体当たりのロケ番組「ロケみつ」やエヴァ漫才でブレイクした桜 稲垣早希さん。女優志望だった彼女がお笑いに目覚めたのは、あるオタクイベントでの出来事がきっかけでした。(全4回中の3回)
元は女優志望「とりあえずお笑いやらないか」とM-1に
── 芸人を目指したきっかけは何だったんですか?
稲垣さん:高校生のときから関西の別の芸能事務所にいまして、女優を目指してたんです。舞台に立ったり、エキストラに出たりしている時に、テレビで「吉本がNSCにタレントコースを新設する」というCMを見まして。女優になれるし、タレントもなれるし、モデルでも何でもなれますよ、という。
私は関西在住だったので、吉本といえば、それはもう絶大な力のある事務所だと思っていて。「吉本が女優を育てるんだから、素敵なお仕事をさせてもらえるんやろな」と。
── なるほど。
稲垣さん:そこで、NSCに入って1年間みっちり練習をして。いよいよ卒業、となったときに、マネージャーさんから「吉本は正直、お笑いのノウハウしかないので、とりあえずお笑いをしないか」と言われまして。
── 話が違う…。
稲垣さん:ただ、芸人さんでも役者をやっている人はたくさんいるので「売れたあかつきには好きな仕事もできるようになるぞ」と言われて。そこで、あんまり喋ったことなかった女の子とコンビを組んで、「M-1エントリーしてみろ」って。今思えば無理やりな形で、お笑いの道に進んだ感じですね(笑)。
── それは、だまし打ち感がありますね(笑)。
稲垣さん:詐欺だなと(笑)。今では笑って話せるんですけど、当時はそれを言われたときは「お笑いやるか、他の事務所に移るか」みたいに迫られたんですよ。でも私からしたら、せっかくNSCに入ったし、やめる選択肢はなかったので。とりあえずM-1に応募して。ネタってどうやってつくるのかわかんないけど、まずは相方とあまり喋ったことないから、とりあえず一緒に遊んでみたりしつつ、ネタをつくっていったいう感じでした。
人気声優から電話で「染まらないで…」
── 稲垣さんは、デビュー後すぐに「ロケみつ」に出演され、ブレイクしたイメージがあります。
稲垣さん:「ロケみつ」はコンビを組んでまもなくっていう感じでしたね。「エヴァンゲリオン漫才」っていうのをコンビでやってて、M-1にエントリーしたりしていたら、ロケみつのスタッフさんに見つけてもらった感じだったらしいです。
── 番組内の企画「ブログ旅」で大人気になりました。声優の石田彰さんも、ラジオで「ロケみつ」ファンだ、と明かされていました。
稲垣さん:そうなんですよ、ラジオで話してくださったみたいで。あるときプライベートで、ある声優さん繋がりで、石田さんとお電話でお話する機会があったんです。「その節は、番組のことをラジオでお話してくださってありがとうございます」とお礼を言ったら、カヲルくん(『新世紀エヴァンゲリオン』のキャラクター)のあの声で「…君は、芸能界の汚い部分に染まることなく、そのままでいてくださいね」って言葉をいただいて(笑)。
── なんと…!(笑)
稲垣さん:石田さんがどのあたりを“汚い部分”とイメージされているのかわからなかったんですが、「わかりました、ありがとうございます」って(笑)。
「体にビリビリってすごい衝撃が走った」
──「エヴァンゲリオン漫才」はどんな経緯で生まれたんですか?
稲垣さん:実は、偶然だったんです。コンビを組んだ後、一時、ラジオ番組で時報を読む仕事をやっていたんです。「何時何分、行ってらっしゃい」みたいな。
それを聞いたラジオのプロデューサーさんから「今度、公開ラジオイベントをやるんだけど、前説をコンビでやってくれないか」と声をかけていただいて。そのイベントというのがオタクイベントだ、ということで「オタクの人に受けそうな漫才を1本つくってくれ」とお願いされたんですよ。
それまでは、相方がダンサーになりたくてNSCに入った子だったので「宝塚歌劇団漫才」「ダンス漫才」とかをやっていたんですけど。
私、中学生のときにずっと声優ごっこみたいな感じで、1人でアスカとシンジのモノマネをやってたんです。そういう特技があったので「私、アスカのものまねができるから、私がエヴァの難しい単語言うから『わからん』みたいにツッコむ漫才をやってみようか」とつくってみたんです。
── それでエヴァ漫才が生まれたんですね。
稲垣さん:そうですね。それまでは、実はずっとスベリ倒してたんですよ。「ベース吉本」っていう劇場があって、本当にワケわからん素人の2人が「ダンス漫才」とかやっていて、ひと笑いももらったことがなかったんです。でも、そのイベントで初めてやったエヴァ漫才が、もう信じられないぐらいウケたんですね。今でも覚えているんですけれど、ビリビリって体にすごい衝撃が走って。
「うわあ、これがお笑いか!」と思って。いや、実際それがお笑いなのかわかんないんですけど、人に笑ってもらう快感っていうのを初めて経験して。そこから「私、お笑いやりたい!」と思って、今に至る感じですね。
── そのイベントがなければ、今の稲垣さんいらっしゃらないかもしれないですね。
稲垣さん:そうですね。相方も「お笑い嫌や」って辞めてしまったんで、私もそれがなかったら辞めていたんじゃないかなと思います。
PROFILE 桜 稲垣早希さん
1983年生まれ。『新世紀エヴァンゲリオン』惣流・アスカ・ラングレーのモノマネをベースにした「エヴァ漫才」でブレイク。2023年2月に家族3人でタイに移住し、現地での生活をYouTubeなどで伝えている。
取材・文/市岡ひかり 写真提供/桜 稲垣早希