「拷問みたいに痛い!なのに慣れると体がスッキリ!」と評判の『胸椎伸展 10分寝るだけストレッチ』。考案したのは、世界最高峰の「マリインスキー・バレエ団」に所属するバレエダンサー・石井久美子さんです。自身が腰を痛めた経験から「胸椎」に着目したという石井さんに、普段あまり運動をする習慣がない人にこそトライしてほしいという超初級ストレッチを教えてもらいました。

日本人の自分とロシア人のダンサーの決定的な違いに愕然

バレエダンサーの石井久美子さん

舞台に立った瞬間、芸術性を求められるロシア・バレエの世界。世界最高峰のダンサーたちと踊る中で、彼らと自分は何が違うのか、日々、研究していました。

 

日本人の踊りは、「平たんで深みがない」とよく言われます。また、多くの日本人ダンサーが10代で腰を痛めるのに対し、ロシアのダンサーたちは、腰痛とは無縁…。私自身、高校生のときに腰を痛めた経験があったので、何か根本的なことを直す必要があると感じていました。

 

当時は、「胸椎」という言葉すら知りませんでしたが、背骨の胸辺りの部分に、腰痛にならないヒントや、深みのある踊りの秘密があるのではないかと思っていました。そうやって試行錯誤するなか、「胸椎伸展」は生まれました。

 

胸椎を柔らかく、しなやかにすることで、私の踊りは劇的に進化し、腰痛とも無縁になったのです。これを「腰痛がなくなるエクササイズ」として動画で発信をしたところ、数多くの反響をいただきました。なかには、「ぐっすり眠れるようになった」「姿勢がよくなった」「スタイルがよくなった」などの声もいただいたのです。

 

バレエダンサーの石井久美子さん

やればわかる!胸椎伸展で驚くほど身体が変わる

人が活動するときの姿勢は、ほとんどすべてが「前屈み」。でも、前屈みの姿勢に、いいことは一つもありません。前屈みの姿勢でいると、背中が丸まり、ねこ背になります。それに連動して腰が丸まり、骨盤が後ろに倒れていきます。すると、内臓は圧迫され、おなかがポッコリと出た体形になります。前屈みの姿勢は、健康状態に大きな悪影響を与えるだけでなく、年齢に関係なく、貧相で老けた見た目にしてしまうのです。

 

胸椎伸展は、そんな「前屈みがデフォルトになった体を、強制的にリセット」するストレッチです。基本、10分連続で行うのが、圧倒的な効果が出る理由。身体の変化は、やったその日からわかるものから、数日、または数週間で現れるものもあります。見た目の変化が出てくるには時間がかかりますが、効果自体は即、体感できます。

 

たとえば、「反り腰が改善して腰痛がなくなる」「自律神経が整い、寝つきがよくなる」「下っ腹がへこみ、ウエストが細くなる」といった効果が期待できるそうです。

二重あご、たるみも解消!「胸椎伸展」超初級編

胸椎伸展は、3分やれば3分のよさを実感し、10分やれば10分やっただけの効果を実感できます。それは体の変化のスピードにも同じことがいえます。何分やるかは、自分次第。自分に合ったやり方でトライしてみてください。

 

まずフォームローラーを使って胸椎伸展を行いますが、実は、この段階がいちばんきついかもしれません。なぜなら、今が一番、体が硬いからです。でも大丈夫。体は驚くほど変わってくれます。フォームローラーを背中に当てて、まずは3分を目指しましょう。

 

バレエダンサーの石井久美子さん
フォームローラーは必ず準備を。直径14センチのものが最適

フォームローラーを当てる位置が正しくないと、胸椎がうまくしならなかったり、腰を痛めたりする原因になります。

①ヨガマットの上に座って足をヨガマット幅にセット

タイマーを手の届く位置に置き、10分にセットして、あおむけに寝ます。

②フォームローラーを入れる

腰を上げ、一番下の肋骨にフォームローラーの下端を当てて、フォームローラーの上に体をおきます。後頭部がヨガマットに着いた状態をキープ。

 

バレエダンサーの石井久美子さん
あおむけに寝て腰を浮かせ、フォームローラーを肋骨の一番下の位置に合わせて当てる

③息を吐くことに集中して全身、脱力する

両腕を上げて両手を頭の下で組み、呼吸をゆっくり繰り返します。吐くときに、全身の力を抜いて、頭も、お尻も脱力。足や股関節も緩めていきましょう。

 

バレエダンサーの石井久美子さん
両手を頭の下で組み、ゆっくり呼吸を繰り返す。この状態でまずは3分

胸椎がしなっていくとき、骨が動くので痛みを感じます。「折れるんじゃないか」と思うような痛みですが、このストレッチは、感覚が鋭敏になるのでそう感じるだけ。大丈夫です。通院中の人は主治医の許可をとってから行ってください。

 

まずは3分やってみましょう!30秒休んで、もう2セット行います。慣れてきたら5分×2セットに、さらに慣れたら、10分連続で行います。始めたその日から、身体の変化をしっかり感じられるはずです。

 

PROFILE 石井久美子さん

1994年東京生まれ。8歳でバレエを始め、2011年にロシアの国立ワガノワバレエアカデミーに留学。2013年に同校を卒業後、マリインスキー・バレエ団にアジア人女性として初めて入団し、数多くのソリスト役を演じる。主宰するバレエ学校では、アマチュアから世界のトッププロダンサー、教師までがレッスンを受けている。2023年にはオンラインバレエスクールも開校し、大好評を得ている。著書に『胸椎伸展 10分寝るだけストレッチ』(主婦と生活社)がある。

 

取材・文/萩原曜子 撮影/只石布久美