両親の離婚で父子家庭となった、完熟フレッシュの池田レイラさん。芸人を目指していなかった池田さんが、なぜかM-1の大舞台に親子芸人として出場することに。(全3回中の2回)
芸人は目指していないはずが
── 池田さんが、お父さまと芸人・完熟フレッシュとしてコンビを組んだ経緯について教えてください。
池田さん:きっかけは学校での出来事です。給食の時間に友達何人かと家族の話で盛り上がっていたんです。私の両親は離婚していますが、母の楽しかったエピソードを伝えながら、最後のオチで「うち、ママいないんだけどね」と笑いを取ろうと思いました。でも、予想外にその言葉を発した途端、楽しかった空気が一変。「ママ、いないんだ…」「離婚したってこと?」と、両親の離婚を知らない人がまだ多く、微妙な雰囲気になってしまったんです。もう、完全にスベリました。私は、親が離婚したことにオチをつけて、爆笑されることを期待していたんですけど。
帰宅後、父に学校での出来事を伝えました。父は私が話にオチをつけようとしたり、話がスベッた、スベらないと言った私の話を聞きながら、芸人の視点に似ていると思ったのでしょうか。父から一緒にお笑いをやらないかと誘われました。
── 池田さんは、お笑いに興味があったんですか?
池田さん:お笑いを見るのは好きでしたが、芸人になりたいとまでは思っていなかったです。芸人というより、いつか人前で話せる仕事ができたらいいなとは思っていましたが。
それから少しして、父が急に体調を崩して入院することに。ちょうど漫才頂上決戦『M-1グランプリ』が復活した2016年だったと思います。
父は当時芸人を辞めて会社員になっていましたが、病気を機にいつ死ぬかわからない。それなら、もう一度お笑いの仕事をしたいと本気で思ったようです。父は、私と一緒に芸人として舞台に上がることを望みました。また、芸人として土台を築けば、将来人前に立って話す仕事にも繋がるからと、言うようになったんです。
── その後、実際に『M-1グランプリ』で、親子芸人として出演することに。
池田さん:M-1の舞台に上がる直前まで、逃げたい気持ちでいっぱいでした。しかも、私たちより先に出たコンビが本番でネタを全部飛ばし、地獄のような光景を目の当たりにしてしまって。でも、逆に安心できたんです。大人でもすごく緊張するんだから、子どもの私がスベッても、と腹をくくることができました。
── 実際に舞台に立ってみていかがでしたか?
池田さん:初舞台にもかかわらず、最初からお客さんにすごくウケたんです。最後にどかーん!と笑いがとれて、気持ちよく終わることができました。父から、「お笑いは1回ウケたらやめられなくなる」と聞いていましたが、笑ってもらえるってこんなに気持ちいいんだ!と初めて実感しました。お笑いの魅力に取りつかれた瞬間でした(笑)。
── 『M-1グランプリ』は2016年は3回戦、2017年は準々決勝まで勝ち進んだそうですね。
池田さん:2017年の M-1が終わったとき、父と居酒屋に行くと、父は帽子に顔をうずめてシクシク泣いているんです。いつも完璧主義でなんでもテキパキこなす父でも泣くことがあるんだと思ったら、妙におかしくて。申し訳ないけど笑っちゃいました(笑)。
路上で知らない人から肩を組まれて
── M-1出演後、学校の友達や地域の人の反応はどんな感じでしたか?
池田さん:地元ではかなり話題になりました。昨日まで普通の子どもだったのに、テレビに出た翌日から道を歩いているだけで指をさされるような状態に。友達が「テレビを予約録画して観るね!」といってくれたり、「完熟フレッシュ」で検索してくれたり。たくさんの人が応援してくれました。
反面、友達と遊んでいるところや、私が電車でうたたねしているところを知らない大人に盗撮され、SNSにアップされたこともありました。すごくショックで、私はこんなことをされるためにM-1に出たんじゃない!芸人のお仕事も早いうちにきりあげようと思ってたことも。
── それでもお笑いをやめなかったのはなぜでしょう?
池田さん:父の存在が大きいです。父は、これから出会う人はいい人ばかりではないと思うけど、レイラは愛想よくしていればいい。もし、嫌な人とか怖い人に会ったら全部対応するからと言ってくれました。
実際、テレビに出た後に新宿の路上を歩いていたら、突然知らない男性に肩を組まれたことがあったんです。普段は穏やかな父が、その瞬間だけは強く出てくれました。また、私がファンの方との接し方に戸惑っていたときもサポートしてくれました。父がいろいろフォローしてくれて、父の新たな一面が見えましたし、ふたりで一緒に頑張っていこうと思いました。
── 親子芸人となると、ネタ作りや練習などで意見が対立することもありそうですが、いかがですか?
池田さん:まったくないです。そもそも私はモメ事や喧嘩が嫌い。話し合いはいいけどモメるのって、メチャメチャ無駄な時間だと思うんですよね。
ネタは、親子の会話をもとに父が作っています。たとえば、離婚した母に対して私が「お母さん帰ってきて!」「生まれてくる家、間違えたー!」も、父との会話から生まれたものです。ちょっとほろ苦い思い出も笑いに変えています(笑)。
PROFILE 池田レイラさん
東京都出身。父で相方の池田57CRAZYと、親子お笑いコンビ「完熟フレッシュ」として活動。現在、芸能活動のかたわら大学に通い、仕事と学業を両立。
取材・文/間野由利子