俳優の奥菜恵さんは、娘が小さい頃の子育てを振り返って「気分の浮き沈みが激しかった」と話します。次から次へと悩みが尽きないという子育てのエピソードを伺いました。(全3回中の2回)
産後4か月で仕事復帰
── お2人の娘さんは中学2年生と小学6年生になられたそうですが、お子さんが小さい頃の子育てを振り返ってみていかがですか。
奥菜さん:長女のときは何もかもが初めてで、「どうやってお風呂に入れる?」、「どうやってミルクをあげる?」と必死でした。
母乳で2〜3時間置きの授乳なので、寝ているのか起きているのかわからない状態。髪の毛もボサボサでしたし、自分のケアをする余裕はありませんでした。その日、その日をとにかく必死に生きていたように思います。
仕事復帰を考えて少しずつミルクに切り替えていったのですが、哺乳瓶もすごく神経質に除菌していました。それに、子どもがなんでも口に入れてしまうので、ありとあらゆるものを除菌して。でもそれが2人目になると、あまり気にならなくなりました(笑)。
── 2人目の余裕、でしょうか。育児にはこれまでにない試練が多いですよね。
奥菜さん:皆さんそうかもしれないのですが、私は初めての育児にはまったく余裕がありませんでした。今でも鮮明に覚えているのですが、初めて娘とバスに乗ろうとして、ベビーカーに娘を乗せて停留所で待っていました。でも、到着したバスが結構混んでいて。私もすぐにベビーカーを畳んで、抱っこ紐に子どもを入れて乗り込んだらよかったんですけど、そこであたふたしてしまって、そのバスを見送ってしまったんです。
そしたら急に涙が溢れてきて。「私は、こんなことひとつもちゃんとできないんだ」と思ったのを今でも覚えています。次のバスに乗った時に、乗客の方が「大丈夫ですか?ここにベビーカー置けますよ」と優しく声をかけてくださって、それでもまた泣けました。「ありがとうございます〜」って(笑)。
産後うつという状態だったかどうかはわからないのですが、今振り返ってみると、気分の浮き沈みは激しかったと思います。「この命を守らなくちゃいけない」と思うと、子どもは可愛いけれど、なぜか涙が出てくる時期がありました。
── わかります。産後は情緒がジェットコースターのようですよね。お子さんを育てながら、お仕事にはどのくらいで復帰したんですか。
奥菜さん:産後4か月で復帰しました。舞台のお仕事をしていたのですが、朝、娘を保育園に預けて稽古場に行って、終わって迎えにいくという生活をずっとしていました。仕事場にいた方が気持ち的に楽だった日もありましたね。娘のお迎えに行く前に、公園にいったん寄って、深呼吸して。そこで切り替えるようにしていました。
── 母親になってみて変わったと感じることはありますか。
奥菜さん:手際が良くなったと思います。スケジュールを含め、何個も先のことを組み立てながら生活をしているのですが、独身時代は絶対にそんなことしていなかったなと。いかに効率よく、無駄なく、家のこともお仕事もこなせるようになったと思います。
「子育ては常に悩みだらけ」
── お子さんが小さい頃に比べて子育ては楽になりましたか。
奥菜さん:いえ、子育ては常に悩みだらけです。子どもの年齢に応じた悩みというのが待っているんだなと常々思います。小さい頃は目を離したら危ないので、ずっと近くで付き添って、「いつになったら手が離れるんだろう」と思って過ごしていましたが、少しずつ手が離れていくとまた別の悩みが出てくるんです。
娘は中学2年生と小学6年生で、思春期真っ只中。子どもにも強い意志が出てきていることもあって、あまりぶつからず穏やかに過ごすようにしています。
以前は、衝突したり、親子喧嘩をしていたりした時期もあって、「どうやって子どもたちと向き合ったらいいんだろう?」と悩んでいたんです。でも、いったん「母親としてこうしなきゃ」というのをやめてみようと思いました。
母親であることに変わりはないのですが、友達のような関係性で何でも話せるのが嬉しいなと思ったので、今は「こうしたら?」と言うより、歩み寄って一緒に考えていく感じにしています。今はもう、喧嘩しても茶番のようですよ。言い合うことはあっても笑いながらです。
── お子さんたちの未来に望むことは何ですか。
奥菜さん:娘はふたりとも明るくて、とても素直で。それだけで私の中で満たされている部分は大きいです。これから大人になっても今の素直さと言いますか、周りの方に伝えなきゃならないすごくシンプルなこと、ありがとうやごめんなさいをいつでも言える大人になってほしいですね。困っている人がいたら助けてあげるとか、そういう気持ちもずっと持ち続けていてほしいなと思います。
PROFILE 奥菜 恵さん
1979年広島県生まれ。13歳でデビューし、テレビドラマ、映画、舞台、CMと幅広く活躍。プライベートでは2人の娘の母。この秋公開の岩井俊二監督による映画「キリエのうた」に出演。自身がプロデュースしたドクターズコスメ、ヒト幹細胞培養上清液配合美容液「ni-Nin」(ニーニン)が販売中。
取材・文/内橋明日香 写真提供/奥菜 恵