シニア向け女性誌のモデルとして活躍中の結城アンナさん(68)。近年は、結城さんのスローライフに注目が集まっています。そのきっかけは意外にも、10代に経験したパニック発作だったそう。その経緯をお聞きしました。(全3回中の3回)
パニック障害を発症…食や睡眠の大切さを思い知り
── 結城さんが実践されているようなスローライフに憧れる方は増えていますよね。
結城さん:丁寧な暮らしって、最初はゆとりがないと難しいですよね。例えば食べ物だって、安心できる食材を選ぶとけっこうお金がかかってしまうし。冷凍食品なら電子レンジで温めればすぐ食べられる。いっぽうで、野菜を買ってきてオリーブオイルを使って料理を作るとなると手間もお金もそこそこかかる。今の私は丁寧な暮らしを目指しているけれど、20代や30代にできたかなって考えると、難しかったかもしれません。
── 食べものや運動などに気を使うようになったきっかけはどんなことだったのでしょう。
結城さん:スローライフを意識しはじめたのは、パニック障害という病気を抱えてしまったからです。“どうすれば今の症状がよくなるのだろうか…”って、考えるところから始まったんですね。そこから身体を動かす運動以外にも、水や食事、そして睡眠が大事なんだとわかってきて。少しずつ体によさそうなものを取り入れていきました。
── 実際に身体の不調を感じるようになったのはいつごろからですか。
結城さん:18、19歳くらいからです。最初は、過呼吸のような症状で息がちゃんとできなくなって。だんだん症状がひどくなっていったので“もうダメだ…”って感じて、本気で自分の体に向き合うことにしたんです。
── 若くしてそんなご経験をされたのですね。女性は更年期などでも不調を感じやすいと言われますが、結城さんも年齢を重ねることで、不安を感じることはありますか?
結城さん:今だってこの先のことはわからないじゃないですか。そう考えればこれから先にも不安はあるにはあります。でも、歳を取るって当たり前のことなので受け入れるしかない。抵抗するよりも、今を楽しんだほうがいいかなと思います。
── インスタグラムを拝見すると、前向きに趣味を楽しまれているのが伝わってきます。素敵なイラストも投稿されていますね。
結城さん:なにか始めるとすごく一生懸命になるタイプなんです。今までも、エアロビクスとか空手とかいろんなことをやってきました。でもしばらくすると飽きてしまう。そしてまた新しいものを見つけると次に行くっていう感じですね。
じつはスウェーデンで生まれて育ったのに、寒いのが苦手。冬のスポーツは大嫌いなんです(笑)。でも、ウォーキングはずっと続けていて、ふだんからなるべく歩くようにしています。
── 60代になられた現在もすらっと姿勢がいいですよね。歩き方なども意識されていますか?
結城さん:歩き方は特に意識していないけれど、姿勢はとても大事ですね。とくに歳を取ってくると、顔や体の脂肪が全部下にいってしまう。だから正しい姿勢を保つのはとても大事です。あとは筋肉を柔らかくするためにも、ストレッチも必要。顔だけではなくて、身体もやっぱり筋肉が固まってしまうと、全部下に引っ張られてしまうので。モデルという仕事をしているから気をつけている面もありますね。
10代からのつき合いの夫と円満でいるためのマイルール
── 夫婦円満で過ごすために意識されていることはありますか?
