歌手で俳優の森公美子さんは、歌唱力と演技力が評価され舞台のオファーが相次いでいるといいます。「たまにテレビも出なきゃ」と話す理由とは──。出演中のミュージカル「天使にラブ・ソングを〜シスター・アクト〜」が本日、静岡で千秋楽を迎える森さんにお話を伺いました。(全3回中の1回)

舞台を中心に活動する現在

── 舞台への出演オファーが相次いでいるそうですね。

 

森さん:今はミュージカルでスケジュールがいっぱいで、千秋楽を迎えてから次の作品の初日までの期間がかなり短い人のようです。「チャーリーとチョコレート工場」の公演が終わって、「天使にラブ・ソングを〜シスター・アクト〜」の初日までに行ったリハーサルはたったの3回。もうその週は、夜な夜な台本にしがみついて集中していました。いつまでできるかわからないのですが、こうやって64歳になった今も挑戦し続けられるのは楽しいですね。

 

森公美子さん
シスターを引き連れ、舞台のセンターで見事な歌唱力を披露する森さん 写真提供/東宝演劇部

舞台中心の生活になって、観に来てくださった皆さんと近くでお会いできるのが醍醐味です。でもときどき、テレビにも出る必要があるなと思います。ネットで、私の死亡説と両足断裂というデマが流れたんですよ。この前、テレビに出たら今度は「生きてるぞ」というのが出ました。うちは弁護士さんがちゃんといるので、しっかり対応してもらっています。

 

── 先日、「天使にラブ・ソングを〜シスター・アクト〜」の大阪公演で初めて1日2回も出演されたと伺いました。

 

森さん:前日の公演が終わって食事に出かけていたんです。お好み焼き店に行った帰りに、マネージャーとたまたまエスカレーターですれ違いざまに会って、「ちょっと話がある〜!」と慌てて言われました。

 

そこでダブルキャストの方が体調を崩されて、急遽、翌日に代打で出演することを知りました。でも聞いたタイミングがよかったです。食べている時だったら途中で、「もう帰るわ!」となっていたかもしれません。しっかりお好み焼きを食べて帰ってきて、いい感じなところで聞けたので(笑)。

 

でももう、私もそこからは「大変!急いで寝なきゃ〜!」となり、ご一緒した方たちも「早く寝かせなきゃ〜!」って。面白いコミュニケーションができていました。

 

── 歌もダンスも、全力な舞台ですね。

 

森さん:初演の2014年から出演させてもらっていますが、1日に2回公演は初めてでした。ずっと出ずっぱりで、セリフも長くて、あれだけ歌って踊って。すごくパワーがいるのでやりすぎちゃって、一公演終わった後はちょっと喉がおかしくなっちゃっているんですよ。でも今回、まだ声に余裕があったんです。周りからはレジェンドだと言われました(笑)。

 

宝塚出身の方の代役なので、彼女を楽しみに来られている方も多かったと思います。舞台の最後のご挨拶で「すみません、手足の短いデロリス(役名)で」と言ったのですが、お客様の反応もよかったので安心しました。

 

── 長年、同じ役を演じるなかでの変化はありますか。

 

森さん:海外公演も観に行きましたが、日本人がやるにはちょっとハードルが高いミュージカルだとは思います。私が演じるデロリスは破天荒なクラブ歌手の役なのですが、規律正しいシスターたちとの差を出さなくてはなりません。昔はもっと見た目も違っていたんですが、今回は見た目ではないところで表現しました。

 

人種や性別的なこともそうですが、どんどん垣根を潰していく時代でもあるので、声のトーンや表情、魂、マインドで表現していかねばならないのは大変だったなと思います。

 

エディとの恋心が目覚めるシーンがあっさりしてしまうともったいないなと思って、もっと丁寧に演じたんです。相手がこっちを見たら下を向くというようなものも加えて、少女に戻ったような、恥じらいも入れました。もともとアメリカの物語なので、「Yeah」というところも「あ、はい…」というような日本的なテイストにしてみました。こうしてみようと思って提案してみたら、演出家も「それはいいね」となって。毎回、発見がありますね。

同じ役を長年演じ続けて

── 森さんが出演される舞台は再演になる作品が多いですね。

 

森さん:「ラ・カージュ・オ・フォール」が38年、「レ・ミゼラブル」が26年になります。「天使にラブ・ソングを〜シスター・アクト〜」は、まさか今年もお声がかかると思いませんでした。去年、これで最後だという思いでやっていたんですが、実は最後の歌い方をもう少し変えたいなという思い残しがあって。そうしたらお声がけいただいて。今思い残すことは…あることはありますけど、まだ静岡での公演がありますから!

 

森公美子さん
2014年「天使にラブ・ソングを〜シスター・アクト〜」初演の頃の森さん

── 来年以降、オファーを受けた場合はどうされますか。

 

森さん:それはそのときの私の体力次第ですね。年明け1月には「チャーリーとチョコレート工場」福岡公演、そのあと3月には日生劇場での「カム フロム アウェイ」の公演があります。みんなはもう譜読みが始まっているんです。ひとつの作品中に他の作品の情報を入れると、どうしても前日に練習した作品の癖が出てしまうこともあるので、今回は「すみません、休ませていただきます!」と言って、「天使にラブ・ソングを〜シスター・アクト〜」に集中させてもらいました。

 

大阪公演でお休みが1日あったんですけど、やっぱり休めない性分なんです。オフでも楽屋に行って、みんながステージで歌っている時にガツんと裏で歌って。みんなが戻ってきたらシーンとして、あたかもいないような雰囲気を出して。みんなが再開したらまた練習を始めるなんてこともしていました。

 

家で練習する際は、カーテン全開で窓を鏡にして、大きく広く見て踊っています。ステップを踏む際は、うるさいと苦情が来てもあれなので、ちゃんと下にマットを敷いていますよ。意外と地道な努力が必要で、昨日今日でできるものじゃないんです。

 

── 今後のビジョンについて教えてください。

 

森さん:今は舞台を、できるうちにできるだけ出演したいと思います。生で観てもらえるうちにたくさん観ていただきたいですね。仕事は、1回いただくだけではなく、2回目、3回目と重ねて、「本当にこの人を信じていい」と思っていただけるかどうかだと思っています。何度も出演のオファーをいただけるのはとてもありがたいことなので、みなさんの期待に応えられたらいいなと思っています。

 

 

PROFILE 森 公美子さん

宮城県出身。歌手・俳優。昭和音楽短期大学卒業。二期会会員。定評ある歌唱力と魅力的なキャラクターで、数々のTV番組、ドラマ、CM、舞台と幅広く出演している。2014年「天使にラブ・ソングを〜シスター・アクト〜」第40回菊田一夫演劇賞受賞/主演:デロリス・ヴァンカルティエ役。

 

取材・文/内橋明日香 写真提供/森 公美子