舞台に立つまだ駆け出しのお笑い芸人を見て、急に「王子様いた!」と感じた小木奈歩さん。出会いから結婚までの道のりを聞きました。(全4回中の1回)

交際は「ひとめぼれ」から始まった

── 29歳でおぎやはぎの小木博明さんと出会い、6年間の交際期間を経て結婚されました。そもそもおふたりが付き合うきっかけは、奈歩さんの「ひとめぼれ」だったとか。

 

小木さん:当時は、まだテレビにも全然でていない頃だったのですが、彼らの舞台は以前から見ていて「面白いな」と思っていました。東京出身でどうやら地元も近そうだし、年齢も同じくらいかなと親近感を持っていたんです。

 

あるとき、いつも通り、舞台でフリートークをしているところを見ていたのですが、急に「もしかしたら、あの人が運命の相手なのかもしれない」とピンと来て。「王子様いた!」という感じがしたんです。

 

── 失礼ながら、小木さんのどのあたりに「王子様」感を…?

 

小木さん:自分でも不思議なのですが、なぜか舞台上でひとりだけ浮き上がって見えて、「この人だ」と、もう確信しかなかったんですよね。しかも、そのときは笑いをとっていたわけではなく、むしろすごくスベっていて(笑)。なのに、堂々としていて、その姿に見とれちゃったんです。

 

隣で一緒に舞台を見ていた弟(森山直太朗さん)に、「あの人かもしれない…」と伝えたら、矢作のことだと思ったらしく「右でしょ?」と当たり前のように言われて。弟も「まさかピンと来た相手が小木であろうわけがない」と思ったらしいのですが(笑)、私が「左!」と言ったら、びっくりされました。

 

── それまでも舞台を見てきたのに、いきなり「王子様いた!」と思ったのは不思議ですね。もともと直感が鋭いタイプなのですか?

 

小木さん:結構そういうところはありますね。人間関係でも「この人だ」とピンときた相手とは、長い付き合いになったり。最初の直感は、たいてい合っていることが多いんです。

 

その後、「どうすれば、彼と知り合えるんだろう」と考えていたら、友達で芸人のまちゃまちゃが、彼らとほぼ同期だと知り、紹介してもらうことに。最初は渋られたようですが、「小木さんのことをすごく好きな子がいるから1回会ってみてほしい」と猛プッシュしてくれたらしいです。

 

友人で芸人のまちゃまちゃと

ただ、はじめの頃は「面倒くさい…」と嫌になりかけました(笑)。最初のデートから、自分の「嫌な部分」をすごく言ってくるんですよ。「昔、自分はゴキブリを飼ったことがある」とか。

 

── しょっぱなからそんなことを明かされて、戸惑いませんでしたか?

 

小木さん:嫌でしたよ。普通なら、最初は自分のいいところを見せようとするじゃないですか。なのに、彼は、「しばらくお互いの嫌なところ、苦手なことを言い合おうよ」と提案してきて。「この人、なに言っているんだろう」と思ったのですが、だんだんその面倒くささが面白くなってきたんですよね。

 

彼と喋っているうちに、他人に対してすごく寛容になれるというか、世のなかのすべての人がいとおしく思えてきたんです。「ああ、この感覚って面白いな」と。それまで苦手意識や多少の偏見を持っていたようなことも、彼と一緒にいると、いろんなことが「面白い」と思えるようになってモノの見方がすごく広がりました。

「2人で1人みたい」不思議な感覚きっかけに結婚へ

── 結婚のきっかけは?

 

小木さん:それまで普通に結婚願望もあったのですが、小木と付き合ってからは、不思議とそういう意識すらなくなっていました。

 

結婚を意識したのは、付き合って6年くらい経った頃です。あるとき、ふっと、私のなかで彼のことを自分自身のように感じた瞬間があったんです。こういうと、ちょっとオカルトっぽいのですが(笑)、相手がいれば自分はいなくてもいい。2人で1人みたいに感じたんですよね。すごく不思議な感覚でした。

 

よく、子どもというのは、まるで自分の分身のような愛おしい存在だといいますよね。きっと結婚相手も、それと同じなんじゃないかなと思ったんです。その気持ちを彼に話し、はじめて結婚という言葉を出しました。

 

── 小木さんの反応は…?

