可愛らしいイラストと等身大の主人公たちが活躍するストーリーが小学生女子に人気の児童文学作家・あんびるやすこさん。実は会社勤めをしながら絵を描き続け、児童文学作家への転身を果たしたそう。その経緯や創作の工夫など、お話を聞きました。(全2回中の1回)
絵描きになるのを親に反対され…会社員をしながら出版社に持ち込みを
── いつ頃から、児童文学作家を目指されていましたか?
あんびるさん:私は絵を職業にすることをずっと目標にしてきたので、文章を書こうとは全く思っていませんでした。でも、商業デザイナーだった父は、できたら絵の仕事をしてほしくなかったみたいで(笑)。だから美大にはいかずに文学部を卒業してから、自分の力で絵の仕事をしていこうと考えていたんです。
── 児童書の作家にはどのような経緯で?
あんびるさん:自分の絵を見てほしいと、絵本の出版社に持ち込んだんです。そうしたら編集の方から「君はお話も書けるような気がする」って言われて。「絵本のラフを持ってきたら見てあげる」と言われたので、2週間で3本分のラフを持っていきました。それで「君はずいぶん熱心だね」と言ってもらえて(笑)、契約が決まったんです。
── 最初は絵本作家になられたのですね。
あんびるさん:デビューしてから15年間は、絵本だけでした。25歳から絵本を描き始めて、『なんでも魔女商会』シリーズ(2003年~)を書いたのは、40歳を過ぎてからです。45歳までの20年間、ずっと会社勤めをしながら描いていました。映画や玩具の企画の会社で最初は週5日働きながら描いていました。ところが、『ルルとララ』シリーズ(2005年~)を発行してしばらく経った頃に、その会社の状況が思わしくなくなり、社員のほとんどが解雇されたのです。
── それは大変でしたね。
あんびるさん:ちょうど45歳ごろのことでした。その会社には20年以上勤め、最初は週5日勤務だったのですが、絵の仕事との両立のため、だんだん出社日を減らしていって。最後のほうは週1回しか出社していなかったんです。創作活動にすごく理解がある会社で、絵の仕事だけになってしまうと、気持ちの余裕がなくなるから辞めないほうがいいって言ってくれて。週1回でもいいからと言われて、それで続けていました。
── 理解のある職場だったのですね。
あんびるさん:企画を立案・運営する会社だったから、一般的な会社よりも自由がきいたのかもしれません。でも会社勤めの頃は、残業が多くて。終電後にタクシーで家に帰ってくるような日々でした。なのに帰宅後や土日に絵本を描いていたので、周りからは「大丈夫?倒れてしまうよ」と心配されました。でも自分では全然そんなふうに感じてなかったんです。むしろ勤めながら絵の仕事ができるって、なんてありがたいんだろうって思っていました。
玩具の企画の仕事を担当したおかげで流行を熟知
── 絵と文章では、どちらが得意というのはありましたか?
あんびるさん:文章のほうに時間がかかっているんじゃないかな。絵のほうがどれくらいで描きあがるのか見通しが立ちますよね。玩具の仕事をしていたとき、一番得意だったのが人形の服だったんです。28センチドールや、『メルちゃん』(パイロットインク社)の服をデザインしていて。
── あんびる先生の本に出てくる女の子たちの洋服も、少しずつデザインが違っていて、すごく凝っていますよね。
あんびるさん:登場人物たちのお洋服は、読者からの反響でも多いですね。サイン会では、衣装のコスプレをしてきてくれる子もいるんです。『なんでも魔女商会』シリーズは、魔女のシルクは魔女っぽい服、人間のナナちゃんは今の女の子たちが、学校に着ていけるような服を意識しています。『ルルとララ』シリーズは、二人なので少しずつデザインが違うようなコスプレっぽい服を着せています。『魔法の庭ものがたり』シリーズ(2007年~)は、ヨーロッパの女の子たちが着ている服を意識してデザインしていますね。
── あんびる先生はシリーズものを多く手がけていらっしゃいますが、最初から続けることを想定して書かれたのですか?
