7年経っても変わらぬ悲しみ
グェンさんは、福島に移住後の現在も、長男の小学校への送り迎えは欠かさないと話します。
「家から小学校までは近いのですが、長男をひとりで学校に行かせたことはありません。晴れているときは歩きで、雨や雪の日は車で送り迎えをしています。ただ、全員の保護者がそれを毎日するのは難しいと思うので、スクールバスなどの制度を整えて、学校や政府が通学の安全対策をしてもらいたいと思います。
リンちゃんは、通学路で見守り活動をしていた保護者会長の男に殺害されました。多くの方がボランティアで善意を持って活動されているのですが、子どもに関わる方の管理体制も作っていただきたいです。私たちはその立場の人からひどい被害に遭って、いまだに納得できていません。社会全体で子どもたちを守る仕組みができたらいいと思います」
グェンさんたちは、福島で生活を送りながら、現在も千葉県松戸市にある家を残しているそうです。
「松戸市で開いたレストランは閉めたのですが、家は、リンちゃんとの思い出がたくさん残っている大切な場所なので、手放さずに残してあります。千葉で出会った方もとても親切で、皆さんにたくさん助けられました。福島に来てからも、リンちゃんの誕生日や命日にはわざわざお線香をあげに来てくれる方もいますし、千葉の家にもお花などを持ってきてくださっています。
福島のレストランも、私たちを応援したいという気持ちで来てくださる方が多く、料理を褒めていただけることが多いです。温泉街で観光地なので、たまたま通りかかって、この辺りではベトナム料理が珍しいからと来店してくださるお客さんもいます。特にフォーと揚げ春巻が人気で、『また来ます』と言ってくださる方や、常連のお客さんもできて感謝しています。子どもたちも学校やこちらでの生活に慣れてきたので、今後も福島には長く住んでいけたらいいなと思っています」
福島県内では会津若松市の温泉ホテルも現在改装中で、来年の営業開始を予定しているといいます。前を向いて新たな場所で歩みを進めながらも、リンちゃんを失った悲しみは7年経っても変わらないと話します。
「時間が経つのはあっという間で、今でも悲しい気持ちは当時と変わりません。昔は、毎朝、毎晩泣いていました。今でもたまに同じくらいの年齢の子を見ると「リンちゃんが生きていたらきっとこのくらいかな」と思うことがあります。でも、自分たちの未来のため、3人の子どもたちのため、リンちゃんの分も家族みんなで頑張っていきたいと思っています」
取材・文/内橋明日香 撮影/武藤貴之