前事務所からの給料未払い、離婚──。人気モデルとして活躍する西山茉希さんが見たドン底の景色。今再び笑えるのは、支えてくれた人のおかけだと振り返ります。

 

2017年、前事務所からの給与未払いが発覚。次女出産後、仕事のペースを落としていた西山さんにとって寝耳に水の出来事でした

スーパーのレシートを見るのがプレッシャーだった

── 著書『だいじょうぶじゃなくてもだいじょうぶ』では、2017年に前事務所からの給料未払い問題の報道が過熱し、芸能活動ができなかった時期、アルバイトをしていたことも明かされていますね。

 

西山さん:そうですね。知人の個人会社のオフィスに通わせてもらって。トイレ掃除から、テーブル拭きから雑用のアルバイトをしていました。銀行まわりとか、外の掃き掃除とか。朝誰よりも早く行って、社員の皆さんが来るのを待っていました。

 

表立って芸能活動をするわけにはいかない、複雑な期間だったので…。

 

── そうですよね。

 

西山さん:でも、子どももいますし稼がなきゃいけなかった。今の事務所に所属が決まるまで、3、4か月くらい働かせてもらいました。

 

── お子さんもいらっしゃるなかで収入が減るのは、家計的にも焦りありますよね。

 

西山さん:いちばん焦ったのが、毎日買い物するときに、スーパーのレシートを見るじゃないですか。2000円、3000円、ちょっと買ったら5000円ぐらい。それがすごくプレッシャーになってきたんですよ。

 

生きている限り、贅沢品を買うとかじゃなくても、毎日お金は消えていくんだって思って。節約をするのはいいんだけど。ただ毎日頑張っている子どもたちが「ママ、これ買いたい」と、ちょっと高いおもちゃ付きのお菓子を持ってきりして。

 

それが、ひとつ300円、400円するんですよね。そのときに、子どもを止めちゃった自分がいて。それがいちばんショックだったんです。

 

── すごくわかります…。

 

当時2人の娘さんは1歳と3歳。一番手がかかる時期でした(写真提供/本人)

西山さん:自分もカツカツしちゃってるから「そんなのいらないから」みたいに言ってしまって…。かといって、今の状況を素直に子どもに伝える努力もしていない。

 

子どもはシュンとして違うお菓子を選んできて。でも、それを買ってあげても私もうれしくない。これはダメだなと思って。

 

出ていくお金を見るだけじゃなくて、収入も感じていないと私の心はゆとりを持てないんだなって思ったので、何千円でもいいから1日稼ぎに出かけたいと思ったんですよね。

 

2017年の前事務所からの給料未払い問題の後が、一番メンタル的につらかったと当時を振り返ります

「やっぱり芸能界に未練がある」と復帰を決意

── 当時はどんなお気持ちだったのでしょうか?

 

西山さん:複雑でしたね、やっぱり。でも「この複雑な気持ちって“西山茉希”を商品化した経験があるからこそのプライドだよな」って思ったんです。

 

「そのプライドって、今本当にいる?いらない?」って考えたときに、家族や自分の人生を守るためには、今そのプライドはいらないよね、と。

 

芸能界に入る前はいろんなバイトをやってきたので、(バイトにも)すぐ馴染めるんじゃないか、と。

 

実際、数か月後にそのバイトを辞めさせてもらうまでは、「西山、来年から社員じゃない?」みたいに言ってもらえたくらい。作業内容でできることがどんどん増えていって(笑)。バイト先の社長やオーナーがとても良くしてくれてありがたい反面、今度は「早めに抜けないと、私、本当にここの社員になるかも」という焦りが来て(笑)。

 

──(笑)。

 

西山さん:「これが本業というのはちょっと違うな」と思って。ただ、そう思ったのはなぜかと考えたら、私はやっぱり芸能界に未練があるんだな、と。

 

芸能活動は、自分から「この仕事を終わらせます」と決めて終わらせたわけではない。やっぱりもう一度芸能の仕事をしたいと思って。

 

バイト先のオーナーに「私は今頭を下げに行かなきゃなのは、バイトをするためではなくて、芸能の世界に戻らせてもらうためだと思うので」と言って、休ませてもらって復帰に動きました。

生きている限り、人は人に支えられる

── エッセイのなかでも、その時期がメンタル的にいちばんツラかったと書かれてましたね。その2年後の2019年に離婚を発表されて、短期間で人生に大きな変化があるなか、どう心を保っていたんでしょうか。

 

西山さん:なんでしょうね…。でも、あのときのような景色や心情を感じることは経験しようとしてもできないじゃないですか。

 

今振り返って、あの時期にいろんなものや人を見ることができてよかったなと思ってるんです。自分の名前が売れているときには近くにいてくれた人でも、報道が出たあとは距離感ができた子とか。その子にとったら、私は価値がなくなったのかな、と感じたこともあったんです。

 

「こういうとき私は、誰に素直に気持ちを吐き出せているんだろう」と考えられたのも貴重な体験でした。

 

人に殺されるし、人に生かされる世の中なんだなって。東京だな、って。

 

すごく悲しい思いをしたけど、でもそこからまた前に進めたのも、私ひとりの力じゃなかった。

 

気負わず、自然体に。今、西山さんがまとう空気は、とても柔らかです

── 周りの支えがあったんですね。

 

西山さん:そうですね。手を差し伸べてくれた人がいなかったら、アルバイトもできなかったし、そもそもアルバイトができるほど心も立ち直れなかった。

 

生きている限り、人は人に支えられるものなんだな、と感じ、自分の人生で、シンプルに大切な人を大切にできるような状況づくりをしたいと思いました。

 

西山さんの大きな支えになった、お兄さんと弟さん。何かあったときはいつも“きょうだい会議”を開くそうです(写真提供/本人)

 

PROFILE 西山茉希さん

モデル・タレント。1985年生まれ。2005年より雑誌『CanCam』の専属モデルを務め人気を博す。13年に結婚し、2人の娘を出産。19年離婚。23年エッセイ『だいじょうぶじゃなくてもだいじょうぶ』を上梓。

 

取材・文/市岡ひかり 撮影/植田真紗美