アナウンサーとしてNHKで30年以上活躍し、2023年9月に早期退職をした武内陶子さん。東京工業大学副学長であり、文化人類学者である上田紀行教授さんと結婚して29年の武内さん。上田さんは定年退職、武内さんはサンミュージックに移籍と、今年は夫婦で「人生の第二章」を歩む記念すべき年になったそうです。(全4回中の4回)

コミュニケーションがとれていれば大丈夫

── 旦那さん(上田紀行教授:東京工業大学副学長、文化人類学者)とは2週間で結婚を決めたそうですが、結婚してからギャップに悩むことなどはありませんでしたか?

 

武内さん:育ってきた環境が違うので、もちろんあります。私は四人姉妹で育ち、昔から母に「どんなことがあってもいいように、経済的に自立した人間になりなさい」と言われてきました。母自身が専業主婦だったため、特にそう感じていたのかもしれません。

 

夫の上田紀行教授(東京工業大学副学長、文化人類学者)と
夫の上田紀行教授(東京工業大学副学長、文化人類学者)と

一方、夫にはきょうだいはなく、義理の母とふたりで暮らしてきました。義理の母はベストセラーになった『推定無罪』などのミステリー作品の翻訳家で、バリバリのキャリアウーマン。俳優座の演出助手もしていた、とてもおもしろい人です。ハッキリと物事を言う人ですが孫を可愛がってくれたりと、いつも私たちの味方になってくれました。

 

── 確かにまったく異なる家庭環境ですね。

 

武内さん:そうなんです。なので、夫は初めて私の実家に来た際、家の中で料理している人、テレビを観ている人、おしゃべりをしている人など、あちこちでいろいろなことが行われているにぎやかな環境に驚いたそうです。

 

専業主婦の母とキャリアウーマンの義母も、タイプはまったく違うけれどお互いにない部分をリスペクトしあう関係。専業主婦の母はキャリアウーマンの義母に憧れもあったと思います。私たち夫婦は子どもができるまでに結婚から10年あったため、よく両家族一緒に旅行にも行きましたよ。

 

両家の親を連れてシンガポール旅行へ
両家の親を連れてシンガポール旅行へ

── 旦那さんとぶつかったりすることは?

 

武内さん:もちろんぶつかることもありましたが、性格が違うので仕方がないです。大切にしているのは、とにかく「伝えること」。子どもに説明するのと同じで、どうして怒っているかを話して、わかりあっていくしかないですね。息抜きしながら上手につき合っていて、子どもたちもそれをわかっているようです。双子はまだ中学生なので、最近では老後をいかに元気に過ごすかについて話し合っています(笑)。

 

ちなみに夫はお土産を買ってくるセンスが抜群にいいんですよ。文化人類学者のため世界のあちこちに行くのですが、そのたびに子どもが喜ぶお土産を買ってくるんです。例えばストローがついたサングラスとか、妙にカラフルな雑貨とか。子どもたちはそれを楽しみにしていて、それがいいコミュニケーションにもなっています。親子の間でひとつでも繋がるチャンネルがあれば、関係は良好なのかもしれませんね。

 

子どもたちが大喜びしたアルゼンチンのお土産
子どもたちが大喜びしたアルゼンチンのお土産

今後は自分の経験を発信する側に

── NHKを退職して、これからは夫婦で一緒に過ごす時間も増えるのでは?

 

武内さん:夫も来年の3月で定年退職なので、これからは少し時間が増えるかもしれませんね。子どもが生まれる前にふたりでアメリカ、ヨーロッパ、アジアなどいろいろな国に行きましたが、あのときのワクワクするような感覚をまたいっしょに体験したいです。あの頃からふたりともいろいろなことを経験して見え方も変わったと思うので、変わった価値観でまた同じものを見られたら、おもしろそうですよね。

 

子どもたちも大きくなってきて、今後は文化的なことも一緒に楽しめそう。音楽やお芝居などに家族で行けたらいいなと思います。

 

── 今後お仕事でやってきたいことはありますか?

 

武内さん:最近は出産や子育て、更年期など、みずからが体験してきたことを誰かのために発信したいと思うようになりました。たくさんの経験をさせてもらったNHKには、本当に感謝しかありません。ただアナウンサーという仕事は聞く側、迎える側で、みずからが話すメインではない。発信する側になるためには、組織にいるのではなく立場を変える必要があると思い、フリーになることを決めました。

 

これまで何万という人に会って話を聞いてきた経験から、どんな人に会ったときもフラットでいられることが自分の強みだと思っています。どんな状況にも飛び込めるため、相手から、「武内さんのおかげで自分でも気づけていなかった自分を再発見できた」と言われることも。その強みを生かしつつ、発信できる機会を増やしていきたいです。

 

── 最後に今後の意気込みをお願いします!

 

武内さん:伝えることが得意なのは、アナウンサーだった私だからこそ。その経験を元に自分の足で歩いて体験してきたことを、これからはガシガシ伝えていければと。これからはすべて自己責任なので、当たって砕けろという感じです(笑)。ビビらずにロックでいきます!

 

PROFILE 武内陶子さん

1965年愛媛県出身。1991年にアナウンサーとしてNHKに入社し、「NHKニュースおはよう日本」や「お元気ですか日本列島」、「スタジオパークからこんにちは」の司会を担当。2003年には「第54回紅白歌合戦」総合司会も務めた。2023年9月末に同社を退社し、現在はアナウンサーに留まらず幅広い場で活躍する。

取材・文/酒井明子 画像提供/武内陶子