 

小木さん:ちょっとオカルトじみた話だから、どんな反応をするだろうと思ったのですが、彼はまったく驚かず、「はいはい、なるほどね」と。そもそも彼は、どんな突拍子もないことを言っても、「なに言ってるのか、分かんない」とは、絶対に言わず、いったんすべて受け止めるんです。そこから、話が進み、35歳のときに結婚しました。

 

── 小木さんの「受け入れ力」もすごいですね。

 

小木さん:吸収力がすごいんです(笑)。ただ、偏見というか、変な思い込みは、めちゃめちゃあるんですけどね。「バンドマンなんてダメでしょ、どうせ遊び人に違いない」とか(笑)。そうかと思えば、すごく真っ当な考えや感覚も持っていたりするので、いまだに謎な部分があって、一緒にいてもまったく飽きないですね。

 

「長く一緒にいてもまったく飽きない」という夫・小木博明さんと

第一印象「最悪」から家族に頼られる存在に

── お母さまの森山良子さんにとって、小木さんの第一印象は「最悪だった」とか。

 

小木さん:彼がうちに遊びに来ていたときに、母が不意に帰ってきて出くわしたのが、最初の出会いでした。母がお茶を入れているときに、彼がソファーに座って、ずっと携帯電話をいじっているのを見て「無礼な子ね!」と思ったらしくて。

 

ただ、これは私のせいでもあるんです。母のことを話していなかったので、「俺の彼女のお母さん、森山良子だった」と、焦って友達にメールをしていたらしいんです。

 

── お付き合いするときにお話しされなかったのですか?

 

小木さん:私の感覚では、年代も違うし、言ってもどうせ母のことを知らないだろうから、言うほどのことでもないかなと。だから、それまで周りの人にも母のことを話さないこともあって、彼を紹介してくれたまちゃまちゃにも言っていなかったんです。

 

── そんな「最悪な出会い」から、どうやって挽回を?

 

小木さん:その後、母の淹れた紅茶を飲んで、「わあ~、この紅茶、いい香りだなあ。いただきます」と彼が言ったんです。そしたら、急に母の印象が変わったみたいで。

 

── お行儀がいい(笑)。一発で心をつかむとは、さすがですね。

 

小木さん:第一印象が悪かったぶん、普通の反応をしただけで、印象がよくなったというのもあるのかもしれませんが(笑)、彼は、普通の温かい家庭で育っているので、そのあたりの感覚はすごくまっとうなんです。

 

その後、母ともどんどん仲良くなって、半分居候のような感じで、うちに出入りするように。彼が結婚報告をしたときには、「あの子で本当にいいの?ちょっと考え直したほうがいいんじゃない?」と言われていました(笑)。

 

家族旅行先での記念写真

── 家族のなかで、小木さんはどんな存在ですか?

 

小木さん:ああ見えて、彼はすごく頼りになるんですよ。すべてにおいて決断が早いし、いろんな場面で仕切ってくれるので、母を含め、家族みんなが彼を頼りにしていますね。たとえば、旅行の手配にしても、母の分まで飛行機のチケットを手配し、どこをどんなふうに巡るのか、旅のルートを綿密に立ててくれたりします。

 

ただ、ちょっとズレていて、みんな同じ部屋に泊まっているのに、「明日6時半、ロビー集合ね!」と、号令をかけてきたりします。

 

── 一緒の部屋なのに、なぜわざわざロビーで待ち合わせを?しかもそんな早朝から(笑)。

 

小木さん:自分のなかでイメージができているので、何事においてもチャッチャッと決めていくんです。だから、私たち家族は、いつも彼についていくという感じですね。

 

PROFILE 小木奈歩さん

1971年生まれ、東京都出身。会社員を経て1999年から2005年まで、ウクレレコーラスデュオ「Petty Booka(ペティブーカ)」で活躍。2006年にお笑いコンビおぎやはぎの小木博明と結婚し、現在一児の母。母親は歌手の森山良子。

 

取材・文/西尾英子 画像提供/小木奈歩