娘が中学1年生のとき、再び同居を始めた島田珠代さん。離れて暮らした10年間の空白。大ゲンカして、お互いの生活も知って…家族の距離感を考えさせられました。(全4回中の4回)
10年ぶりに娘と同居「親子の感覚がわからなくて」
── 別居中のご主人がなくなったため、10年ぶりに娘さんを引きとり一緒に暮らしはじめた島田さん。同居をし始めたころはどのような感じでしたか?
島田さん:娘とは3歳から小6まで離れていたので、最初1年くらいはなんとなく猫をかぶったような感じでした。
離れて暮らしていた間も、2週間に一度は名古屋まで会いに行っていましたが、ディズニーランドや温泉に行ったり、公園の帰りに外食する、というきれいごとだけの10年間だったんです。
3歳のときに離れたので、親っていうのは一方的に叱っていいものだと、まだ私は考えていたんです。子どもは親の言うことを聞いて生活するものだって思いこんでいました。
── 思春期の娘さんと突然一緒に生活することになり、お互いとまどったでしょうね。
島田さん:中1のときは叱ってばっかり。あとから聞いたら、娘も内心はいろいろ考えていたけれど言い返せなかったそうです。
まだそこまで慣れてなかったので。私たちは、いろんな困難をのりこえて親子の絆が深まる経験をまったくしてなかったんですよね。
娘に激怒され「母親とは何か」を実感した日
── 娘さんに変化があらわれたのはいつごろですか?
島田さん:中2のある日、娘が「いいかげんにしてよ!」と怒り出しました。「ママは私のこと叱ってばっかりだけど、ママも悪いところあるし、間違っていることもいっぱいある」って。
そして「これまでも、私は“こうだよ”って言っていたのにママはまったく聞いてくれない。私の言葉を全部かき消して、叱って、私を押さえつけようとしていた」とも。そのとき、私は間違っていたとやっと気づきました。
それから、私も間違いがあれば謝るようにして、娘のわがままや主張を受け入れてこなかったのをあらためました。
── 娘さんが主張できるようになったのは大きな前進ですね。
島田さん:このことがあって、やっと血のつながりを感じられるようになりました。子どもは無条件で親の言うことを聞くもんや、なんて古いですよね。親が怒って手を上げるなんてよくないし、時代も変わりました。
娘がわがままを言うのも、単なるわがままや言うことを聞かないんじゃなくて、私に甘えてるんですよね。そんなことにも気づけないほど、母親ってどういうものかをわかってなかったんです。
── 娘さんは大きな気づきをくれましたね。その後はケンカもなく落ち着いてますか?
島田さん:もう一度、中2のとき、大きなケンカをしました。娘がご飯をボイコットして、2か月くらいしゃべってくれなかったんです。
そのときはもう、芸人も何もしたくないって思いました。劇場も行きたくなかったくらい。実際は笑顔で出てましたけど、がらんどうの空っぽみたいな気持ちでした。
娘と別居中、私の母が名古屋で夫と娘の世話をするために同居してくれていたのですが、娘から「おばあちゃんとはいっぱいケンカしたけど、私が一番大変なときにおばあちゃんがいてくれた。私はママより、いまはおばあちゃんのほうを母親だと思っている」って、言われました。うわーーっ、もうこんな切ない気持ち生まれて初めてやわ、って。
いままでは仕事を第一にしてきましたが、娘とぶつかって目が覚めました。私は芸人である前に人間なんやって。本当に妙なプライドもなくなりましたね。子どもって、ほんまにすごい存在です。すごいことを教えてくれます。
「スベって落ち込んでも」励ましてくれる娘の存在
── 最近は、娘さんとの関係はいかがですか?
島田さん:ぶつかることによって絆が深まり、やっと親子になれました。ふたりとも、もうあのときには戻りたくないと思っています。
いま、娘は中3で受験生です。以前の私なら「ここの学校行け!もっとがんばれ!」と言ってたはずです。でも、いまはある程度「勉強してね」と言いますが、本人が頑張ったならそのまま受け入れるつもりです。
── 娘さんは、島田さんのことをどんなふうにとらえているのでしょう?
島田さん:狭い家の中を走りまわって、洗濯物をとりこみ、たたんで、また走ってトントントンってご飯作って、夜中の稽古に行って…という私を見て、頑張っているなぁと思っているようです。
── お母さんが芸人として舞台に立っていることについては?
島田さん:私が芸人だというのは、たまに信じられない気持ちになるそうです。「ママが芸人さんだっていうのはあまり考えないようにしている」って言っていますね。
娘は、私が劇場でスベったり、テレビでもうまくいかなかったときに、ガッカリしていたらすごく励ましてくれます。
「芸人さんやめても、私が頑張っておそうじのバイトとかいろいろ働いて、お給料もらってご飯たべさせてあげる。スベってもそんなに落ち込まないで」って言ってくれます。私と暮らしてみて、裏では芸人が大変だと気づいたんでしょうね。だから、すごくねぎらってくれますよ。
── 娘さんは、新喜劇を観にきますか?
島田さん:観にきますよー。「ママ、かっこよかったよ」って言ってくれます。ほめ上手、励まし上手な女の子です。あんなに元気をくれるなんて、娘は私の栄養剤。亡くなった夫の育て方がよかったんだなーと思いますね。
家でも、私、新喜劇並の動きやおしゃべりで娘の相手をすることもありますが、やっぱり娘はケラケラ笑ってくれるし、いまはもう楽しいことがいっぱいです。
PROFILE 島田珠代さん
大阪府出身。高校2年生の時、『4時ですよ〜だ』の素人参加コーナーに出演、17歳で吉本興業に所属。1990年代はじめより吉本新喜劇の代表的女優として注目を浴びる。2008年に長女を出産。2023年芸歴35周年を迎え、なんばグランド花月で初の座長公演を行った。
取材・文/岡本聡子 写真提供/島田珠代、吉本興業株式会社