『「40歳の壁」をスルッと越える人生戦略』を上梓した音声メディア「Voicy」トップパーソナリティのワーママはるさんこと尾石晴さん。壁にぶつかり挫折した人の乗り越え方を聞きました(全3回の2回目)。
サバティカルタイムに入った理由
── 40歳ごろ何か現状を変えたほうが良いかもしれない、と葛藤にぶつかるのが40歳の壁と言われます。尾石さんはその頃、会社員を辞めてサバティカルタイム(使途用途を決めない学びの休暇)に入られましたが、葛藤はありませんでしたか。
尾石さん:私は育児をポジティブに捉えているのですが、私のいた会社は時短勤務がなく、保育園に19時に迎えに行く生活。1日24時間あるけれど、これでは私が満足いく子どもとの向き合い方はできないな、と思ったんです。
でもそれは、子どもが悪いわけでも、会社が悪いわけでもないんです。私がその働き方を選んでいることに、根源的なキャリア形成の課題がある気がして、私の働き方が40歳の壁をつくっている理由の根底にあると思いました。そこで、文筆業などほかの収入源もつくってから、サバティカルタイムに入りました。
40歳の壁に当たり、挫折した人はどうする?
── サバティカルタイムに入りたい方や転職したい方は多くいると思います。しかし、なかには「40歳の壁」に直面して転職した結果、挫折を感じる人もいます。そういう方はどうしたらいいと思われますか。
尾石さん:伺っていて、「それは、挫折なのかな?」と思いました。その方は40歳の壁に向き合ったとき、これまでの働き方では育児と仕事を上手く両立できない、仕事で成果が出せないなど迷ったうえで転職を決められたのだと思います。
ずっとその壁と睨み合って、マミートラックの中で、モヤモヤして過ごすのではなく、一回、思いきって自分のやりたいことにチャレンジしてみるということ。これはポジティブな選択だと思います。ちょっとやってみたら違うなと思ったとしても、そこからまた変えていけば、違うものが見えるかもしれない。
私がサバティカルタイムに入っていても、何もしてなかったら、ただの遊んでいる人であったかもしれない。今、たまたま学びたいと思って大学院にいっているから、サバティカルタイムの結果、さらに学ぶ道を見つけたと見えるのかもしれない。
でも、それって結局「ものの見方」のような気がします。短いサイクルで見るから、そういうチャレンジが上手くいかなかったとき、挫折した感じがあるかもしれないけど、5年や10年の単位で見たら、あれがあったから、今の私があるんだな、40歳で壁にぶつかって、向き合って良かったと思えるようになるかもしれない。だから、本当に挫折なのかなって思いますね。
壁を登ることを楽しんで
── なるほどですね。そういった過程も含めて、今、そういう挫折を感じる人は壁を登っている最中なのかもしれないですね。
尾石さん:そうそう、40歳の壁を登るとき、うまくいかなくて足がはずれるときもある。または、じっとその石に乗り続けていたら、そこからまったく動いていないことになる。しがみついているだけで、ほかの足場がなくなるかもしれない。
主体的に生きるということを考えたとき、たとえ転んだとしても自分で選ぶことができている時点で、その人は主体的に生きているということだと思うんですね。
選べなくて結局そこで我慢している人も多いと思うんです。10年ぐらい経って、壁を抜けたときに、「あのとき、足をかけたから、私はここまできたんだ」と思えることが、主体的に人生を選択するということだと思います。挫折と思っている人は、もうちょっとスパンを長く考えていくといいのかもしれません。楽しんでいくといいですね。
── 40歳の壁、いろんな乗り越え方がありそうですね。
尾石さん:いろんな表現をされる方がいます。20代の頃から壁にぶつかり続けていたという方、40歳の壁を越えたら、塀の上をスイスイ歩くように壁がなくなったと感じる方、越えてみたら、あれが壁だったと感じる方。
── 壁を越えるためにサバティカルタイムは重要ですか。
尾石さん:サバティカルタイムをとることが必ず正解とは思ってなくて、私の場合は2年ぐらい休んでみないと自分のやりたいことがわからなかったんです。
すぐ見つかる方もいると思うんです。すでにやりたいことがある人もいると思います。私はやりたいことに迷いがあったので、それらを試す期間として時間を取ろうと思ったけれど、ある程度、見えている人は動けばいいわけで、サバティカルタイムをとらなくてもいいと思います。
さすがに1、2年休めない方もいると思います。でも日々の生活に流されていると、自分が何がしたいか考えている時間がないので、強制的に空白の時間をつくる、使途用途を決めない時間をとってみるというのはわずかな時間でも大事ではないかと思います。
── 今、尾石さんは、サバティカルタイムを抜けられたのでしょうか。
尾石さん:今は大学院に所属して学んでいるので、いったん使徒用途を決めない休暇は終了です。
── 将来、会社員に戻るのですか?
尾石さん:会社員にもどる道も残していましたが、今は、ヨガスタジオ(ポスパム)を経営したり、自分で物販(母と子のシェアコスメ「ソワン」)の会社をつくって、仕事も回っています。会社員に戻って、やりたいことがあるかと言われたら今は思い浮かばないので、現在やっている仕事を大きくしていければと思っています。
PROFILE 尾石 晴さん
外資系メーカーに16年勤務。長時間労働のなか、子持ち管理職を経験し、ワンオペ育児の合間に音声メディア「Voicy」で「ワーママはる」名義で発信をスタート。SNSの総フォロワー数は17万人に上る。文筆業なども行い、2020年に会社員を卒業して使徒用途を決めない学びの休暇、サバティカルタイムに入り、2022年からは大学院に進学している。
取材・文/天野佳代子 写真/PIXTA