ドラマや映画、舞台など女優として活躍している松下由樹さん。50代の今、自分の意見を主張するようになっていた20代を振り返り、ゆるやかな気持ちの変化を感じるそうです。(全3回中の2回)
昔は出演シーンがカットされ腐りそうになったことも
── 松下さんは、穏やかな笑顔が印象的で、気さくな方というイメージがあります。
松下さん:年齢で性格はどんどん変わってきたと思いますが、特に20代の頃は監督に何か指示されても、「はい」と言いながらしれっということを聞かない、なんてこともあって(笑)。
昔はそういう気の強さも持っていたんです。でも、ここ5年くらいは気持ちが変わってきて、「自分の意思を伝えるだけじゃなくて、相手の意思を受け取ることも大事なんだな」と思うようになりました。もちろん、昔も大事だと思っていたことですが、昔よりも、役者さんやスタッフさんたちと一緒にチームを組んで、同じ方向に向かって仕事をやり遂げることにおもしろさを感じています。
ドラマでも自分の出演シーンがカットされちゃったりすると、昔は「カットされちゃったんだ」と悲しくなることがあったし、腐りそうになったこともありましたが(笑)、今は変わりました。
── そうなんですね(笑)。
松下さん:例えば、後半のわちゃわちゃしたシーンがおもしろかったから「使ってほしいな」と思っていても、本番ではカットされたりすることがよくあるんです。そういうときに、「このシーンのためにみんなで芝居や空気感を一生懸命つくったから、次のシーンがもっとよくなったんだ」と思えるようになりました。
── カットされたシーンは、次のシーンをより魅力的にするんですね。
松下さん:そう思えると、とにかくやってみること、恥をかいてでもトライすることって大事だなと思います。だから、もう気取っていられないんです。「自分をこう見せたい」という気持ちもなくて、それより、「まわりからどう思われても、やるべきことをきちんとやりきることが大事だな」と最近あらためて思います。
若い頃も頭ではそれが大事だと理解していたつもりでした。でも、最近になってようやく行動が伴うようになった気がします。
── ご経験を積み重ねることで、さらにご自身の受け皿が深くなったということでしょうか。
松下さん:「気負わずに」とか「適度に」とか、昔だったら「そんなこと思ってはいけない」と思い込んでいた言葉も、「いいほうに取ればいいのか」とポジティブに受け取れるようになりました。50代半ばになって。遅いかもしれませんが(笑)。
人と関わるって難しいと思うことも
── 仕事や人生を豊かにするために人間関係で心がけていることはありますか?
松下さん:人と関わっていくことは「難しい」って思っちゃうときもあります。仕事場では、踏み込んでいいのか、踏み込まないほうがいいのか、コロナ禍は特に距離感がわからなくなった人も多いのではないでしょうか。私は、今また距離を縮められる喜びを感じていますし、やっぱり何かひとつのことを通してみんなと結びつくことって大事だなあとも思っています。
役者をやってきて、ひとつの作品のためにみんなで輪をつくっていく日々があるから、お互いの何かを感じ取れたり、学びを得たりできていると思っています。仕事の現場でも、ある程度の距離感を保ちつつ、遠慮なくいくところはいったほうがいいんだろうなと思いながら、まわりの方々と接しています。
それでも気づかったり、緊張したり、照れたり…いろいろありますね。でも、みんなで同じ方向を見ていくことの大切さ、ありがたさをあらためて実感しています。
いつまでも活舌よく、しゃんとしていたい
── 今後、叶えたい目標はありますか?
松下さん:やっぱり女優として、これからも各年代で代表作ができるといいなと常に思っています。時代に合った役柄を演じられる、必要とされる役者でいたいなという目標は持ち続けていたいです。だから、生き生きと元気でいることが一番いいなと思っています。年齢を重ねても、いつまでも活舌よくセリフが言える役者でいたいですね。
── 私は活舌が悪いので、松下さんはいつもセリフが聞き取りやすくてすごいなあと思います。活舌をよくするために工夫されていることはありますか?
松下さん:昔、何かの番組で見たのですが、唇をぷるぷるってしながらセリフを言うと、活舌がなめらかになるんです。不思議ですよね(笑)。巻き舌はできないのですが、唇をふるわせて「ぷるぷる」ってさせることはできるので、活舌がうまくいかないなあと思ったときはこの方法を試します。
活舌って、緊張とかいろいろな状況からうまくいかなくなったりするんです。だから、突然口がまわらなくなったりすることも当然あって。自分もそんな状況がよくわかるから、この前も、一緒に演じている役者さんに教えてあげました。裏技みたいになっていますが(笑)。
── ありがとうございます。やってみます(笑)。
松下さん:やってみてください(笑)。私は、自分の出番だろうがそうでなかろうが、いつも活舌をよくしていたいですね。おばあちゃんになってもしゃんとしていたいです。
ただ、年齢関係なく、「なんかいいな」って思われたいですね。「なんかいいな」って雰囲気を出せる役者でいたいなと思います。
PROFILE 松下由樹さん
女優。愛知県出身。15歳で映画『アイコ十六歳』のオーディションに合格し、女優デビュー。以後、数々のドラマや映画、舞台などで活躍の場を広げる。現在は『おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!』『恋する警護24時』に出演中。6月2日(日)~6月27日(木)まで、熱海五郎一座の舞台『スマイルフォーエバー~ちょいワル淑女と愛の魔法~』に出演予定。
取材・文/高梨真紀 写真提供/イエスコレクティッド