14歳で芸能界デビューを果たした川上麻衣子さん。「ヌードは公表しない」と決めていた川上さんが、どのような経緯で17歳でヌード写真集を出したのか、また写真家・篠山紀信さんとの撮影エピソードを伺いました。(全4回中の2回)

「写真集はやらない」「ヌードは公表しない」から一転

── 10代で出されたヌード写真集について、当時の心境をお聞かせください。

 

川上さん:当時は、「私は写真集はやりません」と決めていたのですが、樋口可南子さんや手塚理美さんなど、同じ事務所の先輩方が篠山紀信さんの撮影で写真集を出されていたことから、私も撮影していただくことになりました。

 

今では未成年のヌード撮影は法律的にNGですが、当時は児童ポルノ禁止法が制定される前のこと。撮影現場で「公表はしない」という約束でヌード撮影もすることに。撮影した写真を両親とともに見た時に、父が「作品として素晴らしい。世に出さないなんてもったいない」と感銘を受けていて。父のこのひと言で出版が決まったんです。

 

インテリアデザイナーの父は、趣味で写真を撮っていて、自宅には暗室もありました。篠山さんが私を撮影した写真を見た時は、とても感動した様子でした。

 

17歳の川上さんと篠山紀信さんの2ショット
17歳の川上さんと篠山紀信さんの2ショット

── 30代で再び写真集を出された時は、篠山さんとどのようなやりとりがあったのでしょうか。

 

川上さん:34歳の時、篠山さんと久しぶりに会って食事に行った時、「当時は修正をかけなければ出版できなかったけれど、今はヘアヌード解禁の流れにある。10代で取った写真を修正なしで発表させてほしい」とオファーを受けました。その申し出を受けた際、「今の川上さんの姿も撮ろう」ということになり、食事会の1か月後にはフランスでの撮影スケジュールが組まれていました。

 

── 篠山さんとの撮影で印象に残っているエピソードはありますか?

 

川上さん:篠山さんは、気分が乗った時に集中的にシャッターを切るスタイルで、なかなか撮影が終わらないということも珍しくありませんでした。2回目の写真集の時は、1週間くらいフランスに滞在しましたが、集中して撮っていたのは3日間くらいだったように記憶しています。

 

また、撮影中はいつも音楽をかけていました。17歳の時は日本の歌謡曲が多く、井上陽水さんや来生たかおさんの曲が現場に流れていました。34歳の時は、私が好きだった『橋の上の娘』という映画のサントラをリクエストしたところ、篠山さんも気に入ってくれて。撮影中はずっと同じCDを流していましたね。衣装も自分で選ばせてもらったので、最初の写真集と比べると、自分の好きなムードの中で自由に撮影させてもらったという印象でした。

 

30代後半の頃の川上さん。18歳の頃から猫と一緒に過ごしてきた
30代後半の頃の川上さん。18歳の頃から猫と一緒に過ごしてきた

── ヌード写真集の出版は、川上さんにとってどのような転機となりましたか? 

 

川上さん:17歳の時の写真集の出版以降、ヌードが絡む映画への出演が続くようになりました。20歳になったばかりの頃の初主演映画『うれしはずかし物語』でもベッドシーンがあり、色気を要求されることが多かったですね。当時は社会派ドラマを演じたい気持ちもあったのですが、全然そういう役への依頼が来なくて(笑)。写真集の影響の大きさを実感するとともに、「自分がやりたいこと」と「期待されること」のギャップを感じていました。

30代では志村けんさんに影響を受けコミカルな芝居にも挑戦

── 30歳でレギュラー出演した志村けんさんとのバラエティ番組では、これまでにないコミカルな役柄を演じられましたね。

 

川上さん:コミカルなお芝居は、これまでやったことのないジャンルで不安もありましたが、新鮮で楽しかったです。志村さん自身、「コントよりもドラマをやりたい」という考えを持っていて、「アドリブに見えるようなセリフ回しでドラマを作りたい」という思いで『志村X』の番組が始まったそうです。番組が進むにつれて、コント寄りに移行していきましたが、「ドラマ仕立て」という点では私も「演じやすい」と感じていました。

 

── 志村さんからはどのような学びを得ましたか?

 

川上さん:「表面だけで演じるのは絶対にダメ」ということを教えてもらいました。志村さんはコメディアンでありつつも、「俳優気質」の強い方。例えば、「酔っ払い」を演じる際も、「どんな会社に勤めていて、仕事で何があって飲みすぎてしまったのか」をきっちり裏づけをしたうえで笑いにもっていくんです。台本に書かれていない「役の裏側」を作り上げることの大切さを信念として持っている方でした。さらに、「見抜く力」もある方だったので、付け焼き刃の演技ではすぐに見抜かれてしまいます。そういう面では、撮影中は緊張感がありましたね。

 

また、仕事が終わった後、志村さんは出演者やスタッフと必ず飲みにいくのですが、お酒が入ると芝居の話や「こういうことをやってみたい」という今後への思いを饒舌に語ってくれて。「本当に芝居が好きな人なんだな」ということが、ひしひしと伝わってきました。志村さんは、これまで出会った先輩方の中で強く影響を受けた俳優さんの一人です。

 

志村さんと一緒に行ったスウェーデンでのロケの様子
志村さんと一緒に行ったスウェーデンでのロケの様子

 

PROFILE 川上麻衣子さん

女優。1966年、スウェーデン・ストックホルムで生まれ、幼少期はスウェーデンと日本を行き来する。1980年にデビューして以降、ドラマや映画、舞台など幅広く活躍。20代で吹きガラスを始め、現在ではガラスデザイナーとして隔年で個展を開催。2016年に台東区谷中にスウェーデン暮らしのデザインを中心としたセレクトショップ「SWEDEN GRACE」をオープン。2018年に一般社団法人「ねこと今日」を立ち上げ、イベントや譲渡会やを開催している。

取材・文/佐藤有香 画像提供/川上麻衣子