結城さん:もちろんケンカもいっぱいするし、「なに、この人!」って腹が立って同じ空気を吸いたくないってときもあります(笑)。でも最後まで一緒にいようねって決めたわけだから、ケンカするのってある意味、無駄な時間じゃないですか。一緒にいるために、自分はどうしたいのか。まずは自分の気持ちを知ることが大事ですよね。
── 確かに、一緒にいられる時間を大事にしたほうが結局、無駄がないのかも。
結城さん:そうですよ。戦争のニュースなどを見ても悲しい気持ちになります。人生って短いのに、誰かを殺したり破壊したりするなんて愚かなんだろうって。たとえば家の中で考えると、夫と自分の2人しかいないわけじゃないですか。たった2人が仲よくできなくてどうするんだって。そう考えると、夫とも仲よく過ごせるよう前向きになれるんです。
── そういう夫婦関係に憧れます。インスタグラムで拝見しましたが、岩城さんも趣味人ですよね。今も大型バイクを楽しまれていて若々しいなと。
結城さん:夫は若いころからバイクに乗っているので、それが彼にとっての日常なんです。バイクは一番好きなことだから、バイクに乗って帰ってくると、もう10歳くらい若返ったような感じで(笑)。きっと体ではなくて気持ちの問題だと思うんです。だから、好きなことをやるのって、すごく大切なことだと思う。
しかも夫は、危ないことじゃないと楽しくないみたいだから(笑)。いっぽうの私は危ないことが大嫌いなんです! だからといって彼からバイクを取り上げる権利はないし、そういうことはしたくない。一緒にバイクで出かけるは嫌ですが(笑)。私は相手を尊重したうえで、相手が好きなことをやってほしいっていう考え方なんです。
── 夫だけが出かけたり趣味を楽しんだりすることをよく思わない女性も多そうです。
結城さん:私は自分が好きなことをしたいから、夫も好きなことをすることでお互いがハッピーになる生活を選んでいるという感覚です。夫がバイクに乗って幸せな気持ちで帰ってくるなら、私もそのほうが嬉しいから。結局、相手の機嫌って自分にも返ってくるんです。
年をとっても楽しく生きたいなら
── どうしても30代、40代は育児や仕事を優先してしまって、自分のことはあと回しにしがちです。
結城さん:私もずっとそうでした。でも、子どもが大きくなって家を出ていくと、ちょっと自分の時間ができるじゃないですか。50代になったときに、“ああ、もう人生の半分以上過ぎてしまったな”って。だからこそ、残りの人生はとても重要な時間なんだって思ったんです。これからは自分の好きなように生きていかなければ、何のための人生なんだろうって。それが原動力になって、イラストを描き始めました。
── 自分から動いてみることが大事なのですね。
結城さん:好きなことをやるには最初は勇気がいるけれど、ワンステップ踏み出せば、“なんだ、簡単じゃない”って思えるはず。考えすぎると、“隣の人から何か言われるかも”とか“夫に怒られるかも”って頭をよぎってしまう。でもそんなの関係ないから(笑)。全然、大丈夫ですよ。
── 歳を取ると新しいことに興味がもてなくなったり、行動力も落ちてしまいそうですが、結城さんが新しいことを始めるモチベーションはどこから来るのでしょう?
結城さん:やっぱり自分が楽しいと思えることを考えるのが好きなんですよね。でも世の中って、楽しいことが転がっているわけじゃないでしょ。だったら自分で作り上げなきゃ!って思っていて。自分が好きなことで周囲を盛り上げたり、みんなに自分の作品を見てみてもらったり。そういう楽しいひとときをつくるのが、私の生きがいなのかもしれません。
PROFILE 結城アンナさん
1955年スウェーデン生まれ。夫は俳優・岩城滉一。著書やSNS(Instagram@ayukihouse)でみずからの心地よいライフスタイルやファッションを発信。そのシンプルで自然体な暮らし方は世代を超えて支持されている。自身の描くイラストにも注目され2022年12月、初の個展を開催。雑誌やトークショーなど多方面で活躍中。著書に『自分をいたわる暮らしごと』『Anna's Cookbook/季節の食卓』(ともに主婦と生活社)、『北欧が教えてくれたシンプルな幸せの見つけ方』『アンナ流 大人の心地よい装い』(ともに宝島社)、『Then&Now/結城アンナ』(扶桑社ムック)がある。
取材・文/池守りぜね 写真提供/結城アンナ