資格なんてとっても…と思う人はいるかもしれません。でも、西村知美さんの話を聞くとその考えは一変するかも。やみくもに取得するのではなく、「人生に向き合う」といくつもいいことが起こるようです(全4回中の1回)。

 

西村知美さん
「ワイルドすぎる!」資格を活かして建設機械を豪快に動かす西村知美さん

介護や接客など幅広く資格をとる理由

── これまで55の資格や検定、許可証を取得してきた西村さん。オセロ1級、カッパ捕獲許可証、一級小型船舶操縦、認知症介助士とバラエティに富みますね。

 

西村さん: はじまりは21歳のときの普通自動車免許。その後、夫が飲食業をはじめたのがきっかけで甲種防火管理者の資格を取りました。私は漫画が大好きなので、その流れでいつか漫画喫茶を開けたらいいなぁと思って。

 

── 楽しいものから勉強時間や実習が必要なものまで挑戦していますが、西村さんはどんな基準で選んでいるのですか?

 

西村さん:おもに3つあります。温泉、花火、けん玉のように「好き」に関係したもの。それから、運転や料理のように「苦手」なもの。3つ目は、着付けや介護のように「いま必要なくても今後に役立つ」もの。

 

──「苦手」なことにも挑戦ですか!? ふつうは避けようとしますが…。

 

西村さん:苦手なものにあえて挑戦することによって世界が広がるんです。20歳になる直前、芸能界しか知らないしこのまま社会人として大丈夫なんだろうか、とすごく不安になった時期があるんです。それで、苦手なことに3つやりきろうと決めて、「ひとり旅」「フルマラソン」「富士山登頂」に挑戦しました。

 

マラソンなんて、スポーツの中で一番嫌いだったけど、がんばってホノルルマラソンに参加して、『24時間テレビ』ではチャリティーマラソンランナーに。

 

西村知美さん
アーシングジュガの合格証明書を持つ西村さん

── そこまで西村さんをかりたてた不安のおおもとはなんですか?

 

西村さん: 38年間芸能界にいますが、なかなか自信をもてないこともあり、自己肯定感が低めなんです。「いつ干されてもなんとかできるようにしたい」っていうのがあります(笑)。14歳で芸能界に入ってこの世界しか知らないので、もしかしてもっと自分に向いていることがあるんじゃないかな?と探したい気持ちもあって。

「タイ古式マッサージ」は事務所や夫から大反対され

── 取得した55の資格などのなかで印象に残っているものは?

 

西村さん:まわりの人を説得したり、工夫が必要だったのは2001年の「タイ古式マッサージ」。これはタイのスクールで5日間受講しないと取れない資格ですが「海外にひとりで行くなんて危ないから絶対ダメ」と、事務所からも夫からも大反対されました。20歳になる前に国内ひとり旅をしたから、30歳になる前に海外にひとりで行くことも経験しておきたかったのですが…。

 

どうしたらまわりを説得できるか考えて、ある意味「安全をお金で買う」考え方に。泊まるところは安全で安心なホテルを選んで、ガイドさんを含めて現地で頼れる人を事前に紹介してもらって、単独行動にならないようにしました。

 

毎朝、ホテルから学校まで同じトゥクトゥク(3輪タクシー)を予約して送迎も依頼しました。でも、その運転手のお兄さんが「今日は学校が休みだから、遊びに行こう」って言ってきて、だまされそうになったことも(笑)。いや絶対うそでしょって!

 

── 遊び心のある運転手さんだったんですね。そこまでして取得したタイ古式マッサージの資格は活かせましたか?

 

西村さん:それが、夫や義理の両親に施術してあげようとしたら、みんなくすぐったがり屋でダメでした。結局、自分の足をもむくらいしか…(笑)。

どんな資格も活きてくる「出会いの数も増えるから」

── これだけ幅広い分野を知っていると、いろんなところで役に立ちそうです。

 

西村さん:ある俳優さんから「役者を続けるなら、資格をとりなさい。全部できなくても、少しかじるだけでもコツがつかめるから」とアドバイスを受けました。役がまわってきたとき、少しでもやったことがあるか、見ているとわかるからと。それに、まったく知らないと何を質問していいのかも、わからないですからね。

 

着付けも勉強しましたけど、実際はプロに着つけてもらうことがほとんどです。でも、着せてもらうときに袖のところを持つ、着せやすいようにちょっと自分で着物を押さえるなど、サポートのしかたがわかります。少し勉強するだけでも、仕事にプラスになることは多いです。

 

── ドラマ以外でも役に立ちますか?

 

西村さん:昨年、1日だけ温泉旅館で女将さんをやる「おかみ代行」をテレビの企画で演じました。飾り巻き寿司(1級インストラクター取得)を披露したかったけど、それは板前さんがいらっしゃるのでやめて、温泉ソムリエとして泉質の説明をしたり、温泉健康指導士で習った注意事項をアドバイスしました。

 

西村知美さん
テレビのバラエティ番組で女将代行をしたときの姿

さらにコーヒードリップアドバイザーとして美味しいコーヒーをいれたり、「お疲れですか?」と聞いて、タイ古式マッサージをしたり…。これで女将さんの仕事全部をできるわけではありませんが、資格などをとっておいてよかったと思いました。

 

── 資格はプライベートでも西村さんを助けてくれますか?

 

西村さん:コミュニケーションにも使えますよ。はじめてお会いした方とは趣味があわないとなかなか盛り上がりにくいのですが、そういうときにも役立ちますね。

 

手話技能資格検定2級を取得したときに出会った方々とは、いまでも交流が続いています。手話は方言のように地域により異なるため、各地でどんなふうに使われているかなど情報も入りますし。ろうあ者の方との出会いもあったり、いろいろとつながっていくのがいいなぁと思います。

 

PROFILE 西村知美さん

1970年、山口県生まれ。1985年、第1回ミス・モモコグランプリ獲得をきっかけに芸能界へ。映画『ドン松五郎の生活』で主演でデビュー、日本レコード大賞新人賞獲得。映画やドラマ、バラエティ番組などに多数出演。2002年、「24時間テレビ」のチャリティランナーとして100キロ完走。55の資格や修了証・許可証を取得。家族は夫と長女。映画『SOMEDAYS』(2023年10月公開予定)に出演。

 

取材・文/岡本聡子 画像・写真提供/西村知美、株式会社芸映