仕事も家族も立て続けに失ってしまったら、簡単に立ち直れません。年齢を重ねていけば「もうムリかな。いまさら…」と、新しいことへの挑戦もためらいます。釈由美子さんはこうしたことをどう乗り越えていったのでしょうか。(全5回中の2回)

 

ドラマ「ブラックファミリア」ロケ中の一枚

30代前半で結婚か仕事かの選択に「どちらも…」

── 長く芸能活動されている釈さんですが、壁にぶつかった時期はあるのですか?

 

釈さん:30代前半は苦しかったです。20代のころは若いし、運と勢いだけでお仕事をいただいていました。それが30代になると、だんだんうまくいかないことが増えてきて。

 

次のステップにいくための実力が伴っていなかったんです。当時つき合っていた人との結婚をとるか、キャリアをとるかで迷ったこともあります。

 

── 30代前半は悩みが多い年代ですね。芸能人でなくても、結婚か、キャリアかの選択を迫られる人は少なくないと思います。

 

釈さん:当時所属していた事務所は私がメインで、他に育っているタレントがいなかったんです。だから「私が仕事を辞めるとみんなに迷惑をかけてしまう」と責任を感じ、つねにプレッシャーを抱えていました。

 

いっぽうで、つき合っていた人は「仕事を辞めて家庭に入ってほしい」という人でした。どちらを取るか決断できなくて、流されるままに。仕事は思うようにいかず停滞期を迎え、交際も破局してしまって…。

 

一番つらかったのは、30代半ばで父を亡くしたことですね。末期がんだったんですが、病気が告知される1週間前には一緒に山に登っていたんです。だから「えっ、どうして?」と現実を受け入れられず、気持ちの整理がつきませんでした。

 

釈さんは父と一緒にたくさんの山に登っていた

── お父様が亡くなったのは、想像するだけで胸が痛くなるようなできごとですね。

 

釈さん:本当にそのとおりです。病気がわかってから、半年で逝ってしまいました。まだ66歳でした。よく父が言っていたのが、「早く結婚してほしい。男の子の孫の顔が見たい」ということでした。

 

私は4姉妹だったので、父は男の子が欲しかったみたいです。父の願いを叶えてあげられなかった、親孝行できなかったと後悔し、すごく落ちこみました。

 

父が亡くなって3か月後、知人の紹介でいまの夫と出会いました。初対面ですぐにピンときて「この人と結婚するだろうな」と。半年後の2015年10月に入籍しました。もしかしたら、亡くなった父が出会わせてくれたのかもしれません。

 

「息子が生まれて人生のスタートラインに立った気分です」と釈さん

翌年には男の子を出産しました。父には孫の顔を見せることはできませんでしたが、男の子を欲しがっていた願いは叶えられたかなと思います。2019年に事務所も変わり、少しずつ仕事運も変わっていきました。

海外での映画出演「チケットの手配も交渉もすべて自分で」

── 2020年公開のカナダ映画「ロックダウンホテル/死霊感染」に出演し、海外デビューされていますね。

 

釈さん:映画出演のお話をいただいたのが2018年でした。育児も少し落ちついたところだったので、周囲にも協力してもらい、挑戦することにしました。英語のセリフはそんなになかったのですが、現地では海外スタッフともやり取りをするだろうと思い、英語を学び直すことにしました。

 

20代でNHKの番組『英語でしゃべらナイト』に出演していたのですが、やっぱり語学って継続していないと忘れてしまうんです。だから撮影までの間は、オンライン英会話で勉強したり、英語のコーチングの先生にカリキュラムを組んでもらったりしました。

 

子どもが起きる前の朝4時くらいにオンライン英会話のレッスンを受けたのですが、リビングだと私の声で子どもが目を覚ましてしまうので、ベランダで受講していました。

 

── 早朝4時からベランダで英語のレッスンとは、とてもストイックですね!英語を学び直してみて、気づいたことはありますか?

 

釈さん: 学ぶことに年齢は関係ないと実感しました。いくつになってもゴールはなくつねに自分を高めていくのが大切だと思います。ひとつのジャンルにこだわらず、興味のあることはどんどん追及していきたいです。

 

ただ、継続する難しさも感じます。私は目標があるとすごく頑張れるんですが、一度達成した!と思うと、なかなか続かなくて。そこは課題かもしれません。

 

── 英語を学び直してからの、映画の撮影現場ではいかがでしたか?

 

釈さん:英語を勉強して、いざ撮影現場のカナダ(モントリオール)に行ったのですが、なんと現地はフランス語圏でフランス語が飛び交っていたんです(笑)。結局、しどろもどろだったのは変わりませんでした。

 

撮影現場にはマネージャーさんも同行せず、ひとりで行きました。仕事ではすべてを自分でこなすことがあまりないから、ひとりでやってみようと思って。飛行機のチケットも自分で取って、現地での交渉も全部行いました。

 

── 女優さんがひとりですべてに対応するのはめずらしいのではないでしょうか?

 

釈さん:そうかもしれません。もともと私はあまり下積み経験がなくて、デビューしてすぐお仕事をいただけたほうだと思います。すごくラッキーでしたが、芸能に関する勉強をきちんとする機会もなく、苦労もあまりしていないとつねづね感じていたんです。だから、カナダでは自分を鍛えようと、武者修行の気持ちで、この経験は本当に貴重でした。

 

── つねに挑戦し続けているからこそ、ずっとご活躍されているのですね。最近では「仮面ライダージオウ」でマンホールを使って戦う役も話題になりました。

 

釈さん:あのドラマでマンホールを投げて戦う姿は、インパクトがあったようでSNSで拡散されたみたいですね。おかげで「横浜下水道150広報大使」など、下水道やマンホールに関するお仕事をいただく機会が増えました。

 

いままであまり知らなかった分野なので、すごく勉強になり、興味深いです。もし私がきっかけで下水道やマンホールのイメージが変わったら、すごくうれしいです。

 

もともとデビュー時から「求められたことに対して全力で応えたい」と思っていました。どんなことでも機会があったら積極的に取り組みたいです。

 

PROFILE 釈 由美子さん

しゃくゆみこ。女優・タレント。グラビアアイドルとしてデビュー後、映画『修羅雪姫』、『ゴジラ×メガゴジラ』、ドラマ『スカイハイ』、『7人の女弁護士』などの作品で主演を務めるなど出演作品は累計100作を超える。舞台、イベント、ナレーション、広告出演等、多方面で幅広く活躍。

 

取材・文/齋田多恵 写真提供/釈 由美子