不妊治療中は夫婦の溝も感じたと語るニッチェ江上さん。思うように仕事ができないストレスに体の負担。金銭面以外にも喧嘩の原因になったことがあると言います。(全5回中の2回)
不妊治療で「多のう胞性卵巣症候群」が発覚し
── 現在おふたりのお子さんがいらっしゃいます。妊活も経験されたそうですね。
江上さん:私が30歳のときに入籍し、本格的に妊活をスタートさせたのは34歳になってからです。
── どのようなきっかけで妊活をスタートしたのでしょうか?
江上さん:夫は39歳で結婚していますし、夫からいい加減、子どものこと考えたい。子どもができなくて養子を望んでも年齢制限があり難しくなるかもしれないと言われました。
私は結婚前に卵巣腫瘍がみつかり手術をしていて、卵巣がひとつない状態でした。手術後も婦人科に定期検診で通っていて、そこで子どもについて相談したところ、不妊治療のクリニックを紹介してもらいました。
後日、2人で不妊治療のクリニックで検査をすると、私に多のう胞性卵巣症候群を患っていることが判明し、排卵しづらい体質だとわかりました。同時にダイエットと食事内容の改善、断酒などを頑張る必要があると言われました。
地方営業にも制限が…その時、相方・近藤さんは
── 不妊治療はどのように進めましたか。
江上さん:人工授精を飛ばして、はじめから体外受精を試しました。不妊治療はすごく時間がかかるので、やるとなったら早くステップを踏みたかったんです。
不妊治療を始めると、時間管理にも思った以上に気をつかいました。病院に行く日は、あらかじめ決まっている日もあれば、急に明日来てくださいと言われることもあるんです。地方に行くときは朝早く病院に行って、その足で新幹線に乗って地方ロケに向かうこともありました。自宅では自己注射や決められた時間ピッタリに薬を飲む必要もありました。
相方の近藤さんには、不妊治療を始める前に相談しました。タイミングによっては仕事を2週間入れられないかもしれないし、地方営業に制限もかかる。コンビとしての活動も減るので、近藤さんの収入にも影響が出る可能性も伝えたんです。近藤さんは、「お互いピンの活動もあるし、仕事のことは気にしないで治療に専念して」と言ってくれました。改めて近藤さんの器の大きさを感じましたね。
── 体質改善にも取り組んだそうですね。
江上さん:私は体型がちょっと太めだったため、妊娠しやすくするためにパーソナルトレーナー指導の下、食事制限と軽い筋トレを始めました。その結果、1年かけて約10キロ体重を減らすことができました。大好きなアルコールも断ちました。
それでもなかなか妊娠できないと、自分のせいだ、悪いのは自分だと思ってしまいます。なぜ毎回、私だけがこんなにつらい思いをするのかなと、肉体的にも精神的にも大きなストレスを感じました。
いつも自分を責めていた
── 旦那さんはどのように考えていたのでしょうか?
江上さん:夫は、不妊治療が大変なのはわかるけど、俺にどうしろというの?という雰囲気だったというか。自分は家事もやるし、妻が疲れたらいたわりもする。普通に生活しているだけなのになんでイライラされて、話しかけてもケンカ腰なのか。そんな態度だったら話もできないよ、といった感じでしょうか。
私は私で、大好きなお酒をずっと断酒していたので、夫に「私と一緒にいる時は酔っぱらうまで飲まないで」と何度も伝えました。それでも夫は理解しないどころか、酔っぱらって私にからんでくることもあって、何度かケンカになったこともあります。子どもがいなければ、離婚も考えていたかもしれません。
── 不妊治療は夫婦関係にどんな影響を与えましたか?
江上さん:一時的とはいえ、大きな溝ができた感じがしました。やりたかった大きな仕事をいくつも断って臨んだ不妊治療だったのに、がんばっても結果が出ない。化学流産や想像妊娠で何度も落ち込み、そのたびに自分を責めてばかり。
なかでも大きかったのは、お金に関すること。夫とは、結婚当初からお金は夫婦の共同財産だと話したものの、不妊治療代に関しては自分の財布から出していました。自分の財布から1か月数万円ずつ払ってどんどん貯金がなくなる感覚があったし、お金を払っても本当に成果が出るかわからない不安もありました。
── どのように解決したのでしょうか?
江上さん:一度大きなケンカになったとき、夫婦が行きつけの飲み屋のマスターが仲介に入ってくれたんです。私とはいっさい話したくないという旦那も、マスターと話をすると、急にわかったよ、と。
夫も私から何か言われて責められている気分になったかもしれないですが、身内以外の人と話すと冷静に話も聞けるのかもしれません。あのときは、お互いにイライラして相手を思いやる気持ちがもてなかったんだと思います。
── 無事、妊娠できてからは、夫婦関係は改善されましたか?
江上さん:実を結んでからは、夫婦関係が修復してきました。親になるためにお互い大人になろうという自覚が芽生えてきたことも大きかったと思います。今は不妊治療を経て子ども2人に恵まれましたが、あのときはハードでしたね。それさえも忘れてしまうほど慌ただしい日々を過ごしてますが、お金や方向性、メンタル面などあらかじめ知識があると少しは違うのかなと思いました。
PROFILE 江上敬子さん
1984年生まれ。島根県出身。お笑いコンビ・ニッチェとして、相方の近藤くみこさんとともに活動。『女芸人№1決定戦THE W』に出演、2年連続決勝進出。
取材・文/間野由利子