ドラマ『3年B組金八先生』や映画『その男凶暴につき』など、数多くの作品に出演してきた女優の川上麻衣子さん。両親からの大反対や学校の校則による芸能活動の制限など、さまざまな難関を乗り越えながら女優としての道を切り開いてきたそうです。(全4回中の1回)
「芸能界なんてもってのほか」大反対する両親に
──「演技の世界」を志すきっかけとなった出来事を教えてください。
川上さん:小学校のミュージカルで主役を演じたことがきっかけです。幼少期のスウェーデンでの生活で、小学生の頃は日本語がうまく話せず、コンプレックスを抱いていました。そんな時、当時の先生が英語でのミュージカル『メアリー・ポピンズ』の主役に抜擢してくれたのです。得意な英語を生かして演技をするなかで、「お芝居って楽しい」という気持ちが芽生えました。
また、当時、祖母宅の近所に脚本家の畑嶺明さんが住んでおり、手がけた台本を見せてくれたことがありました。畑さんの存在があったからこそ、演技の世界をより身近に感じられたのだと思います。
── 劇団に入ることについて、ご両親は反対されたそうですね。
川上さん:「芸能界なんてもってのほか」と両親は大反対でした。それでも「もっと演技をしたい」という強い気持ちがあって、部屋に閉じこもってストライキをすることもありました。結果的には、自宅に来てくださった畑さんが説得してくださって、両親の許しを得ることに。希望していた劇団と畑さんがつながりを持っていたことから、「この劇団ならば大丈夫だろう」と安心してくれたのだと思います。以降は、「劇団の採用試験を受けるならば、絶対に合格しなさいね」とプレッシャーをかけられるようになりました(笑)。
── どのような経緯で女優デビューされたのですか?
川上さん:13歳で劇団に入ってからは、週一回、日曜日にレッスンを受けながら、ドラマなどのオーディションを受けるようになりました。最初に出演が決まったのが『東芝日曜劇場』。主演の杉田かおるさんの友人役としてデビューして以降、続々と出演が決まり、『NHKドラマ人間模様「絆」』や『3年B組金八先生』などにも出演しました。
劇団に入団した年の夏に、舞台への出演が決まっていたのですが、公演が始まる頃には、さまざまなオーディションへの参加とドラマへの出演で、かなり忙しくなっていて。14歳の一年間は、記憶に残っていないほど慌しく過ぎていきました。
『金八先生』の出演は芸能活動の休止が条件だった
── 芸能活動と学校生活の両立はいかがでしたか?
川上さん:通っていた玉川学園中等部では、芸能活動が認められていなかったため、先生と相談しながら芸能活動をしていました。しかし、ドラマの撮影が始まってしまうと、早退や遅刻が増えて出席日数が危うくなってしまい…。学校側が難色を示していましたが、当時出演が決まっていた『3年B組金八先生』だけはやりきりたいと考えていました。そこで、「金八先生への出演後は、芸能活動を休止する」と約束することで許可を得て、最後まで撮影に参加させてもらいました。
── その後、どのくらいの期間をお休みされたのでしょうか。
川上さん:約半年の間、芸能活動を休んで学業に専念しました。同学園高等部に進学してからも、無欠席で通学。でも、半年ほど経つと、徐々に「もう一度芸能活動がしたい」という思いが募っていきました。「高校を卒業してから復帰するのでは遅いかもしれない。これまで培った演技の感覚を忘れてしまうのでは」という焦りも感じるようになり、先生に相談したうえで退学を決断。通信制高校のNHK学園に編入して、芸能活動を再開することにしたんです。両親には相談せずに事後報告したので、かなり驚いていましたね(笑)。
── 1981年、市川崑監督の映画『幸福』が復帰作となりましたね。
川上さん:そうですね。劇中では知的障がいのある女の子役を演じました。しかし、「よだれを垂らしながら木にしがみつく」といった芝居の内容に恥ずかしさを覚え、演じることが難しいと感じるように。割り切れない気持ちで悩んでいたところ、母親役の市原悦子さんから、「女優としては一番良い役をもらったのよ」と言っていただきました。
その言葉の意味は、当時は深く理解することができませんでしたが、今になって思うと、「どんな役柄でも演じることができるよう、女優として早いうちに経験を積むことが大切。幅広い表現が今後に生きてくる」というメッセージだったのかなと思っています。
PROFILE 川上麻衣子さん
女優。1966年、スウェーデン・ストックホルムで生まれ、幼少期はスウェーデンと日本を行き来する。1980年にデビューして以降、ドラマや映画、舞台など幅広く活躍。20代で吹きガラスを始め、現在ではガラスデザイナーとして隔年で個展を開催。2016年に台東区谷中にスウェーデン暮らしのデザインを中心としたセレクトショップ「SWEDEN GRACE」をオープン。2018年に一般社団法人「ねこと今日」を立ち上げ、イベントや譲渡会を開催している。
取材・文/佐藤有香 画像提供/川上麻衣子