「相手のよさを引き出し、魅力的な言葉にして伝える」。アナウンサーとして培ってきた技術を違う形でビジネスにする、元地方局アナウンサー・樋田かおりさんの挑戦とは。(全3回中の3回)

企業の「埋もれた魅力」をヒアリングで引き出す

2015年に株式会社トークナビを設立したフリーアナウンサーの樋田かおりさん。全国展開中の「女子アナ広報室」では、企業のPR活動を行っています。他のPR会社との違いは、メディアの興味を引く企画力だといいます。

 

毎朝行っているオンラインでの朝礼会

「中小企業の多くがテレビなどのメディアに取り上げられて、自社の商品やサービスをアピールしたいと思っています。でも、どうアピールしたら取材に来てくれるかわからないんです。

 

そこで、地方の局アナとして番組の企画を日々考えていた弊社の広報アナウンサーが、メディアが取材に来たくなるような企画やイベントなどのコンテンツを企業に代わってPRするんです」

 

具体的には、広報アナウンサーが丁寧にヒアリングをして、企業が気づいていない自社の秀でている点や商品の魅力を発見し、メディアの興味をひく切り口でプレスリリースを作成。実際に取材が決まった際には、メディアからの想定質問と回答や話し方のアドバイスといったスピーチ指導も行います。

 

元アナウンサーの強みをいかしたサービスは好評で、メディア掲載実績は2018年のサービス開始から累計1500件以上。各地域に顔の広い「元地方局出身」の広報アナウンサーがいることも強みです。

 

「北海道から沖縄までのネットワークがあるので、企業が接点を持っていない地域のメディアにも、作成したリリースを送付してアプローチできます。たとえば、本社は東京にあるけど、仙台で新店舗をオープンするといった場合には、仙台のメディアにプレスリリースを送付する、といった具合です。お客様の事業展開に合わせて、全国各地のメディアに露出できるのはもちろん、最適なメディアのリサーチとご提案も行っています」

 

広報以外に、採用や社員教育シーンでも「伝える力」でサポートしています。

 

ビジネスマナー研修では、正しい発声の仕方から練習

「広報活動の一環として、採用のお手伝いも行っています。内定者にはビジネスマナー研修を、営業職の方々にはプレゼンテーション研修などで人材教育の面でサポートしています」

「声を仕事」にしていた人のセカンドキャリアの礎に

「女子アナ広報室」では、広報アナウンサーの多くがクライアント企業の経営者直下で働くことになります。広報を行うためには経営者の想いや考えを相違なくくみ取る必要があり、自然と距離も近くなり、やがてその会社の一員のような存在に。

 

「会社をよくしようと一緒に働いているうちに、経営者だからこそわかる厳しい意見やアドバイスをいただくこともあります。本来なら、私たちがサポートする側なのですが、ときにサポーターとなってくださる、心強い存在です」

 

成功例も失敗例も全社でシェアするのが、トークナビの信条のひとつです。反省点はひとつずつ改善していき、毎朝行っている朝礼で共有して、次の成功につなげます。

 

アナウンサーは全国各地にいてオンラインのみの仕事をする元局アナも

そうしてクライアントとともに一歩ずつ前に進み、かつて3名でスタートしたトークナビは、いまでは70名ものアナウンサーを抱えるまでに成長しました。

 

「少しずつ取引先が増えていった反面、人手が足りなくなってきました。その原因は、自社の採用を疎かにしていたからです。過去には私たちが採用のサポートをして、応募者数が前年度の9倍になった企業もあるなど、ノウハウはもっていたのに生かせていませんでした。そこで、昨年から自社の採用基準も見直し、『元アナウンサー』だけに縛らずに『声で伝える仕事の人全般』に採用間口を広げたことで応募も増えました」

 

それまでは元アナウンサーへ門戸を開いていましたが、声で伝える仕事はアナウンサーだけに限りません。採用条件を広げたところ、元バスガイド、元電話オペレーター、ウェディング司会といったさまざまな職種から応募が来るようになりました。

 

「高校時代に放送コンテストに出場していた方やアナウンサーを目指していた方など、声で伝えることへの関心が高い方ばかりです。じつは、前職の同期も弊社で働いていて、彼女はある企業のプロモーションビデオのリポーターに先日決まりました。アナウンサーのキャリアをあきらめて転職しようと思っていたそうですが、トークナビに加わったことで、アナウンサーとしての寿命を延ばせたと喜んでくれました」

 

樋田さんは「企業をサポートすることが、アナウンサーのセカンドキャリアの創出につながっています」と微笑みます。

各地の元アナウンサーを雇用して地方活性につなげる

この1年で新しい人材が増えて、少しずつ会社のカラーが変わりつつあるトークナビ社。サービスに昇華できる能力も増え、新規事業開拓への熱が上がっているそうですが、地元に住む元アナウンサーの掘り起こしにも注力しています。

 

以前は、地方に住んでいたらアナウンサーはもちろん、話す仕事や声を使った仕事をする場は限られていました。しかし、コロナをきっかけにオンラインでの会議が当たり前になり、地方在住でもオンライン講座なら発声練習やスピーチ講座の講師を務められるようになりました。

 

経営者向けの著書を出版するほか、シンポジウムや講演会にも登壇するように

「実際に、地方在住のアナウンサーは、自宅にいながらオンラインで都内の企業様の研修をしています。復職を諦めて引退状態になっているママさんアナウンサーは、まだまだ全国各地にたくさんいると思うので、そういったところにもアピールして雇用創出の一助になればと考えています。

 

自社のPR強化・採用という課題をのりきった後は、サービス内容の充実や新規事業などにも着手したいですね。ゆくゆくはトークナビをフリーアナウンサーが働きやすい会社ナンバー1にすることが目標です」

 

PROFILE 樋田かおりさん

岐阜県出身。2008年、日本テレビ系列のRAB青森放送にアナウンサーとして入社。報道番組のキャスター、ラジオパーソナリティなど、テレビ・ラジオの放送現場を経験。フリーアナウンサーに転身後、28歳で株式会社トークナビを設立。スピーチトレーニングや中小企業の広報サポートなどの伝える事業を展開している。

 

取材・文/安倍川モチ子 画像提供/株式会社トークナビ