「勉強はしなくてもいい」と言われて

ヴァイオリン演奏中

── そのときの宮本さんにその言葉はどのように響いたのでしょうか?

 

宮本さん:父自身も世界で認められるまでは海外で差別にあうなど、いろいろなことを乗り越えて道を切り開いた人なので、その言葉の説得力はすごく大きいものがありました。ただ、確かに父の言う通りだと思いつつも、毎日本当にツラいときには簡単に受け入れることではないですよね。

 

高校3年生のときにはほとんど学校へ通うこともできなくなりました。でも父から「学校に行きなさい」とは言われず、むしろ「勉強はしなくてもいい」と言われたんです。

 

── お父さんが本当に伝えたかったことは何だったのでしょうか?

 

宮本さん:勉強はあまりできなくてもいいけれど、何かひとつ自分ができるものや情熱を傾けられるものに向き合い、そこで負けてほしくないということでした。情熱を傾けられるもの、それがいつか自分の人生の武器や支えになるのだから、それをちゃんと確立して自分の世界を作り上げてほしいと。それを作り上げられるのであれば勉強はそこまでできなくてもいいと。私にとってそれはヴァイオリンでした。

 

── お父さんの言葉の真意を知ってから宮本さんの中でどのような変化がありましたか?

 

宮本さん:本当に少しずつ、少しずつではありますが、このまま負けたくないと思いはじめ、この状況を変えるためには自分の実力を示して周りを納得させなければならないんだろうなと。それで全校生徒が聴ける最後の実技試験では全力で演奏しようと決意しました。そこにむかって毎日毎日すごく必死にヴァイオリンと向き合って練習をし、本番ではそれこそ命をかけるような覚悟で演奏。周囲の私を見る目が変わったなと感じられた瞬間でした。

 

PROFILE 宮本笑里

ヴァイオリニスト。東京都出身。14歳でドイツ学生音楽コンクールデュッセルドルフ第一位入賞。その後は、小澤征爾音楽塾、NHK交響楽団などに参加し、07年「smile」でアルバムデビュー。様々なテレビ番組、CMにも出演するなど幅広く活動中。2022年7月デビュー15周年を迎え、同月には15周年記念アルバム「classique deux」をリリース。

 

取材・文/平岡真汐 写真提供/宮本笑里