局アナ、レポーター、クイズの女王…テレビの中で活躍する富永美樹さんが50歳を超えて地域で起業。込められた言葉には「悔いなく」の思いがあふれる爽快感がありました。

 

これが起業の第一歩!新たに挑戦する富永さんの仕事ぶりが素敵

クイズ番組への出演は「衰える記憶力への挑戦でした」

── 最近は、「東大王」など、クイズ番組で活躍されているのをよく目にします。東大生相手に全身全霊で勝ちにいく姿が印象的です(笑)。

 

富永さん:あまりに楽しみすぎているせいか「ガチすぎて、怖いよ!」と言われます(笑)。でも、0.1秒速く押すことで勝負が決まるので、競技をしている感覚になり、つい熱くなってしまうんですよね。

 

── 勝負魂に火がつくのですね(笑)。脳の衰えを日々実感している同世代としては、あれほど記憶力やひらめきを維持されていることに感心します。

 

富永さん:じつは私にとっても意外な発見でした。クイズ番組の出演は、記憶力の低下を実感する40代半ばからの挑戦でしたが、もう一度、脳をグルッと回転させ始めたら、これが想像以上に楽しくて。「まだこんなに漢字が覚えられるんだな」ということもわかって自信につながりましたし、新たな経験値を得る機会にもなりました。

 

── つねに全力で物事に向き合う姿勢が、富永さんらしいですね。

 

富永さん:私はいくつものことを同時にこなせるタイプではないので、「これがやりたい!」「楽しい」と、心から思えるものをそのつど吟味し、エネルギーを注ぎ込んできました。暮らしや趣味もそうだし、仕事もそうです。

 

テレビ局のアナウンサーを辞めて、8年間、主婦業に専念したのも家庭という基盤をしっかり築き上げたかったからです。ある程度、家庭のことをこなせるようになって、夫の信頼も得られたと感じたので仕事を再開しました。

 

ただ、不思議なことに、ひとつのことに没頭し、ある程度うまくできるようになってきたら、誰かが次のボールを投げてくれ、新しいチャンスがめぐってくる。そうして、どんどん次の扉が開かれてきた感覚があります。

「ペース配分」よりも自分を「出しきる」生き方をしたい

── 年齢を重ねると、ペース配分を考えながら、省エネモードでうまくやり過ごすこともできますが、あえてそれをしないことに潔さを感じます。

 

富永さん:「しない」というより、「できない」んです(笑)。ペース配分をあまり考えないので、終わった後はドッと疲れてしまう。でも、自分が納得してやっていることなので、まったく悔いがないし、楽しいですね。「こういう生き方もいいよね」と気に入っています。

 

── 後悔が少ないと、ストレスとも無縁でいられそうです。

 

富永さん:もともとは「あのとき、ああすればよかった」と引きずりがちなタイプで、2~3日モヤモヤしてしまうこともありました。そういう自分がすごく嫌だったので、ひとつひとつを楽しみながら全力を尽くすように。全力でやってダメならば、「あれだけ頑張ったんだから仕方ない」とあきらめがつくし、納得して次へと進めますから。「明日死んでもいいや」と思えるように過ごすことが、私にとって究極の生き方です。

 

── 以前、“局アナ時代はあまりに忙しく目の前の仕事をこなすことに必死で、立ち止まって振り返る余裕がなかった”とおっしゃっていましたね。過去のそうした“消化不良”の経験も、「全力を尽くす」教訓につながっているのでしょうか?

 

富永さん:それはありますね。ただ、やっぱり会社員だから、自分のやりたいようにできるわけではなく、しかたのないことだと思っています。でもいまはフリーランスなので、本当にやりたいと思えることだけをやらせていただき、ありがたい環境だと思っています。だから、せめて「全力の自分で向き合いたい」という気持ちがつねにあります。

 

また、2拠点生活を始めたことで、自分にとって本当に心地よい生き方がわかり、考え方がシンプルになりました。

 

── と、いいますと?

 

富永さん:自分にとって本当に大事なものや、「どう生きたいのか」がわからないと、自信が持てずに不安になったり、ブランドもので武装して、自分を大きく見せようとしてしまいがちです。でも、本当に心地よい生き方がわかると、他人や世間の目なんてどうでもよくなる。大事なことを最優先にできるようになり、迷いもなくなる気がしています。

河口湖の近くで起業「少しでも社会貢献できれば」

── 昨年、起業をされたそうですね。きっかけはなんだったのでしょうか?

 

富永さん:コロナ禍でおうち時間が増えたので、山梨の庭をガーデニングしたり、友人のキャンプ場に花を植えたりしていたのですが、それがすごく楽しかったんです。富士山のふもとの地域に素敵なお庭がたくさん増えるといいなと思い、友人と一緒に庭のデザインと施工を行う会社を起ち上げました。

 

河口湖界隈をリゾート地として価値を高めつつ、英国の湖水地方みたいに素敵な場所にしたい。そう思っています。

 

── 年齢を重ねるごとにエネルギッシュになっていきますね。

 

富永さん:50代に突入し、自分が社会に対して何を残せるのかを真剣に考えるようになりました。私は子どもを残せなかったので、その分、大好きなこの地域に素敵な会社を残すことで少しでも社会に貢献できれば、という気持ちもあります。

 

今年で52歳。すでに人生後半戦です。健康で働くことができる期間は、あと20年くらいだと思うと、ちょっと焦りもあります。後悔のない人生を全うするためにも、興味のあることはすべてやっておきたいと思っています。うまくいかなければ軌道修正すればいいだけですから。

 

もちろん年齢とともに、老いへの不安などもあるけれど、いろんなことを恐れ出すと、きりがないですよね。何事も必要以上に怖がらない、気にしない。「なんとかなるでしょ」の精神を大切にしています。

 

PROFILE 富永美樹さん

1998年、「シャ乱Q」まことさんとの結婚を機にフジテレビを退社。現在は、フリーアナウンサーとして、「東大王」などのクイズ番組や商品プロデュース等でも活躍。現在、東京と山梨での2拠点居住中。環境省「つなげよう、支えよう森里川海アンバサダー」を勤め、SDGs活動を発信している。

 

取材・文/西尾英子 撮影/伊藤智美 画像提供/スターダストプロモーション