お笑いカルテット「ぼる塾」のリーダーであり、2019年の結成直後に産休・育休を取得した酒寄希望さん。「育休中に相方がめちゃくちゃ売れた」ことに葛藤を抱えつつも、3年ぶりに本格復帰した酒寄さんが直面した現実とは?(全4回中の1回)

育休明けは気負って「ひとり相撲」状態だった

── 2019年の第一子出産以降は、ネタづくりなど裏方で「ぼる塾」を支えてきた酒寄さんですが、2022年末からは再びお笑いの舞台にも復帰されています。自分が不在の間に「ぼる塾」が売れた葛藤をnoteでも率直に綴られていましたが、本格復帰後はどんな心境でしたか?

 

酒寄さん:最初のうちはとにかく肩に力が入っていました。「私が戻ったことで、3人のときよりも絶対に『4人のぼる塾のほうが面白い』とお客さんに思ってもらわなきゃ」とすごく力んでいましたね。

 

ぼる塾のファンの中には、「酒寄さんはぼる塾の最終兵器だから」と励ましを言ってくれる人たちもいて。そうした言葉が本当にありがたい一方で、そこに自分が強くとらわれてしまい、「即戦力にならなきゃ!」「私が入ってパワーアップしなきゃ意味がない」と思い込んでいたんです。

 

舞台前、4人で円陣を組んで気合を入れる

── 復帰後、初の表舞台は神保町よしもと漫才劇場の「バトルライブ」でした。

 

酒寄さん:もう全然ダメでしたね。自分で思っていた以上に、できなかった。3人のぼる塾のときよりもお客さんの笑いも少なかったし、自分が足を引っ張っているのが明らかで本当に申し訳なさを感じました。パワーアップどころかパワーダウンさせてしまった。「私って本当にいらない存在だったんだ」と落ち込みました。

 

でも、舞台が終わった後に3人が「大丈夫!あんたは今、本当の意味でスタート地点に立ったんだから」と励ましてくれて。

 

「酒寄さんが足を引っ張っている、なんてふうに感じる必要は、まったくないから」

「もしも私たち3人との間に距離があると感じているのなら、むしろ私たちを利用してほしい」

「私たちは酒寄さんが育休中だった間に力をつけてきたんだから、どんどん頼って」

 

3人にそう言われてようやく、「私は何を勝手にひとり相撲を取ってたんだろう」と気づかされたんです。私たちは4人でぼる塾なのに、私は自分ひとりの問題だと思い込んでいた。私の舞台復帰は、私のスタート地点であるのと同時に、4人のぼる塾のスタート地点でもあったんです。

 

それならば3人との力の差に引け目を感じてただ落ち込むのではなく、仲間の力を信じて、私は私でまたイチから頑張っていこう。そう思えるようになりました。

「できない自分」にとらわれている暇はない

── 3人の“同僚”としての心強さ、素晴らしいです。そこから、酒寄さんに心境の変化はありましたか。

 

酒寄さん:舞台での失敗が、以前ほど怖くはなくなりました。それまでは「スべったらどうしよう」「面白くないと思われたらイヤだ」という怖さがずっとあったんですけど、「3人が面白いんだから、私が失敗してもなんとかしてくれる!」という心強さが今はありますね。

 

「できない自分」にとらわれるのをやめて、できるようになるためには何をすればいい?失敗を恐れずに前に出て、どう動けば面白くなれるかな?そんなふうに考えながら、いろんなことを試していけるようになりました。

 

── ちなみに、舞台復帰のタイミングはどんなふうに決めたのでしょう?

 

酒寄さん:息子が今年4月から保育園に入園したことがやはり大きいですね。それまでも個人としてnoteでエッセイを書いたり、本を出したりという活動は続けてきましたが、息子の入園のタイミングでぼる塾の仕事をもっと増やしていこう、というイメージはずっとありました。

 

私としては少しでも早く「4人のぼる塾」として経験値を増やしたい焦りがありましたが、じゃあ具体的にどこから復帰していく形がいいんだろう?ということをみんなで相談した結果、「終わりの時間が読めている舞台からスタートしていくのが一番負担にならないのでは?」ということになりました。

 

「酒寄さんに無理がないペースでぼる塾として活動できる形」を3人が提案してくれて、マネージャーさんも本当に親身になって考えてくれましたね。やっぱりここでも、「そうだ、私ひとりの問題じゃないんだ」とあらためて実感できました。

 

誕生日を家族でお祝い!左から夫さん、息子さん、酒寄さん

「ぼる塾を辞めたい」と思った育休中

── 育休中の酒寄さんの活動についても少し振り返らせてください。2022年4月にnoteで公開してバズった「育休中に相方がめちゃくちゃ売れた」の記事では、ご自身の育休中の焦りや引け目が率直に書かれています。どんな思いであの記事を書いたのでしょう。

 

酒寄さん:もともと、あの記事を書く前からnoteでぼる塾の日常なんかを書いて発信していたんです。私が大好きな3人の面白さを、少しでも多くの人に知ってほしくて。

 

ただ、その後に私が育休に入っている間に「3人のぼる塾」が売れてしまう状況になったことで、私自身がなんていうか…中間的な存在になってしまったんですね。テレビで活躍する3人を応援するファンのような自分と、ぼる塾のメンバーであるはずの自分。その両方が自分の中にいて、やっぱりつらさを感じてしまう場面もたくさんありました。

 

──「もういっそ私なんて捨ててくれと思った」「ぼる塾を辞めたいと田辺さんに伝えた」などのネガティブな本音も明かされていますね。

 

酒寄さん:当時は本気でそう思っていました。でも、あんりちゃん、はるちゃん、田辺さんが温かく迎えてくれたおかげで、なんとか「もう大丈夫」なところまで自分を持っていくことができた。

 

だから、ぼる塾を応援してくれるファンの方々に、3人に私が救われたことや、「3人は面白いだけじゃなくて、こんな素敵なところもある人たちなんだよ」と伝えたくなったし、やっぱり感謝の気持ちを表現したかったんだと思います。

 

それに私自身も、表舞台しか見せないプロフェッショナルな芸人像に昔は憧れていたのですが、「もしかしたら少しずつ成長している途中の姿を外に見せてもいいのかな」と心境が変化したことも関係しているかもしれません。私と同じように育休中で不安を抱えている人たちに勇気を届けられたら、という気持ちもありました。

 

公開する前はいつもの記事とあまりにもテイストが違うから不安だったのですが、いざ公開してみたらすごくたくさんの「励まされた」という共感の声をいただいて本当に嬉しかったです。

 

PROFILE ぼる塾・酒寄希望さん

1988年、東京都出身。2019年に田辺智加、きりやはるか、あんりとの4人で結成したお笑いカルテット「ぼる塾」のリーダー。結成直後に産休・育休に入る。育休中にnoteで公開した「育休中に相方がめちゃくちゃ売れた」が大反響を呼び、現在は舞台の他、コラムの執筆等も行なう。著書に『酒寄さんのぼる塾日記』『酒寄さんのぼる塾生活』がある。

 

取材・文/阿部花恵 画像提供/酒寄希望