アナウンサーとしてNHKで30年以上活躍し、2023年9月に早期退職をした武内陶子さん。プライベートでは中学生と大学生の3人のお子さんのお母さん。長女の反抗期に悩みつつもそれを乗り越えられたのは「推し活」のおかげだったそうです。(全4回中の3回)

BTSファンになったきっかけは娘の反抗期

── 武内さんといえばBTSファン、いわゆるアーミーという印象がありますが、きっかけはなんだったのでしょうか?

 

武内さん:実はBTSにハマったきっかけは、娘の反抗期なんです。長女が中学生の頃、反抗期がひどく、まったく話してくれなくなった時期がありました。話しかけてもスマホでずっと動画を見てばかり。親としてもいろいろ不安でしたが、ホルモンのせいなので、怒っても仕方がありません。どうにかつき合っていくしかない。

 

ある日、娘が何の動画をスマホで見ているのか、思いきって聞いてみたんです。それがBTSの動画でした。最初は「誰?」という感じだったのですが、娘と話をしたい思いもあり一緒に動画を観るうちに、私のほうがすっかり夢中になってしまい(笑)。それからはライブに行くためにファンクラブに入り、チケットを取り、娘といっしょに応援ウチワを作りましたね(笑)。そうこうしているうちに、娘も歩み寄ってきてくれて話すようになりました。

 

2019年、BTSライブ鑑賞のため娘と静岡へ
2019年、BTSライブ鑑賞のため娘と静岡へ

── 完全にBTSのおかげですね。

 

武内さん:本当にそうです。BTSは私にとって人生初の推しです!私は愛媛出身で大学は神戸、仕事を始めてからは忙しく、あまり“東京っぽい”ことをしてきませんでした。東京ってしょっちゅうコンサートをやっているし、どこに行くにも便利だし、もっと東京ライフを楽しみたい!という思いもムクムクと湧いてきて、BTSのファンになってからはもう全力投球!ファンクラブに入会し、ライブ参戦や遠征はもちろん、グッズを買うために6時間並んだり、ライブビューイングを観に行ったり、新幹線のチケットをとったりと、とにかく夢中になって追いかけました(笑)。雨の中でもカッパを着て観戦しています。娘としては母親がすべてお金を出してくれるのだから、しめしめですよね。

 

BTSのメンバー、ジミンのうちわを手作り!
BTSのメンバー、ジミンのうちわを手作り!

── ちなみに武内さんにとってBTSの魅力とは?

 

武内さん:「歌って、踊れて、おもしろくて、かわいい!こんな人たちに今までに出会ったことがない!」というのが、最初の印象でした。BTSはコロナ禍で出した「Dynamite」から一気にファンが増えましたね。でも、私はコロナ禍前からのファンなのでライブにも行っていて、BTSとの思い出もありました。一気に世界的スターになってしまいましたが、そうなる前から応援して一緒にがんばってきた…というような想いも強いです。だから最近ファンになった人たちよりは、ちょっと先輩気分です(笑)。

原因がわかれば更年期も反抗期も安心できる

── 大人の推し活、最近では当たり前になってきましたね。

 

武内さん:初めての育児や更年期障害などで人生の辛い場面で、大人の推し活のように夢中になれるものがあることで救われている人は多いと思います。私のように娘の反抗期を乗り越えるきっかけになることもあれば、推し活が生きがいになっている人も。若い頃よりは自由になるお金があるためアメリカ遠征して、楽しんでいる友達もいますね。

 

最近では周りにファンも増えました。2022年にNHKのラジオ番組で8時間以上にわたってBTSを特集する番組がありました。ご縁あって、こちらの進行を務めさせていただいたのですが、その放送の後から、「実は私もファンなんだ」と言われることが多くなりましたね。BTSファンが集うオフ会もしています。娘はすでにBTSはちょっと卒業気味なので、嬉しい限りです。

 

2019年、静岡でのBTSイベントの様子
2019年、静岡でのBTSイベントの様子

── ちなみに、「人類の幸せ」について研究されている夫の上田紀行教授(東京工業大学副学長、文化人類学者)は推し活について何か言っていますか?

 

武内さん:特に文句は言わず、黙って傍観しています(笑)。ただK-POPなどの影響で子どもたちがダンスをしたり、メイクを真似したりするのは嬉しそうに見ていますよ。

 

── 娘さんの反抗期はBTSで乗り越えられましたが、悩んでいる保護者は多いのでは?

 

武内さん:言ってしまえば、反抗期も更年期障害と同じで、ホルモンバランスの乱れが原因。誰が悪いわけではありません。私もホットフラッシュなどに悩まされたときに、更年期が原因とわかることで安心できました。もし子どもの反抗期がひどいときは、「ホルモンバランスの影響でイライラするかもしないけれど、あなたは悪くないんだよ」と伝えてあげるのが大切かなと思います。

 

PROFILE 武内陶子さん

1965年愛媛県出身。1991年にアナウンサーとしてNHKに入社し、「NHKニュース おはよう日本」や「お元気ですか日本列島」、「スタジオパークからこんにちは」の司会を担当。2003年には「第54回紅白歌合戦」総合司会も務めた。2023年9月末に同社を退社し、現在はアナウンサーに留まらず幅広い場で活躍する。

取材・文/酒井明子 画像提供/武内陶子