また血だらけか…と思っていたところに

── 数々のホラー作品に出演し、その高い演技力で“ホラークイーン”と言われるようになりましたが、ご自身ではどう感じていましたか? 

 

佐伯さん:オファーをいただけることは本当にありがたいことでしたが、ホラー作品のオファーしか来なくなってしまったんです。自分の役が固定化されてしまっている現実に悲しくなり、次第に自分の顔も嫌になって、自分で自分の顔を鏡で見て、お化けみたいで怖いと思うように。

 

そんなときにもらったファンレターに「日菜子ちゃんは、本当はお化け屋敷のお化けじゃないですよね」と書かれていて、私って世間からそういう風に見られているのだと落ち込みました。

 

── その悲しい気持ちを振り払えた転機はなんでしたか?

 

佐伯さん:ひとつの転機になったのはドラマ『TRICK』への出演ですね。オファーをいただいた当初は、また怖い役か、また血だらけか…と、自分の中ではお断りしたいと思っていたんです。

 

でも事務所の社長が「これは絶対にやった方がいい。コミカルな部分もいっぱいあるし、堤幸彦さんの作品だからきっと面白くなるよ」って背中を押してくれて。それを聞いても自分としては大変失礼なのですが、あまり気は進みませんでした。

 

── 実際に現場に行ってみていかがでしたか?

 

佐伯さん:私の出演した回は『モテキ』の大根仁さんが監督だったんですが、大根監督が暗い雰囲気のなかでもクスッと笑えるアイデアをたくさん出してくださったんです、こんなのもいい、あんなのもいいって。同じような役柄でもこんな引き出しが自分にもあるんだ!という発見が嬉しかったです。本当に楽しくて時間があっという間に過ぎました。

 

しかもそれを機に街でも「トリック見ました」って、気軽に声をかけていただく機会も増え、私にとって『TRICK』への出演は高いハードルだったんですが、勇気を出して本当によかったです。なんか、当時のことを改めて思い出すと少しエモーショナルな気持ちになっちゃいますね。

 

PROFILE 佐伯日菜子

1977年生まれ。17歳のときに、映画『毎日が夏休み』で主演デビュー。同作品で、『第18回日本アカデミー賞』新人俳優賞を受賞。映画『らせん』で山村貞子役を演じ、その後はホラー漫画家・伊藤潤二の原作を映画化した『うずまき』などに出演し、 “ホラー・クイーン”としてJホラーブームを牽引した。


取材・文/平岡真汐 写真提供/佐伯日菜子