二児の母でもある俳優の遠藤久美子さん。出演する夫・横尾初喜監督映画『こん、こん。』の撮影中は、お子さん同伴で長崎ロケに挑んだそう。夫婦での映画づくりや子育てにかける思いについて伺いました。(全5回中の5回)

 

遠藤久美子さんとお子さん
ふたりの男児の母親でもある遠藤さん。4歳と6歳のやんちゃ盛りだそう

子ども同伴の映画ロケ「長崎の方に支えてもらった」

── 最新作『こん、こん。』をはじめ、横尾初喜監督の映画にご出演も多い遠藤さんですが、撮影中、お子さんたちはどうしているのですか?

 

遠藤さん:実は、夫の映画の撮影中は、現場に連れていっているんですが、周囲の方にすごく助けられていただいています。他の現場よりも、夫と一緒の現場のほうが、子どもを連れていきやすいというのはありますね。

 

今作『こん、こん。』もそうですが、前作『こはく』のときから「長崎プロジェクト」として映画をつくっていて。市民オーディションでたくさんの市民の方にも参加していただいています。

 

遠藤久美子さん
映画『こん、こん。』の撮影は横尾監督の故郷・長崎で行われました

遠藤さん:夫は長崎出身なので、現地にお友達がいっぱいいて。撮影中、うちの子どもたちは、夫の友達の子どもたちと一緒に遊ばせてもらっていました。

 

今回『こん、こん。』の撮影で長崎に行ったときも、撮影中はずっと子どもたちを見てもらっていました。一度、撮影中に子どもの手に湿疹ができてしまって不安に思っていたら、知人の奥様が「もしかしたら手足口病じゃない?小児科知っているから教えるよ」って声をかけてくださって。おかげですぐに病院を受診できた…ということもありました。


── 素敵な現場ですね。前作『こはく』も長崎ロケでしたが、そのときも?

 

遠藤さん:そうなんです。長崎の方って、本当に優しくて!元々小さな映画館での上映が多いのですが、メディアが入らないようなアットホームな舞台挨拶は、舞台袖に子どもを座らせた状態で臨みました。時々「ママー」と呼ばれたら「なあに?」と対応しつつ、「この役は~…」とお話ししたりして(笑)。

 

夫が監督をつとめる映画は家族の愛をテーマにした作品が多く、そういった作品を観に来てくださっている客層というのもあって、試写会で舞台袖から子どもが何かを言っても笑いが起こって、逆に場が和んだりしました。

 

遠藤久美子さんと夫の横尾初喜監督
舞台あいさつにのぞむ遠藤さんと横尾監督。とても仲がよさそうです

子どもが好きなことを見つけたときに応援してあげたい

── 今後どんなふうに子育てをしていきたいですか?

 

遠藤さん:私は俳優という仕事をしていて、夫も裏方とはいえど、長崎では「あ、横尾監督だ」と声をかけていただけたりすることもあって。そういう夫婦の子どもだからこそ、なるべく自然に育てたいという思いがあるんです。だから、芸能人の方たちが子どもを行かせるような幼稚園や学校ではない、ごく普通の学校に通って、普通の生活をしてほしいな、と。

 

超有名芸能人のお子さんとかなら、そういう学校でないと不安な面もあるかもしれませんけど、私たちはいわゆる“芸能夫婦”でもないので。ただ、子どもが自分で好きなことを見つけたときに、それを応援してあげたい。私たち自身が、やりたいことをやっているので。だから、やりたいことをやれる環境をつくるためにも、つねに子どもに「どうして?」と問いかけるようにしています。

 

わが子と一緒に走る遠藤久美子さん
子どもと一緒に走る遠藤さん。4歳と6歳の男児の体力は無尽蔵です

── たとえば、どんなときに聞くのですか?

 

遠藤さん:お菓子ひとつ買うにしても「どうしてこれが買いたいのか」と、親を論破しないと買えない、というルールにしています。そうすると、だんだん自分で考えるようになるんですよね。

 

先日も買い物に行った店先で長男が「ゲームが欲しい」と言い出し、長男と夫で話し合いになって。私が次男をトイレに連れていっているあいだに、結局買ってもらっていたんです。「こないだゲーム買ったばかりなのに、パパになんて話したの?」と聞いたら、長男は「こないだのゲームは、僕がわかるゲームだったの。でも弟はこのゲームだと難しくて一緒にできないの。こっちのゲームだったら一緒に遊べるから、こっちを買って、って言ったの」って。それを聞いて「なるほど~」と納得しました(笑)。

 

実際、長男は次男と一緒に簡単なほうのゲームで遊びながら「こうするんだよ」って教えていて。そんな姿を見ていたら「買ってよかったんだな」って思えました。

バラエティに出演するまで「気づかれていなかった」

── お子さんの母親世代は、遠藤さんのブレイクした時代に思春期を過ごしていた世代だと思います。そういったなかで「普通に育てる」ために、ママ友づき合いなどはどうしているのでしょう?

 

遠藤さん:実は、今まであんまり気づかれてなかったんです。コロナ禍だったので、みんなマスクだったじゃないですか。私自身も、息子の幼稚園の保護者の方の顔と名前が一致しないことも多くて。

 

でも、今年『ノブナカなんなん?』というバラエティ番組に出演したときに、顔は隠れていたといえ、子どもたちが登場した場面があったんです。それを観て「やっぱり!」って思った親御さんがいたみたいで。放送後、幼稚園に連れていったときに声をかけてくださって、そこから交流が始まったりしました。

 

── そんなことがあったのですね。

 

遠藤さん:最近は、公園でも話しかけてもらえるようになって。実は下の子が同じ学年で、来年は同じ幼稚園でお世話になる方だったり。あとは、近所の知らなかった公園や、雨の日の遊び場を教えてもらったり。

 

私から「自分はこういう者です」という感じで自己紹介するのは時に角が立つこともあるので、バラエティ番組を観て気づいて、話しかけてもらえたのは逆に良かったですね。

 

ご近所の方は職業関係なく接してくださいますね。さまざまな職業のご近所さんがいらして、みなさんと接していて気づいたのは、それぞれいろんな事情でプライベートを知られると困ることもあるんだろうな、ということ。私は芸能人という立場で、住まいを不特定多数の人に知られると困ることもあるなと感じていますが、たとえば警察の方も同じように大変な思いをされることがある。ほかにも、ゲーム開発のお仕事をされている方とかお医者さんとか、みんなそれぞれ事情があって、プライベートを守りながら生活されているんだな、とご近所づきあいから気づくことができて。

 

公私ともにパートナーである横尾初喜監督と遠藤久美子さん
公私ともにパートナーである横尾監督と遠藤さん

──「芸能人だから特別」ではなくて、人それぞれ「いろんな特別」がある、と。

 

遠藤さん:そう思います。人によっていろんな事情を抱えていると思うんです。だから「普通に育てる」といっても、何をもって「普通」とするか、基準が難しいんですけれど…。ただ、その子自身の自我を尊重して、全力で応援できたらな、と思いながら子育てをしています。

 

PROFILE 遠藤久美子さん

1995年にマクドナルドのCMでデビュー。『ウッチャンナンチャンのウリナリ!!』などのバラエティや舞台、ドラマなど幅広く活躍。2016年に映画監督の横尾初喜さんと結婚、二児を出産。横尾監督最新作『こん、こん。』にも出演中。

 

取材・文/市岡ひかり 写真提供/遠藤久美子