俳優の奥菜恵さんは体の色素が抜けて広がる尋常性白斑を患っていることを公表しました。コロナ禍で病気が判明し、どんなことを考え、行動したのか──。その思いを伺います。(全3回中の1回)

病気の発覚で抱いた不安

── 尋常性白斑が発覚した経緯を教えてください。

 

奥菜さん:3年前にコロナ禍で家にいる時間が長かったから気づいたのか、どうしてだったのかはわからないのですが、ふとした瞬間に「あれ?」って思うことがあって。お腹のあたりの皮膚の色が白く抜けているところが何か所かあることに気がついたんです。そこから病院に行って、尋常性白斑という診断を受けました。

 

奥菜恵さん
愛犬のボストンテリアとお散中のラブラブショット

── そのとき、どんなお気持ちでしたか。

 

奥菜さん:とてもショックでした。治療法もなかなか解明されていないし、完治するのも難しい病気だそうで、今後のことを考えて落ち込みました。現在も進行しているものなので、これが身体中にどんどん広がっていったら…と思うと、表に立つ仕事をしていることもあるので、今後に不安を感じていました。

 

幸い、私の場合は目立たないところに発症していて、範囲もそこまで広くはありませんでした。今も病院に行って治療を続けています。飲み薬と、塗り薬、紫外線の治療をして少し改善したところもありましたが、なかなか効果を実感できるまでに時間がかかるようです。今は塗り薬のみを使っています。

 

── 元々、さまざまなアレルギーをお持ちだったと伺いました。

 

奥菜さん:花粉症にハウスダスト、動物、洋服の繊維や、金属、食べ物、日光のアレルギーと、とにかくたくさんあります。お化粧品も合わないものを使うと顔が腫れたり、かぶれてしまったりすることもありました。その日の体調にもよりますが、慣れないものや香料が強い化粧品を使うとかゆくなることも多くあります。病気の発症はこのアレルギーが引き金となっているとも考えられるそうです。

公表の理由とその後の反響

── 世間に公表した理由は何でしたか。

 

奥菜さん:最初は、お話するつもりはまったくありませんでした。でも、病気がわかってからいろいろなことを考えたんです。

 

コロナ禍だったこともあって、いい意味で自分自身に嫌というほど向き合う時間がありました。これまでの私は、母として、妻として、俳優として、こうしなきゃいけない、こうでなければならないという考えに縛られすぎていたのかなと思うようになりました。

 

奥菜恵さん
ランチに出かけた際の奥菜さん「キャスケット姿で小顔がさらに引き立つ!」

私はお医者さんではないので病気そのものを治すことはできないけれど、同じ病気で悩みを持つ方や、お肌の悩みがある方の力になれることがあるんじゃないかなって。これからはそういうことに取り組んでいきたいと思うようになりました。今後も治療を続けて、ずっと病気とは向き合っていかなくてはならないので、皆さんにお伝えすることにしたんです。

 

── 公表後はどんな反響がありましたか。

 

奥菜さん:予想外の反響で、正直、ここまでとは思っていなかったので自分でも驚いています。同じ病気で悩む方からいただくメッセージが大半なのですが、「病気の認知度が低くて差別を受けているので、発表してくれてありがとうございます」とか、「勇気ある発言に感謝しています」と言ったお礼をいただくことが多いです。

 

私も知らなかったことがたくさんあったのですが、この病気が原因でいじめを受けたり、「気持ち悪い」と言われたりして傷ついている方がいるということも知りました。

 

こんなに同じ病気の方がいるということも知りませんでしたし、皆さんからかけてくださる言葉に私自身、とても励まされました。病気の認知も含めてですが、私の発言で少しでも救われる方がいらっしゃるならと思うと、お伝えして良かったと思っています。

「命や時間には限りがある」

── 現在は俳優を続けながら、新たなことにも取り組まれているそうですね。

 

奥菜さん:自分で何かできないかなという気持ちが膨らんできて、ドクターズコスメの美容液の開発にいちから携わることになりました。商品開発については、これまでもお話がなかったわけではないのですが、腰も重いし、一歩踏み込んでいく勇気がありませんでした。私は、なんでもひとつのことに集中するタイプなので、中途半端な関わり方はしたくないし、他のお仕事のことも考えると両立は難しいと思っていたんです。

 

でも、コロナ禍で身近な方が亡くなる出来事もあって、命や時間には限りがあるということを痛感しました。これからの人生は、とらわれた考えから脱却して、限られた時間の中で、これまでしたくてもできなかったことをどんどん形にしていこうと。ずっとしてみたかったことに、チャレンジしてみた方がいいんじゃないかなとようやく思えたんです。

 

病気のことを話さなくても開発を進めることはできたのですが、情熱を持って真剣に取り組んでいるという思いを、その背景を含めてお伝えしたかったという経緯があります。

 

── 今は社長として、商品開発だけでなく裏方の仕事もされているそうですね。

 

奥菜さん:現場に自分で運転して行くこともありますし、パワーポイントで企画書を作ったり、納品書や請求書などの書類を作成したりもしています。10代から芸能界にいるので、ほとんど今までしたことがないことばかりです。日々勉強です。

 

── これまでとは違った仕事に取り組んでみていかがですか。

 

奥菜さん:好きですね(笑)。私、かなり好きだと思います。裏側を知ることで、今まで知らなかった製作側の苦労を学んでいます。まだまだ知らないことも多いのですが、こういうステップを踏んで形にしていくということを学ぶ過程の一つひとつが楽しいです。とても大切な経験をさせてもらっていると思います。

 

PROFILE 奥菜 恵さん

1979年広島県生まれ。13歳でデビューし、テレビドラマ、映画、舞台、CMと幅広く活躍。プライベートでは2人の娘の母。この秋公開の岩井俊二監督による映画「キリエのうた」に出演。自身がプロデュースしたドクターズコスメ、ヒト幹細胞培養上清液配合美容液「ni-Nin」(ニーニン)が販売中。

取材・文/内橋明日香 写真提供/奥菜 恵