幼い頃から「女優」への夢を抱き続けていた酒井美紀さん。小学5年生の時に芸能界入りの決意を固め、15歳でデビューを果たしました。どのようなステップで夢を実現させたのか、酒井さんにデビューまでの歩みを振り返っていただきました。(全3回中の1回)

「中山美穂さんみたいな女優になりたい」

── いつ頃から女優への道を志していたのでしょうか。

 

酒井さん:小学校低学年の頃、中山美穂さんに憧れて「女優になりたい」と考えるようになりました。当時はアイドル歌手として活動している方が多いなか、中山さんは歌とお芝居を両立されていて「素敵だな」と感じていました。

 

── 芸能界を目指そうと決意した、きっかけとなった出来事はありますか?

 

酒井さん:小学校5年生の時に出演した、「子どもミュージカル」がきっかけです。その年、地元の静岡市が市制100周年を迎え、記念行事の一環で「子どもミュージカル」が企画されました。小学校で「出演者募集」の応募用紙が配られ、オーディションを受けることに。無事に合格することができ、その年の秋にミュージカルの舞台を踏みました。

 

その時の、「スタッフや出演者みんなで作品を作り上げた」という経験が、私の中で革新的な出来事となり「この世界に入りたい!」と強く意識するようになったんです。

 

デビュー前の劇団員時代(写真左)
デビュー前の劇団員時代(写真左)

また、ミュージカルに出演した子どもたちの中には、女優さんやアイドル歌手に憧れる子たちも多くいました。劇団や音楽学校でレッスンを受けている子もいると知り、親に頼み込んで、ボイストレーニングと演劇のレッスンに通わせてもらうことになりました。

 

── 歌のレッスンも受けていたのですね。

 

酒井さん:当時は、芸能界デビューをすると歌をレコードで出すのが一般的でした。「歌もできた方が芸能界へのチャンスが広がるだろう」ということで、ボイストレーニングを始めていました。

 

──「女優になりたい」という思いを、ご両親はどう受け止めていたのでしょうか。

 

酒井さん:小さい頃から「女優になりたい」と言っていたので、親は反対しませんでした。でも、「やるならちゃんと続けること。途中でやめないこと」という約束を交わしました。歌や演技のレッスンは、一般の習い事よりもお金がかかりますし、当時住んでいた静岡市から音楽学校のある浜松市まで電車で約1時間かかるため、交通費も必要です。子どもながらに「親に負担をかけているな」とは感じていましたが、「やるからには頑張ろう!」と心に決めて、通うことにしました。

「中山美穂さんが出る映画だから」と告げられて

── どのような経緯で歌手デビューされたのでしょうか。

 

酒井さん:1991年の終わり頃、通っていた音楽学校の発表会があり、見にきていた芸能事務所の社長さんにスカウトされました。そして1993年4月、15歳のときに歌手としてデビューさせていただきました。

 

── 歌手としての活動はいかがでしたか?

 

酒井さん:とにかく忙しかったです。当時はアイドル歌手の全盛期。デビューして曲を出すと、全国各地のイベントに出演して売り歩くことになっており、地方で催されるお祭りやイベントで歌ったり、ラジオの公開生放送に出演するなど、次々とスケジュールが埋まっていきました。日本中を渡り歩いていたので、女優業をやれる余地はありませんでしたね。

 

── 1995年のときに、映画『Love Letter』で女優デビューとなりましたね。

 

酒井さん:事務所から言われて受けた、初めてのオーディションが『Love Letter』でした。地元の静岡から新幹線でオーデイション会場に向かう途中、マネージャーから突然「中山美穂さんが出る映画だから」と告げられて(笑)。「このタイミングで言うの!?」と、とても驚きました。私がずっと憧れていた女優さんということもあり、「いつ伝えるか」を事務所側も迷っていたのかもしれません。

 

映画『Love Letter』撮影時のオフショット
映画『Love Letter』撮影時のオフショット

── 初めてのオーディションは、緊張せずに臨めましたか?

 

酒井さん:オーディションの経験がないので、どうしたらいいかわからず、かなり緊張していました。オーディションの内容は、渡されたセリフをカメラに向かって話すというもの。その数日後に「もう一度来てほしい」と呼ばれて行ってみると、岩井俊二監督を含め3人のスタッフの方が部屋で待っていて、皆さんと「話をする」という審査内容でした。

 

そのときは、地元のことなどを質問されて、ただ雑談をしているような感じ。「オーディションらしくなかったな」と思いながら帰宅したことを覚えています。今思い返すと、話し方とか役柄に合った雰囲気かどうかとかを見られていたんだと思います。このような経緯で合格となり、16歳で映画デビューとなりました。

岩井監督にもどう伝えればいいのか

── 憧れの中山美穂さんとはお会いできたのですか?

 

酒井さん:一度だけ同じ撮影日があり、現場でご一緒させていただきました。私は中山美穂さん演じる、藤井樹という役の中学生時代を演じました。そのため、同じシーンに立つことはなく、現場でお会いしたのも一度きり。でも、そのときに中山さんと雑誌の取材を受けて、写真も撮ってもらえて、とても嬉しかったですね。「ファンでした」と本人に伝えましたが、中山さんからどんな返答をもらえたのかは、緊張のあまり覚えていません。でもすごく優しかったのを覚えています。

 

── 演技をするうえで、大変だったことはありましたか?

 

酒井さん:自分の演技に自信が持てず、「迷惑がかからないようにしなきゃ、NG出さないようにしなきゃ」と思っていました。常に不安な気持ちでいるのですが、それを言葉にできなくて…。岩井監督にもどう伝えればいいのかわからずにいました。

 

── 監督からはどのような指示がありましたか?

 

酒井さん:監督からは「絵コンテの通りに演じてくれればいいから」と言われていました。この作品では、活字の台本だけでなく、監督が思い描く映像を絵にした「絵コンテ台本」というものを渡されていました。監督の頭の中をアウトプットした台本が手元にあることで、演技のイメージはしやすかったと思います。不安ながらも「監督がOKを出してくれているから、これでいいんだな」と自分を納得させていました。

 

酒井美紀さん
酒井美紀さん(撮影/コハラタケル)

 

PROFILE 酒井美紀さん

女優。1978年、静岡県で生まれる。1993年に歌手としてデビューし、1995年に出演した映画『Love Letter』『ひめゆりの塔』では、日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。その後、ドラマ、映画、舞台と幅広く活躍する。国際協力の知見を生かし、2007年より国際協力NGO「ワールド・ビジョン・ジャパン」親善大使を務める。2021年に、(株)不二家の社外取締役に就任。

取材・文/佐藤有香 画像提供/酒井美紀 サムネイル写真撮影/コハラタケル