『末期ガンでも元気です38歳エロ漫画家、大腸ガンになる』の著者であるひるなまさんをかたわらでずっと支えてきた夫さんが2月にブログを開設。妻の闘病生活を支えた患者家族として、妻が亡き今、伝えたいこととは──?

 

ひるなまさんの遺作となった漫画『末期ガンでも元気です38歳エロ漫画家、大腸ガンになる』第1話より
ひるなまさんの遺作となった漫画『末期ガンでも元気です 38歳エロ漫画家、大腸ガンになる』第1話より

「何か恩返しできれば…」家族目線の闘病記

── WEBサイトCOMICポラリスにて「エロ漫画家の知識で乗りきる超ポジティブ闘病記!」という話題の作品『末期ガンでも元気です38歳エロ漫画家、大腸ガンになる』を連載していたひるなまさん。昨年12月にお亡くなりになりました。その後、今年の2月にひるなまさんの夫さんがブログを始められましたよね。きっかけはなんだったのでしょうか?

 

ひるなまさんの夫:もともと、生前の妻にアメブロからブログ開設のオファーがあったんです。ひるなまもブログを書くことに前向きだったんですが、2022年夏には体の具合が悪くなってきてしまい、結論を保留していました。そのときに妻から「私がブログを書くのは厳しいかも。君が書いてみたら?」と言われたのがきっかけです。とはいえ、最初は「俺が書くの?」と思っていました。

 

── そこから、ご自身も「書こう!」となった経緯はどのようなものだったのでしょう?

 

ひるなまさんの夫:妻の訃報をひるなまのアカウントのX(旧Twitter)で知らせたとき、こんなにたくさんの人が妻のXを読んでいてくれて、ずっと見守ってくれてたんだなということに、そのとき初めて気づいたんです。というのも、もともと妻のXをあまり見てこなかったし、自分もXをやってなかった。僕に知られたくないことも書いてたかもしれないだろうからと、妻のXを覗き見るようなこともしたくなくて…。

 

思いがけず訃報連絡のタイミングで、みなさんの存在の大きさを知りました。本当にありがたいなと。ひるなまも、逆にみなさんに自分の経験を発信することで励ましたり慰めたりしたかったんだろうなと。

 

読者さん、フォロワーさんがいたからこそ妻は、闘病記を発信し続けることができた。そして「元気です」のお仕事を通して、活き活きと充実した日々を送ることができたのです。だから、読者さん、フォロワーさんこそ、妻の生きがいだったんです。皆さんへの深い感謝の気持ちを、私は今も持ち続けています。

 

そんな妻の思いを受け継ぎ、「生きがいとなってくれた皆さんに、何か恩返しできることがちょっとだけでもあれば…」と、ブログで妻とのことを家族目線で書こうと思いました。

 

私がブログを始めたことを、心配してくださる方も多かったです。漫画では、妻のことを支える私のほうが、妻よりも動揺したり泣いたりしていたので、「ブログを始めても大丈夫?」「無理しないで」と言う声をたくさんいただきました。ありがたいですね。今は、ブログやXを通して皆さんと交流することで、気持ち的に支えられている部分が大きいです。

 

病院に行くようにすすめる夫さん(『末期ガンでも元気です38歳エロ漫画家、大腸ガンになる』第1話より)
病院に行くようにすすめる夫さん(『末期ガンでも元気です 38歳エロ漫画家、大腸ガンになる』第1話より)

弱音を吐けない家族の孤独な闘いも伝えたい

── ひるなまさんの連載やXをご覧になっていたみなさんのなかには、ガンの闘病中の方やそのご家族の方も多いのではと思います。

 

ひるなまさんの夫:そうですね。妻の闘病記は、同じく闘病している方やそのご家族にも、ひとつの情報として読んでいただいたようです。これからブログでは、自分の目線で感じたことを書きたいと思っています。患者家族として、何に助けられ、何に苦労したかなど。妻の闘病記の「副音声」のような役割ができたら嬉しいです。

 

── ご本人はもちろんですが、そばで支えるご家族の苦労も大変だったかと想像します。

 

ひるなまさんの夫:「病気を代われるものなら、代わりたい。代われないなら、分けてほしい」と、毎日のように思いました。サポートはできても治療は代わってあげられないって本当に苦しかったです。また、サポートするにしても「どこまでやるのか?」も実際は難しいところで、やはり仕事もありますし、完全につきっきりで過ごせない部分も出てきます。体力にも限りがあります。作中で登場する姉や看護師のWさんをはじめ、たくさんの方に助けてもらいました。患者本人には言えない悩みもありました。

 

── いつもなら弱音を吐ける相手が一番弱音を言ってはいけない人に切り替わることは本当にご家族の苦悩でしょうね。

 

ひるなまさんの夫:そうなんです。頑張っている本人に弱音は吐けませんし、現実を受け止め、乗り越えねばならないところに孤独がありました。そんなときに「あなたが支えないと一番つらいのは患者だから!」「一番の理解者だからしっかりしなきゃ」などと他人から言われて「わかってるわ!」って思うこともありました。善意の言葉でも、追いつめられる言葉に感じてしまうものなんです。患者家族は。そういう家族側の思いも伝えていきたいですね。

 

── 闘病記を拝見すると、ガンという病気が他人事ではないなと今一度考えさせられます。

 

ひるなまさんの夫:本当に反響をいただいておりまして、ブログをつくったときも「ひるなまさんのおかげで勇気を出して検査をうけました」とか、「ガン保険に入りました」とかいう方もいらして嬉しかったですね。

 

── ひるなまさんは多くの人の人生や命を救ったかもしれませんね。

 

ひるなまさんの夫:反響をみて、つくづく「あの本には力があるな」と思いますね。いろんな人の助けになっていたんだなと思いましたし、これからもなってほしいですね。

 

PROFILE ひるなまさんの夫

BL(ボーイズラブ)漫画家・ひるなまさんの夫。アメブロで2023年2月から「ひるなまの夫official blog」を連載中。ひるなまさんは、末期の大腸ガンが見つかり、ポジティブな自身の闘病記『末期ガンでも元気です 38歳エロ漫画家、大腸ガンになる』をWEBコミック「COMICポラリス」で連載。その後書籍化され、著書やX(旧Twitter)は今なお多くの人に読まれている。

取材・文/加藤文惠 画像提供・取材協力/ひるなまの夫、フレックスコミックス