さん:モデルという仕事は洋服をきれい見せることですから、仕事ができなくなるかも…という不安は感じました。告知されたときはパニックになりましたね。大手術となると全身麻酔もしますし「私は今、遺書を書くべきタイミングにいるの?」という思いも頭をよぎりました。

 

丁寧に何度も時間を費やして説明をしてくれた先生との関係もあり、ステージ0でも左胸を全摘出しなければいけないことを理解しました。徐々に「ここで落ち込んでも結果は変わらないから、今やるべきことをやって、人生先に進もう」と思えるようになりました。

「自分の体を大事にしよう」術後の生活で気づいたこと

── 無事に手術も成功し、ようやく日常を取り戻されたようですが、今振り返ってご自身の中で変化したことなどはありましたか?

 

佐藤さん:手術して3日後に退院して「よし!終わり!万歳!」というわけではなくて、そのときに採取した細胞を検査したり、年単位で経過も見ないといけません。体とどう向き合っていくのか、未知の生活が始まりました。当時はコロナ禍だったので、気分転換に外に出かけるというのは難しく、自宅静養していました。

 

なるべく早く手が動かせるようになるためにストレッチしたり。手術した部分以外は元気なのでウォーキングをしたり。でも、いつもの調子で自転車に乗ったら「アイタタ…」と傷口を押さえることがあったりして、「あ、胸の筋肉はこのときに使ってたんだな」と改めて自分の体について知ったり。

 

退院翌日、思わず目の前の2Lのペットボトルの水を左手で持ってしまって、「しまった」と思ったことも(笑)。そういう発見ばかりでした。車を運転してギアを引いたときに痛みが走り「あー、私の傷口、ここにあったんだ」って気づかされる。普段無意識だった動きで痛みがあり、自分が乳がん患者の身であることを思い知らされると同時に、「自分の体をもう少し大事にしないと」と思うきっかけにもなりました。そして、今一度、自分の中で今の自分に何が必要か、心の整理もしました。

 

手術後、体の回復と共に心の整理もした(Instagramより)
手術後、体の回復とともに心の整理もした(Instagramより)

── 今のご自身の体調や気持ちと向き合うことで、新たなライフスタイルにシフトしていかれたのでしょうか。

 

佐藤さん:そうですね。仕事復帰もモデル業からではなく、今住んでいる茨城でコアコンディショニングのインストラクターとしてクラスを持つことから始めました。もともと32歳くらいの頃に取った資格ではあったのですが、これまで使ってなかったんです。

 

すぐにモデルとして復帰したいとも思ったんですけど、現在は実家がある茨城に住んでいて、都内までの距離やコロナ禍で移動する体力面での心配があったので、「今は自分ができることをしよう!」と。地元ならではのいいところを見つけ、発信しながら勉強もして、もっと地域密着でやれることに挑戦できたらと思っています。

 

これも新しい自分を見つけられた転機となった気がします。これまで自己肯定感が低かったので、「自分をもっと褒めてあげよう」という気持ちにもなりました。新しい仕事で達成感や満足感もあり、同時に「もっと勉強したい!頑張りたい!」という意欲もわいてきました。自分を褒めて今を大事にすることで、以前よりも生きやすくなったように思います。

 

コアコンディショニングのインストラクターに!(Instagramより)
コアコンディショニングのインストラクターに!(Instagramより)

 

── 今はどのような日常をお過ごしですか?

 

佐藤さん:術前に先生から聞いていなかった気象病に悩まされていますが、コアコンディショニングのクラスのほか、瞑想のイベント、栄養士の資格を持っているので料理教室を不定期で開催しています。旬の食材を使った季節のお料理と発酵食品などを中心に、米粉を使用したお菓子や、ビーガンメニュー、体にやさしくおいしいものをご紹介しています。

 

お料理教室で梅酵素シロップ、梅干し、梅酒作り
お料理教室では梅酵素シロップ、梅干し、梅酒作りを

自分自身、病を経験して「食べ物から気をつけないといけないな」という意識がいっそう高まりましたし、市販品の裏面を見ると添加物などいろいろなものが入っていることがわかるので、「自分で食べるものはきちんと選びたいな」という思いも芽生えました。健康的な食事でダイエットにも役立てるよう、料理教室で知識をシェアできたらなと思っています。

 

父が家庭菜園で家族が食べる分のトマト、そら豆、なす、きゅうりなど育てていて、私も先日ミックスレタスとルッコラとかぶを植えたところなんですけど、おいしく楽しく健康に寄り添うことで、今はとても充実した生活を送っていますよ。

 

美や健康は一生のことですから、毎日コツコツケアを継続することが大事ですが、無理をせず、休むときは休んで「自分にやさしく」を心がけたいなと思っています。

 

仕事の前にお庭にある農園のチェック(Instagramより)
仕事の前にお庭にある農園のチェック(Instagramより)

 

PROFILE 佐藤弥生さん

ファッションモデル。10代からnon-noなど様々なファッション誌で活躍。CM、広告、ファッションショー等も多数出演。モデル業のかたわら、栄養士やコアコンディショニング、瞑想のインストラクターの資格を活かし多方面で活躍中。

取材・文/加藤文惠 画像提供/佐藤弥生