人気ドラマ『交渉人~THE NEGOTIATOR~』などに出演し、活躍した俳優の林丹丹さん。仕事一筋の彼女でしたが、先輩俳優の生き方から価値観に変化が。結婚し、芸能界を引退した理由とは。(全3回中の2回)

俳優はいろいろな職業のなかのひとつ

── 高校卒業後は、ほぼ毎クールドラマに出演されていました。かなり多忙だったのではないですか?

 

林さん:ありがたいことに、忙しくお仕事させていただいていた時期もありました。寝不足が続く日もあったし、自分の力不足に悩む日もありましたが、大変な気持ちよりもお仕事をいただけることへの感謝の気持ちのほうが大きかったです。

 

デビューしてからさまざまな人と接するようになり、自分の世界が広がっていく感覚もありました。「俳優の仕事が自分のすべてだ」と思うくらいやりがいを感じながら、仕事に打ち込んでいましたね。

 

──  お仕事で経験を積むことで、視野が広がったのですね。

 

林さん:でも、20歳を過ぎたあたりから、「自分の世界はだんだん狭くなっているんじゃないか」と不安になってきたんです。デビューから無我夢中で働いてきて、ようやく気持ちの勢いが落ち着いてきた時期でした。

 

──  どうして「世界が狭くなっている」と感じるようになったのですか?

 

林さん:当時は、勉強のためにいろいろな俳優さんのお話を伺ったり、インタビュー記事を読んだりしていたんです。どのお話も勉強になったのですが、学生や会社員など俳優以外の時期を経験した人のお話が、深みがあってとくにおもしろかった。演技についても、俳優以外のお仕事を経験されていると、より説得力があるなと感じました。

 

深みのある話も、説得力のある演技も、俳優の仕事しか知らない私にはない視点から生まれている。そう気づいたら、「私が知っている世界って狭いんだ」と思ったんです。

 

「自分の世界はだんだん狭くなっているんじゃないか」と悩んだ
「自分の世界はだんだん狭くなっているんじゃないか」と悩んだ

──  とくに印象に残っている方のお話を伺ってもよいですか?

 

林さん:感銘を受けた俳優さんは何人かいらっしゃるのですが、なかでも堺雅人さんのインタビューが印象に残っています。堺さんが学生のころを振り返りながら、俳優の仕事についてお話しされていたのですが、大学生活やアルバイトの経験も、その後の人生や仕事に大きな影響を及ぼすことに衝撃を受けました。

 

落ち着いて考えたら、当たり前のことかもしれませんよね。でも、俳優の仕事がすべててだった私にとっては、目から鱗だったんです。「俳優は、いろいろな職業のなかのひとつなんだ」と、気づくきっかけになりました。

 

世界は自分が思っているよりも広いと知った途端、「このまま俳優だけを続けていたら、自分の世界が狭くなってしまうのでは」と、だんだん自分の将来が不安になっていきました。

「将来を隣で見ていたい」と結婚を決めた

── そんなときに、旦那さまと出会われたのですね。人気俳優だと、デートも気をつかったのではないですか?

 

林さん:夫とは友人の友人として出会って、みんなで何度か食事をするうちにおつき合いが始まりました。私は、周りの目を気にせず夫と食事や買い物に出かけていましたよ!20歳を超えた大人だし、やましいことをしているわけでもないので、オープンにおつき合いしていました。

 

── 旦那さまはどんな方ですか?

 

林さん:夫は常にポジティブで、私にはない面をたくさん持っている人です。夫の仕事に対する考え方を聞いていたら、いままで知らない世界を見せてくれそうな予感がして、「この人の将来を、隣で見ていたい」と思うようになりました。

 

ポジティブな夫との出会いが人生の契機に
ポジティブな夫との出会いが人生の契機に

はじめて感じた「生きるって楽しい」

── 結婚後、芸能界を引退されました。引退についてはいつ頃から考えていたのでしょうか?

 

林さん:結婚が決まってから、夫と長野県に何日か滞在したことがあったんです。山って空気がきれいで、時間もゆったりと流れているんですよね。地元は都会だったし、母が忙しくてほとんど旅行をしたことがなかったので、自然のなかで数日間過ごすなんてはじめての経験で、その心地よさに驚きました。

 

思い返せば、それまでずっと明日の生活や仕事のことを心配しながら、時間に追われて生きてきました。だから、何も心配せずにゆったり過ごすことができて、はじめて心から「生きるって楽しいな」って思えたんです。

 

17歳でデビューしてから無我夢中で働いてきて、「楽しく生きること」なんて考えたこともなかった。そのとき、「頑張り続ける生活からいったん離れて、やりたいことをのんびりと見つけよう」と引退を決めました。

 

その後家庭に入ったのは、以前、婦人科系の疾患を患った経験があったので、結婚したら早く子どもが欲しかったからです。もちろん、日々の暮らしを整えて夫をサポートしたい気持ちもありました。これからは、家事や育児をしながら自分の世界を広げていきたいと考えました。

 

「早く子どもがほしかった」と語る林丹丹さん
「早く子どもがほしかった」と語る林丹丹さん

 

PROFILE 林丹丹さん

大阪府出身。日本語・英語・中国語が話せるトリリンガル。2006年国民的美少女コンテストでグランプリを獲得し、デビュー。『交渉人~THE NEGOTIATOR~』など人気ドラマで活躍も、2013年に結婚し、翌年に芸能界を引退した。2児の母として幼稚園・小学校受験を経験し、2024年に芸能界に復帰。

取材・文/笠井ゆかり 画像提供/林丹丹