あんびるさん:最初に『なんでも魔女商会』シリーズを書いたときには、1巻と3巻の構想がすでにできあがっていました。うまく読者がついてくれたらシリーズに、という話だったので、シリーズものとしての構成は後から意識しはじめました。
── シリーズを意識していなかったとは、意外です。
あんびるさん:最初は、人気がなくてシリーズ化できないかもしれないと想定して書いていたんです。『なんでも魔女商会』シリーズの評判が良かったのですが、このままだと一発屋で終わってしまうって危機感を抱いていて。そこで切り口を変えて、料理を扱った『ルルとララ』シリーズを書き、2つのうちどちらかが生き残れば…って思っていました。でもやっぱりまだ不安で、『魔法の庭ものがたり』シリーズのお仕事も受けてしまって。結局今ではそれぞれのシリーズに読者がいるので、止められないですね(笑)。
「親が与えたくなる子どもが喜ぶもの」ってないのかな
── 作品のなかには、美味しそうなスイーツや、綺麗な宝石、可愛らしい服など女の子たちが好きなモチーフがたくさん取り上げられています。このようなセンスはどのようにして培われたのでしょう?
あんびるさん:企画会社に勤めていたときに、女児用玩具の担当だったんです。商品の企画デザインを専門に扱う会社だったので、“今、女の子たちの間で何が流行っているのか”を徹底的に頭に叩きこみました。当時は、女の子たちの好きな色や、放課後はどう過ごしているのかなど、いろんなリサーチをしてね。
── 玩具の仕事をされていたときの経験が役立っているのですね。
あんびるさん:でも子どもたちが欲しがるものって、親は与えたくないと嫌がるものもありますよね。そこで、親も子どもに与えたいと思えて、子どもも喜ぶものがあればすごくハッピーなんじゃないかなって。それが児童書ならできるんじゃないかって思ったんです。
── 確かに、児童書は子どもが自分で選ぶことが多いですね。あんびる先生の作品は、必ず登場人物たちの成長が描かれています。それも意識して書かれていますか?
あんびるさん:そうですね。主人公の成長を感じてほしいと思って書いています。お話を最後まで読まないとメッセージが伝わらないので、読了できるように工夫しています。
── 例えば、どのような工夫を?
あんびるさん:海外の図鑑って、まるで宝の地図みたいな感じで写真やイラストと文章が組み合わされていますよね。そんなデザインだったら、子どもたちも飽きずに最後まで読んでくれるんじゃないかなって。そのために、自分でイラストを描いて文章も書き、レイアウトもして。あとは挿絵には、キャラクターを描くようにしています。ページをめくるのが楽しくて、最後まで読みたい!という気持ちになってもらえたらと、いろいろ考えています。
── 確かに、ページの周りにも絵が描かれているので眺めるだけでも楽しいですね。
あんびるさん:子どもたちが本を最後のページまで読んで、達成感を得ることで、また本を読みたくなる。そんな好循環を生み出すような作品づくりを心がけています。読了してもらうことで、作品のテーマを子どもたちが受け取ることができる。そして親御さんたちも非常に満足してくださるんです。
──「子どもが読書をしない、苦手」という悩みもよく耳にします。
あんびるさん:読書って、すごく大切だって考えています。子どもたちのこれからの人生を考えても、読書する習慣をつけてほしい。サイン会に来てくださったお母さまから「この本で一人読みができるようになりました」と言われると嬉しいですね。でも、子どもたちにとって、読了するのは簡単なことではありません。途中で読むのをやめてしまうことも多くて。だから「この本で読了できるようになりました」って言われるのもすごく嬉しいんです。
PROFILE あんびるやすこさん
群馬県前橋市出身。児童文学作家、絵本作家として『なんでも魔女商会』シリーズ、『ルルとララ』シリーズ(ともに岩崎書店)、『魔法の庭ものがたり』シリーズ(ポプラ社)、『ムーンヒルズ魔法宝石店』シリーズ(講談社)など著書多数。現在は、日本児童出版美術家連盟の監事、日本美術著作権連合の理事長も務めている。
取材・文/池守りぜね 画像提供/岩崎書店